第44話 三人の旅立ち



フォトナの決断に大喜びしたエリックだが、アレンの同行にはぶぅぶぅ言った。


「えぇ~~アレンも来るのぉ??」

「何が悪い」

「このお邪魔虫~~。そんなにフォトナちゃんラブなわけぇ??」

「な!?言わせておけばこのクソガキ……!!」

顔を真っ赤にしたアレンが殴り掛からんとするのをフォトナはまぁまぁ、と止めた。


「心強いのは、そうだろう?なあ。安全とは限らないわけだし」

「それはぁ……そうだけどぉ……」


渋々同意したエリックと共に、三人はさっそく荷造りをし、翌朝の出発に備えた。

フォトナがエルフェイム共和国に旅立つのは翌日だった。

行くなら早い方がいい。



―――翌朝のまだ朝靄のかかる頃、こっそり王宮を後にしようとする三人を、一人の男が呼び止めた。


「行くのか、アレン」


レオン王子がその美しい長髪を揺らしながら三人に近づいた。

気まずそうに目を逸らすアレックをよそに、エリックに問いかけた。


「エルフェイムの客人よ。どのルートを使うつもりだ」


「それは、ええと……」


「お前らが使ったのは第一ゲートだ。

 第二ゲートを使え。エルフェイムとの国境にはそちらが早い。許可はとりつけてある。

 王位継承の話はこちらで進めておく。このようなわがままはそれまでだぞ」


「レオン……様!」


レオン王子が、三人に手短に道筋を伝えた。


「男には旅立たねばならん時がある。それがこいつにもようやく来た。そういうことだろう。

 フォトナ・アストリア」


「はい」


「愚弟を、頼んだぞ」


ふ、っと笑ったレオンは、すぐに踵を返した。

フォトナにはなぜか、出会った頃の―――意地悪に見えていた―――アレンが脳裏に浮かんだ。


「なあ、アレン、エリック」


フォトナは二人に向き直った。


「私はもしかしたら、役には立たないかもしれない。

 現に、魔力は全然扱えていない。二人に比べれば一般人かそれ以下だ。

 ……正直さ、わからないんだ。

 私が、セレニアの光の巫女?異変の鍵?

 アレンの魔力復活がうまくいったのだって、なんかの間違いなんじゃないかって。今でもそう思ってる。


 ……それでも、いいか?

 何の力にもなれないかもしれない。

 そんな、役立たずな私でも。行って、いいのか?」


役立たず、と自分で口にしてから胸がズキリとした。

ずっと考えていたことだった。アレンと共にイグニストに旅立った時とはまた別の、重みが胸に去来する。

あの時は、必死だった。しかし今は、自分でわざわざ選んでいる。

これはもしかしたらこの二人を、エルフェイム共和国の民を、落胆させに行くのかもしれない。

“知りたい”一つで勢いに任せ、突き進んでいい道ではないのかもしれない。


「フォトナちゃん。ごめんね」


エリックが珍しくまじめな顔をして、フォトナに向かい合った。


「背負わせるつもりがゼロだった、わけじゃないね。それは嘘になるよ。

 でも、全部を君に押し付けるつもりは絶対、ないから。

 僕の助けて、に応えてくれた。僕の国に来ようとしてくれた。

 それだけですっごく、うれしいんだよ。

 道中に何が起きようと、必ず僕が、守るから」


凛々しいエリックは、王子の顔をしていた。

咄嗟にアレンがはぁ!?と声を上げる。


「お前に何を守れるって??」


「もうー、アレンのやきもちやき!」


走り出したエリックを、貴様!!と追いかけるアレン。

あはは、と笑いながらフォトナがそれについていく。


三人の旅路が、始まろうとしていた。

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