第9夜
橋の下で重なるように亡くなっていた美紀と杏の姿が朝方見つかったと、お茶屋でも話が持ちきりだった。
黒い着物に赤い布を巻いていた杏の姿を見て、紅一夜は杏であったと皆は悲しい気持ちよりも犯人は死んだという安心感にも包まれていた。
美紀達の話をしている人達を見ながら、千秋は杏の言っていた事を思い出していた。
「紅一夜は1人のものじゃない。誰もが紅一夜の気持ちを持って生きているの。」
千秋はあの時の杏はいつもの杏ではない、目か血走り、悲しい顔が頭にあった。
「紅一夜はまだ存在する?」
千秋がボソッと呟いた時、岡っ引きがお茶屋にバタバタとまた入って来た。
「お登瀬さん!お登瀬さん!」
岡っ引きが叫ぶように、ここの長であるお登瀬を呼ぶと、うるさそうに出てきた。
「なんだい、もう杏と美紀の話は終わっただろう?」
「違うんです!実は・・・違う茶屋の舞妓が昨日また柳の下で・・・。」
岡っ引きの言葉にお登瀬は驚いた顔をした。
「紅一夜は杏だったんじゃないのかい?」
「だと思ったのですが、その舞妓の上にも薔薇が置かれてて。」
「一体なんだってんだい・・・!」
「千秋ちゃん。」
千秋が岡っ引きの言葉に他の舞妓が不安にかられているのを見ていると、後ろから声をかけられ、振り向くと充江が立っていた。
「充江さん・・・。」
「少し話、いいかしら。」
言われるがままに、千秋は充江について行った。
「ここの景色は変わらないわね。あんなことがあったのに。」
千秋は充江と一緒に茶屋の屋上のちょっとした座敷に来た。
千秋は充江に促され、座敷に設置されている椅子に腰かけた。
「義美さん、体調大丈夫ですか?」
「ええ。少し熱が出ていたけど。薬をのんで今は眠ってる。」
そう言いながら、充江はお茶を千秋の傍に置き、自分も隣に座った。
「義美分かってはいたみたいだけど、相当ショックみたい。」
「義美さん、私を被って杏さんが美紀さんを誤って殺すところを見てしまったので体調壊すのも無理ないです。すみません。」
千秋が申し訳なさそうに言うと、充江はふっとまたいつもの様に笑みを浮かべた。
「義美らしいわね。自分も弱いくせに。あの子は強そうで繊細なの。」
「あの義美さんが・・・。」
「だから、放っておけないの。傍にずっといたから。あの子、犯人が杏ちゃんかもってなった時、千秋ちゃんが外に居るって知った途端、止める前に茶屋を飛び出して行ったのよ。」
少し寂しそうに充江が呟き、淹れたお茶を飲んだ。
「義美があなたの好きだって事も、多分隠してるようだけど、バレバレなんだから。」
「充江さん・・・・。」
ふうと息をつくと、充江は千秋の方を真剣な顔をして見つめた。
「お願い。あの子が傷付く前にちゃんと思いに返事をしてあげて。私もそうしてくれないと、このまま義美と都合の良い関係でいたくないの。もっと、この先を求めてしまう。」
「・・・・はい。」
千秋の困った様な返事に笑みをうかべ、充江は立ち上がった。
「まあ、難しいわよね。直属の先輩なんだし。でも私、義美をあなたに譲る気はないから。」
充江の顔はいつもより冷たい声で言うと、淹れたお茶を飲み干した。
「充江さんはずっと前から義美さんの事を?」
「ええ。あの子は冗談半分で応えてくれてるけどね。昔からの付き合いって、悲しいわよね。全てがちょっかいになるから。」
「充江さん・・・。」
「そろそろ戻るわ。義美の事心配だし。」
千秋の分の茶碗を盆に置き、屋上から出よする充江の背中に千秋は話しかけた。
「杏ちゃん言ってました。紅一夜は1人じゃない。誰もが紅一夜の気持ちを少しでも抱えてるって。」
千秋の言葉に充江は少し足を止めたが、特に何も言わずその場を去っていった。
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