第47話 夜と襲撃



リバサイド拠点に到着すると、無料で開放されているのだろう簡単な小屋があった。

足を踏み入れると結界の気配も感じる。中にはベッドが四台あり、暖炉も備え付けられていた。食料はないが、十分に休めそうだ。

これからの道はより森が深くなる。身体を休めるべく、三人は早めに眠った。


―――しかし、夜中、エリックの叫び声でフォトナは起こされた。


「フォトナちゃん、起きて、フォトナちゃん!!」



フォトナは飛び起きた。小屋の外から異様な殺気を感じる。


「ゴブリンが来たんだ。こんなところに来るはずないのに……

 アレンが外で牽制してくれてる。最低限の荷物だけ持って逃げよう」

「アレンが!?」


フォトナちゃん!と止める声を無視して、フォトナは外に飛び出した。


ゴブリンだ。実物は初めて見た。

見渡すだけでも20体はいようゴブリンが、小屋を守るように立つアレンを取り囲んでいた。

尖った耳に狂暴そうな目を血走らせている。石棒を持つ者もいる。

大きさはフォトナの腰あたりまでしかない小さなものまで大小様々だが、特に体の大きなものは背の高い男性の身長を優に超し、筋骨を強張らせている。



そのうち一体、特に大きな―――リーダー格なのだろうゴブリンが、ヴウウウと唸りながら、前に進み出た。

その体躯は見上げるほどだ。

アレンに近づくにつれ、緊張状態がみるみる高まっていく。



「やろうってのか?いいぜ……」


アレンは手にした剣に火炎を滾らせた。


「ダメだアレン!あとどれだけいるかわからない」


「全部燃やせばいいだけだろ」


「ちょっとぉ~!森まで燃やす気ぃ!?」


よいしょ、よいしょと三人分の荷物を入口まで運ぶエリックが抗議した。

がさごそと中の食料を取り出してから、小さい荷物をフォトナに投げた。


「ふふん、僕にいい考えがあるの。二人は合図したらエトレンテの方まで走ってね。

 一本道のはず。万が一迷ったら、母月が沈む方へ行くんだよ。

 いざとなったらアレンを身代わりにするんだ、フォトナちゃん」

「なんでだよ。いや待て、お前は」

「ぜーったい大丈夫、すぐに追いつく。いくよっ」


フォトナとアレンがいる小屋の前から、森の入り口までは走ればすぐだ。

エリックは手に抱えられるだけの食料を持ち、アレンの後ろに立った。

身体のバランスを全く崩すことなく、そのまま浮遊する。


建物で言えば三階の高さまで、エリックが浮かんだ。

緑色にふわりと光り、ゴブリン達の視線を集めている。


「さあ、行って!」


次の瞬間、エリックが抱えた食料を空中からゴブリン達の中心に投げ出した。


ゴブリン達が一斉に食料に目掛けて突進する。

背後に控えていたのであろう十体程度のゴブリンも釣られて出てきた。

ヴオオオオ!と雄たけびを上げるものまであり、大混乱だ。


「ふふ、やっぱり。お腹が空いてたんだね」


エリックの声を合図に、二人は走り出す。フォトナからアレンが荷物を奪い、森の入口へと駆けた。

食料の奪い合いが始まっているゴブリン達が気にする様子はない。


「ん-……これくらいかな………」


エリックは右掌にバチバチと光る球を生み出し、それが小さくまとまるにつれて目も眩むほどの輝きを放ち始めた。


「アレン、すぐ追いつくから、スピードは落とさず走り続けて!」

「エリック、お前は―――!」

「あはは、もうこのあたりは僕の庭だよ。

 フォトナを、頼むよ!」


ウィンクして不敵に笑ったエリックは一度閉じた目を開くと、掌をゴブリン達に向けた。


雷霆ザップ


ドオオオオオオン!!!!


密集したゴブリン達に雷が落ちた、ように見えた。

一帯を貫いた雷にゴブリン達が痺れるように崩れ落ち呻いている。


その音に紛れるように、フォトナとアレンが走り出す。

「アレン、エリックをっ」

「指示に従うぞ。俺達が心配するのは足手まといになる方だ。

 ったく、なんだよあの桁違いの魔力は……」

嘆息するアレンは、どこか悔しさを滲ませているように聞こえる。


二人は月明かりを頼りに深い森を駆けた。思いがけない、真夜中の逃走だった。

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