第10夜
小梅が傷を追ってから1週間程たった。
千秋がはいくら待っても団子屋に来なかった。
「千秋、元気にしてるかなー。会いたいなー。」
頬杖付いてボーッとしている小梅の後ろから、穂波が小梅を茶化すように話した。
「ほ、穂波ちゃん!」
「毎日辛気臭い顔するのやめてよ。千秋さんのお店の中で、結構色々あったみたいだし。」
「分かってるんだけどさ・・・。」
小梅はいつも座っている軒先の席に目をやる。
頭の中では千秋がこっちを向いて手を振る姿が浮かぶ。
「怪我とかしてないといいんだけど・・・。」
小梅が心配そうに俯くと、穂波が小梅の頭をポンと撫でた。
「今日は善三さん特製のきつねうどんだって。」
「きつねうどん!」
キラキラと嬉しそうにしている小梅に穂波はケラケラと笑った。
「なんで笑うの!」
「本当に顔に出やすいから、小梅。」
「だって父さんの作るきつねうどん、好きだし・・・。」
少し恥ずかしそうにしている小梅を見て、穂波は笑みを浮かべ、ボソッと言葉を溢した。
「そのままの小梅で居てね。」
「え、何か言った?」
聞こえていなかった様に首を傾げた小梅に穂波は特に何も言わず、注文を取りに行った。
小梅が療養している間、千秋の茶屋の舞妓と芸者が亡くなった話を聞いた。
亡くなった芸者が紅一夜の服を着ていた事、そこに千秋と義美さんが一緒に居た事。
心がちくちくと痛むような気がした。
「千秋に会いたいな。」
「私なら居るけど。」
小梅がボソッと言った言葉に懐かしい声が返事をした。
「千秋・・・。」
小梅の目線の先には優しい笑みを浮かべる千秋が居た。
「小梅。元気そうでよかった」
千秋が言いきる前に小梅が勢い良く抱きついた。
その二人を見て、穂波は少し悲しげに微笑みながら、洗い場に戻った。
その夜、千秋は久しぶりに小梅の家に泊めてもらう事になった。
「今日は三日月だから、大丈夫かな。」
「そうだね。曇りで月もあまり見えてないし。」
千秋はそう言うと、小梅を優しい眼差しで見つめた。
「千秋、私の様子見た後に・・・。」
「ええ。紅一夜が本当に居たなんて。」
「でも千秋が無事で本当に良かった。亡くなった人には悪いけれど。紅一夜もいなくなったことだし。これで安心して千秋に会えるんだね!」
嬉しそうに言う小梅に、千秋は少し苦い顔をした。
「千秋?」
「終わりじゃない。」
「・・・終わりじゃない?」
小梅は不思議そうに千秋を見つめた。
「紅一夜だった子が最後に言ったの。紅一夜は一人のものじゃない。誰もが紅一夜の気持ちを持って生きている、と。」
「一人のものじゃない・・・まだ紅一夜は居るってこと?」
「信じたくはないけれど、その可能性はまだ残っているんじゃないかしら。そして、二回も襲われて生きている私達は、紅一夜にまた襲われる可能性は高い。」
「そんな・・・じゃあ、今日終わったらまた千秋とは会えなくなるって事?」
悲しげに言う小梅を千秋は優しく抱き寄せた。
「ち、千秋!?」
「私はだから今日ここに来たの。小梅に私の思いを伝えるために。」
「千秋・・・?」
千秋はより小梅を抱き寄せると、優しく口づけをした。
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