【シチュボ】真実は心霊スポットの先に

本当に行くんですか？

正式にお付き合いするって決めてから、初めてのデートですよ、分かってます？

映画とか遊園地とか水族館とか、そういうのでいいじゃないですかぁ。

ありきたり？

定番と言って下さい。心霊スポットなんかに行くより、何百倍もマシです。

いや、映画が嫌だって言ったんじゃありませんから。

ホラー映画が嫌だって言ったんです。

『死霊のだるま落とし』って、タイトルからしてデートに誘っていい映画じゃないですよね？　ねっ！

……まあ、そんなＢ級ホラー観て微妙な空気になるぐらいなら、ドライブがてら？

少しだけ立ち寄っても、いいですけど。

……本当にこの道で、合ってます？

道幅どんどん狭くなるし、景色ずっと鬱蒼とした森のままだし、どうなのかなって。

カーナビの指示通りなのは分かってますけど……はぁ、失敗したなぁ。

人がいないから廃村になったのに、霊だけは集まるとか矛盾してません？

廃村に夢見すぎなんですよ、オカルト界隈の人たちは。

なんて愚痴ってる間に、突き当たりまで来ちゃいましたね。

私は車で待ってるので、撮影でも散策でも、ご自由にどうぞ。

……なんです、その大荷物？

はい？　村中に赤外線カメラを仕掛けて、心霊現象を撮影する！？

猪ぐらいしか撮れないとは思いますけど……しょうがない、ここまでかぁ。

こっち、来て下さい。

黙ってついてくればいいんです。

ここに隠してあるスイッチを押すとですね……じゃーん！　地下への階段が現れました。

ふふん、驚きました？

ネタばらしすると、ここ、お祖父ちゃんの土地です。

私有地なので勝手に入ったら、めっ！　な場所です。

まとめサイトに載ったせいで、掃除や後始末が大変になったんですからね、まったく。

村まで繋がってますけど、降りてみます？

あはは、そんな勢いよく頷くんだ。

出会ってから１番、生き生きしてる気がするの、ちょっと複雑なんですけど。

……まあ、いいです。

地下は分かれ道も多いので、エスコートして上げますね。

はい、お手をどうぞ。

ん、どうしました？

チクッとした？　本当だ、指から血が出てる。

蜂でもいたのかもしれませんね。

……なーんて。

犯人は、これです。分かります？　まち針。

私、コスプレが好きだって話しましたよね？

裁縫も得意でソーイングセット、いつも持ち歩いてるんです。

秘伝の神経毒が、たーっぷり塗ってある針を、ね。

良い感じに痺れてきたでしょ？

ごめんね。

悪い女なんだ、私。

どうしてって言われても、これが務めだから。

目は覚めてるよ？　ずっと寝てないまである。

淫らな夢を見てたのは、そっちのほう……っと、危ない！

女の子に手を上げるなんて、最低だよ？

あんまり私を、怒らせないほうがいいと思うんだけどなぁ。

だって、あなたのこと、まだそんなに好きじゃないんだもん。

本当はね、もっとゆっくり恋人ごっこして、私無しじゃ生きられないくらい依存させてから、絶望の淵に叩き落として上げようって思ってたんだ。

その時、どんな顔を見せてくれるのか、すっごく楽しみにしてたの。

なのにさ、自分から蜘蛛の巣に飛び込んできちゃうなんて、心の底からがっかり。幻滅してます。

だから、容赦とか手加減とかは期待しないで。

儀式まで、命だけあったらいいんだよ？　命だけ、ね。

ほーら、座ったほうがいいですって。

そろそろ意識、飛びそうでしょ？

肩を貸して上げるので、存分に寄りかかって下さい。

ふふ、素直でよろしい。

恨み言も聞いて上げたいんですけど、難しそうですね。

舌まで痺れて、ろれつが回らなくなってますし。

ああ、でも残念。

あなたの声は優しくて好きだったのに、もう聞けなくなるなんて。

騒がれて、また変なサイトに載っちゃったら面倒でしょ？

だからね、唇を、ちくちくっと縫い合わせちゃうことに決めました。

私、意外と料理もできるんですよ？　食べさせて上げたかったなぁ。

キスはほっぺにチュってするので、それで我慢して下さいね。ふふふふっ。

知ってます？　死ぬ間際、最後まで残るのは聴覚だって。

だから寂しくないように、いーっぱい話しかけて上げますからね。

あらら、膝枕して欲しいんですか？

今日は甘えん坊ですね。よしよしって、頭も撫でて上げましょうね。

……ふう、やっと気を失ってくれた。

無駄に毒耐性高いの、止めて欲しいんだけど。

本当、つまんない男のくせに。

10回もご飯食べに行って、あれだけモーションかけたのに、

私から告らなきゃいけないとか、マジあり得ない。

今日だって目一杯オシャレしたのに、可愛いの一言もないとかさ。

思い出すだけでムカつく。

どうせ節穴なんだから、瞼も縫いつけちゃおっかな。うん、そうしよ。

さてと。誰か呼んでこなくちゃ。

すぐに戻ってくるから待っててね……って、なんでスカート、握り締めてるわけ？

うわ、固っ。嘘でしょ、意識無いのに。

こんな大きな手、どうやって外したらいいのよ？

……本当に、大っきな手。

さっきさ、ためらったよね？

ぶとうとして、途中でやめたよね？

思いっきり、殴りつけてくれたらよかったのに。

馬鹿みたいに優しいから、私みたいのに騙されるんだよ。

……なんでだろ、おかしいな。

涙、止まんないや。

ん、そだね。とっくに大好きだったんだね、知ってた。

あーあ、私の負けか。

だったら、お終いにしないとね、色々、全部。

ここまで燃え広がることはないと思うけど、もし巻き込んだら、ごめん。

そのときはさ、文句でも言いにきてよ。

地獄の底だから遠いかもだけど、待ってるから、ね。