第1話 帰郷①
翌日、僕は二日酔いというものの恐ろしさを知った。
ぐっすり寝れば体調は回復すると思っていたのだが、そんな浅い考え方は起きた瞬間に覆された。
むしろ、頭痛は寝る前よりも酷くなっている気がする。
身体を起こすことも億劫で、身体に力を入れると連鎖するように頭の中で不協和音が鳴り響く。
しかし、このまま寝ているわけにはいかない。
熟睡していた僕を覚醒へと促したのは、尋常ではないほどの喉の渇きだ。アルコール入りとは言え昨日は浴びるほど水分を摂取したはずなのに……。
違うな、アルコールを分解するためには水分が必要なんだったか。
脱水症状に陥るのではないかと思うほどの渇きに耐えられず、僕はゆっくりと上半身を起こし、襲いかかる頭痛に顔をしかめながらもふらふらと洗面台に辿り着く。
……ふぅ。
コップ一杯の水を口に含み、ゆっくりと喉に流し込む。
深呼吸を挟んで、もう一杯。これだけで随分と身体が楽になったような気がする。
時計を見ると、既に昼を過ぎていた。今日が土曜日で良かった。こんな体調では、とても大学に行くことなどできない。これまで規則正しい生活を心掛けてきた身としては、明け方まで酒を飲んで翌日昼過ぎに起きるという不摂生さに肩を落としてしまう。
振り返ると、カーテンの隙間から溢れる太陽光がワンルームの中央に鎮座する丸机を照らしていた。
昨日、布団に倒れ込む前に郵便受けから回収した二通の封筒。既に死んだはずの親友からの手紙。
──たちの悪い悪戯だ。
そう一蹴してしまうことができればどれほど楽だろうか。
僕はカーテンを開けて、太陽光を部屋へ迎え入れた。電気をつけずとも不自由のないくらいの光で部屋が満たされる。
窓の向こうに見える小学校。スポーツ少年団だろうか、何人もの子供たちがユニフォームを着て野球に興じている。僕が中学校卒業まで暮らしていた辺鄙な田舎では、小中学生を合わせたところで野球チームを二チームも作れない。
それに加えて、僕が今N市に住んでいることなど、あの田舎のどれほどの人間が知っているだろうか。
そう考えると、この封筒は悪戯と笑うには少々無理がある代物だった。いったい誰が僕に封筒を出したのか見当もつかない。
であれば、この封筒は正真正銘故人から送られてきたものだろうか? その点についても、軽々しくイエスと首を縦に振るわけにはいかない。
結局の所、この封筒に関しては不可思議である以上のことは分からない。
何故、死んだ親友の名前が使われているのか。
何故、僕の住所が知られているのか。
この二つの疑問を解消する答えを、僕は持ち合わせてはいない。
そして、差出人よりも気にすべき内容が、封筒の中に入っていた便箋に書かれていることだ。
ごちゃごちゃと回りくどい表現が多用されていたので詳しい内容は割愛するが、結局、便箋に書かれていたことはシンプルだった。
僕とかつての親友──岩永(いわなが)千太郎(せんたろう)が過ごした場所、逆居村(さかいむら)に帰省しろ、というものだ。
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