第3話 帰り道〜電車で〜

電車の中。俺と華乃は、いつものように並んで座っていた。でも、いつもと違うのは——俺たちはもう、お互いの気持ちを知っているということだった。


「……なんか、まだドキドキしてる。」


華乃が小さな声で呟く。


「俺も。」


正直、今でも信じられない。華乃が俺のことを好きだと言ってくれたことも、それに俺がちゃんと伝えられたことも。


ふと手元を見ると、華乃の指先が俺の袖を軽く摘まんでいた。俺が気づいたことに気づくと、華乃はぱっと手を引っ込める。


「……ごめん。」


「別にいいよ。」


俺はためらいながらも、自分の手をそっと伸ばして、華乃の指に触れた。


「……え?」


「さっき、手繋いでたし……いいかなって。」


華乃は一瞬驚いた顔をした後、ふわっと笑って俺の指を握り返してきた。


「……うん。」


電車はゆっくりと次の駅へ向かって進んでいく。窓の外には夜の街の光が流れていて、それをぼんやりと眺めながら、俺はこの時間がずっと続けばいいのにと思った。


「ねぇ。」


「ん?」


「今日、すごく幸せ。」


華乃は俺の肩にもたれながら、ぽつりと言った。


「俺も。」


俺たちの電車は、いつもと同じルートを走っているはずなのに、今日はどこか違って見えた。


好きと伝え合った後の帰り道は、いつもよりずっと、温かかった。

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