第12夜

無言で歩く小梅と穂波に月夜が降り注いでいた。

「穂波・・・どうしたの?」

「・・・・。」

小梅がいくら声をかけても何も穂波は返事をしなかった。

まるで操られているような、とにかくいつもの穂波とは違うと小梅は思いながら傍を歩いていくと、橋が見えてきた。

何も言わない穂波の腕を小梅が引き止めた。

「穂波!どうしちゃったの?いつもの穂波じゃないよ・・・。」

小梅は振り向いた穂波の目から涙が零れているのを見た。

「穂波・・・・。」

「ねえ、小梅。今日は月が綺麗だと思わない?」

小梅は上を向くと、そこには雲に隠されてない立派な満月が小梅達を照らしていた。

「満月・・・穂波、まさか・・・。」

小梅は距離を取ろうとすると穂波は小梅を抱きしめた。

「穂波離して!」

「私だって!私だって小梅の事ずっと好きだったのに!」

声を振り絞って話す穂波に小梅は固まってしまった。

「分かってた。千秋さんがいる限り小梅は私の方を向いてくれないって。でも、好きになっちゃったんだもん!」

「穂波・・・。」

小梅がゆっくり離れると穂波の後ろには黒い着物に赤の布で顔を覆った紅一夜が立っていた。


「紅一夜・・・穂波、まさか・・・。」

「一緒に居られないなら、こうすれば永遠に小梅が私の物になる。」

「穂波・・・・・。」

紅一夜がゆっくりと小梅に近付いてくる。

穂波は小梅を優しく抱きしめた。

「すぐ一緒に行けるから。ごめん、ごめんね。小梅。」

目の前の紅一夜が刃を大きく振りかぶり、小梅の頭の中には千秋の姿が浮かんだ。

「千秋・・・。」

「!」

穂波の瞳から涙がこぼれたのを見ると、小梅の視界が暗くなった。


「小梅!」

小梅はゆっくり目を開けた。

目の前には千秋が心配そうな顔でこちらを見ていた。

「千秋・・・?」

「良かった・・・!」

千秋は安心したように小梅を抱きしめた。

その時、小梅は自分が気を失っていた事が分かった。

「どうしてここに?」

「今日は満月だったから何か胸騒ぎがしてね。そしたら・・・・。」

千秋の視線の先に小梅が目をやるとそこには刃を血で濡らした紅一夜と、傍らに倒れている穂波の姿が目に入った。

「穂波!」

小梅は千秋から離れ、穂波の体を抱えた。


穂波は微かに目を開けると、小梅を見つめ少し微笑んだ。

「ごめんね・・・私、やっぱり、諦められなくて、怖い思い、させちゃった・・・。」

「穂波・・・。」

「拾ってくれた、あの日から、どんな時でも優しく寄り添って、笑ってくれる小梅と、ずっと、一緒にいたいって・・・そう、思ったの。でも、バチが当たったみたい・・・。」

「嫌だ、死なないで。穂波、私もう誰も失いたくないよ・・・!」

血色がなくなっていく穂波を涙を零しながら、小梅は抱きしめた。

「小梅の大切な一番になりたかった・・・。でも、赤い糸は違う人だった・・・そんなの分かってたのに・・・。」

穂波は軽く笑うと小梅の頬に手を添えた。

「小梅だけは、小梅のままでいてね・・・・。」

「穂波・・・・。」

「大好きだ、よ・・・。」

「・・・・私もだよ、穂波。」

動かなくなった穂波を小梅は抱きしめた。


悲しそうに2人を見つめていた千秋は、その場に居る紅一夜に眼をやった。

「もういい加減に終わらせませんか?もう人が死んでいくのを見るのは嫌なんです。」

千秋の言葉に紅一夜はピクリともせず立ち止まっている。

何も言わない紅一夜に、千秋は最後の切り札のように一言付け加えた。


「私、義美さんの告白は断りました。だから、もうこんな事辞めましょう?」

「!」

薔薇の花びらが紅一夜の手から零れ、顔を覆っていた赤い布が風で飛ばされて行った。











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