第4話 エピローグ
エピローグ
その夜ななみは、自分の弱さや苦しさを消し去るために、隼人が元に戻ってくれるように願った。これ以上隼人に惹かれないようにするために、まがい物の人形だとしても、願わずにいられなかったのだ。
数日後、ななみはデザイナーズマンションにまた引っ越し業者のトラックが止まっているのを発見した。
デジャブかと思うほど、同じように隼人が現れ、ななみに声をかける。だが、違っていたのは隼人の口数と態度だった。
「やぁ、ななみ。いろいろ今までありがとう。俺さ、もっといいところに引っ越すことにしたんだ。ななみに会えて本当にうれしかったよ。今度もよさそうなレストランを見つけておくから、一緒に食事しよう。あっ、そういえば、あの願掛け人形は一度願いを叶えたら、他の人に渡さないとよくないことが起きるらしいよ。もし、いらなければ俺が引き取るから」
あなたは誰? といいたくなるような豹変ぶりにななみは絶句した。
「まさか、あの願掛け人形が……ちょっと待っていて。今持ってくる」
ななみは急いで部屋に行き、人形を持つと隼人のところに飛んで戻った。
「もう願いは叶った?」
「う、うん」
隼人の目が伏せられ、唇がわずかに上がり、寂しげな表情を作った。かと思うと、パッと顔をあげた隼人は明るく笑っている。
「よかったな。じゃあ、元気で」
引っ越しトラックがスタートして、隼人が自分の車に乗り込む。下げられたウィンドーから隼人が手を出して振る。明るい笑顔を崩さずに。
車が動き出す。ななみは大きな喪失感を覚えて、違うのと叫んでいた。
「よくないよ。願いなんか叶わなければよかった。今の隼人に惹かれるのが怖くて、また捨てられるのが怖くて、二度と好きにならない方の隼人になればいいって思ったの」
違うと叫んだ途端にとまった車から隼人が下りてきて、ななみを力強く抱きしめた。
ななみが願掛けの人形に触れると、願いが録音されて隼人のスマホに転送されると聞いたのはそのあとだ。名前が隼人ではなく鷹也であることと、死にかけている弟の最後の願いを叶えるために、ななみに近づいたことを鷹也から聞いて、ななみは非常にショックを受けた。
それでも、鷹也の真剣な思いは十分にななみに伝わった。
君を思っている、昔も今も。特に今は君に惹かれていると言った鷹也の言葉の意味がよく分かったから。
隼人に会いに行って、自分から許すと言おう。過去を清算して、鷹也と二人で歩き出せたらいいとななみは希望に胸を膨らませた。
どうか願いを取り消して マスカレード @Masquerade
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます