第52話 三人と三人娘



エイリーンからみっちりと説明を受けた三人は、くたびれ果てて食堂へと向かった。


エルフと人間の対立から調和への時代変遷。

その昔交わされた盟約。

共和国としての政治体制。

人間が歩み始めた進歩への道。

近年起きている自然の異変。

昨今の騒ぎ。エルフと人間の協調関係を崩す動き。


そのすべて―――を説明された三人は、もう頭がいっぱいだった。

この旅路でのエリックのぼんやりとした説明にもどかしい思いを抱かないではなかったが、

これだけ圧倒的な情報量を一度に頭に詰め込まれると……

少なくともアレンはぐったりしており、全体像を把握しているはずのエリックすらぐったりしている。

しかし、フォトナは重い頭を抱えながらも目を輝かせていた。


「面白かった……深い、深いぞエルフェイム近代史……こ、これから昼食なのだろう、な!

 脳が…私の脳が、栄養を必要としている……

 食うぞ~~~!!!!」

「お前の脳みそってマジで筋肉で出来てるんだな………」


案内された食堂にて、豪華なエルフェイム料理が出された。

野菜、肉、魚………大皿にてんこ盛りにつけられている。

スパイスもユニークで、グリニストよりもあっさりとしている感じだが、鼻をくすぐる独特の香り。


これもまた、久しぶりのちゃんとした食事。

貪るようにかきこむフォトナと渋々ナイフとフォークを動かす三人に……


突然扉が開き、今度はきゃああああという黄色い声に襲われた。


「やーだ、もー、帰ってたのなら言ってよう!!」

「ほんとほんとっ、やだかわいい子連れてるじゃない」

「あ~~お魚食べてる~~できるのぉ~~?」


エリンに駆け寄ったのは、美しい三人の姫達。

姦しいとは、このことである。

エリックの目と口が真一文字に結ばれた。

「………エラ姉様、エルシー姉様、エマ、お元気そうで何よりです」


エイリーンとよく似た風貌の三人娘だが、雰囲気がここまで違うとは。

きゃっきゃと周りに座り、フォトナとアレンはすーっと退いた。

既にエリックは撫でくり回されているし、

フォトナとアレンとの関係について根掘り葉掘り聞かれているし、

肉を切り分けられ魚の骨を取り除かれている。あ、あーんまでされて……


フォトナは旅路で(甘ったれさんめ…)とエリックにやれやれと思った何度か…いや何十回かの記憶をそっと思い返した。


これじゃ、仕方ないよな―――


アレンと顔を見合わせてから、二人は無言でエルフェイムの美食を味わうのだった。



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五宝国物語 —竜の双眸と亡国の姫— @kuzeikure

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