主人公が自分が小説の中にいると気づくという小説を書く主人公は自分が小説の中にいることを気づいていない

十八万十

第1話

目を覚ますと、見慣れない部屋にいた。


 木造の机、本棚、窓から差し込むやわらかな陽光。

どこかで見たことがあるような光景。いや、正確には読んだことがある——


「……あれ?」


 僕はゆっくりと起き上がり、部屋を見渡した。驚くほど整理整頓された部屋。その隅には、黒いインク瓶とペン、そして厚手のノートが置かれていた。


 胸騒ぎがした。ゆっくりとノートを開く。そこには、見覚えのある文章が綴られていた。


『目を覚ますと、見慣れない部屋にいた。』


 全く同じ一文。まるで今の僕の行動が、そのまま記されているようだった。


 背筋が凍る。慌ててページをめくると、次の文章が書かれている。


『彼はノートを開き、自分の行動がすべて書かれていることに驚く。』


 僕は思わずノートを閉じた。心臓が早鐘を打つ。まさか……


「これは、僕が書いていた小説……?」


 ありえない。けれど、信じたくなくても、目の前に証拠がある。


 僕は、僕自身が書いていた小説の中にいる。


 ——そんなことが、あり得るのか?


 混乱しながらも、僕は再びノートを開いた。そして、震える手でペンを取り、試しに一文を書き加えてみる。


『彼の目の前に、一冊の赤い本が現れた。』


 次の瞬間——


 目の前の机の上に、赤い本が現れた。


 ぞくりとする。これは、ただの偶然か?


 恐る恐る本に手を伸ばし、表紙を開く。


『彼は赤い本を開き、戦慄する。そして、気づいていない——彼自身もまた、誰かに書かれた物語の登場人物であることを。』


 視界がぐらりと揺れた。


 僕が書いていた物語。その中で、僕が小説を書き、それが現実となる。しかし、その僕自身もまた、誰かに書かれた存在だとしたら——


「……嘘だろ?」


 ふと、ノートの最新のページを見る。


『彼はノートの最新のページを見る。そして、そこに書かれている一文を読んでしまう。』


 僕の視線が、そこに吸い寄せられる。


 そして、そこにはこう書かれていた。


『——次の瞬間、彼の物語は終わる。』


「待っ——」


 僕の視界が、真っ暗に閉じた。




「はぁ、この小説ようやく書き終えれたわ。よし、そろそろねようかな。」


僕は深い眠りについた。



———目を覚ますと、見慣れない部屋にいた。

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