第4話

「まず右前方の機銃をハックして!」

「オッケー!」


 あぁ、楽しい。あの頃に戻ったみたいだ。私が裏工作をして、あなたが前線を仕切る。よく取れたチームワーク。


「よし、奪えた!マルチロックと自動照準、あとFF解除!NSOに撃ちまくれ!」


 機銃の音。一発一発が殺傷能力を持つそれを相手の身体に何発も打ち込む。弾けた肉が飛ぶ。血が散る。良い、良いよ、キャレ。


「上からも来やがった。仰角上げて!グレネードに切り替える!」


 あの時が、過去が戻ってきた。なんて勿体無いことをしたんだ。この興奮を一時の探究心で壊すなんて。


「楽しいね、キャレ!最高だよ!」


 爆発音、衝突音、叫び声、泣き声。甘美な音だ。平和な世界ではフィクションでしかないそれが此処ではリアルだ。


「後方六時方向、新手だ!」

「あいよ!」


 私が指示する。キャレが撃つ。落ちる機動車。以前の事故とは比べ物にならない被害。でも、もう少し我慢して。私が今楽しむ為に。


「ノラド型重装甲車だ。外からじゃ無理だ。シーシャ!」

「了解!接触ケーブルを出す。少し近づいて!」


 大仕事だ。でも簡単。ガレド型強襲車とシステムは同じ。隙間を見つけてしまえば……、ほら、乗っ取れた。


「あっちに乗り移ろう、キャレ!」

「もうやっちゃったの⁉︎さすが!」


 ドアのロックを外して銃座に座ってるヤツに飛び移る。格闘戦なんて洒落臭い。目玉にタバコを押し付けて、電撃を浴びせて一撃。そうしたら死ぬ。銃を奪ってところ構わず撃つ。ちょっと痛いけど人間よりは頑丈だ。なるべく計器は壊さず、命だけを奪え。


「どーも、NSOの方々。ちょっとこの車貸してくださいな。」


 楽しい。なんて楽しいんだ。こんなに楽しいなら毎日やりたい。ハマってしまいそうだ。本当に、楽しい。血塗れの床、粘り気のある肉、その感触、リアルだ。


「……助けて。」


 パンッ


 やめろよ。助けて、助けてってなんだよ。お前たちだって私の仲間を散々殺したじゃないか。いや、そんなの建前か。殺すのは……楽しい。あぁ、クソ。


「シーシャ、もう引き上げよう。十分だよ。これ以上は……。」

「五月蝿い。あんたがぶちのめすって言ったんだ。だったら最後までやるよ。」


 コクピットに移って、銃座を動かして、敵を撃って、殺して、関係の無い人々に被害を出して、恨みを買って、憎しみが広がって、それで、それで。


 あれ、私は何してるんだ?


「シーシャ!」


 掴むんじゃないよ、鬱陶しい。いいところなんだ。邪魔しないでくれ。離せ、離せよ。お願いだ。


 パァンッ


「痛ッ!」


 あぁ、間違えた。やめて、その顔はやめてよ。私が悪かったから。もう終わりにしよう。殺しはしない。だから、私を拒絶しないで。


 ガンッ


 なんだ、何かぶつかった。サナド型?本隊が来たか。


「逃げようシーシャ、やりすぎたんだ。私が悪かったから。」

「……わかったよ、キャレ。」


 逃げる。逃げよう。何処に?あぁ、亡命するのか。嫌だなぁ。でも仕方ないか。キャレと一緒に居られるならそれでいい。


 でも、もう無理だろうなぁ。

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