第43話 二人と少年
とりあえず、フォトナの滞在する洋室にエリックを匿い、フォトナとアレンは話を聞くことにした。
一応他国の王族が王宮に入ったとあっては相応のもてなしを受けざるを得ずゆっくり話せない。
テーブルにはキッチンからくすねてきた菓子と紅茶が並んでいる。
洋室のソファにフォトナとエリックが向き合って座り、アレンは出窓で腕を組んで話を聞いている。
聞くと、エルフェイムで異変が起きているという。
ファルベン王都の学園から、フォトナ達と同じイグニスト王都の広場に
「大変だったんだからぁ、もう。
二人がまだイグニストの王宮にいるって聞いて、急いで手続きを済ませてさぁ。あれ面倒くさいねぇ。
まぁ、僕らエルフェイムはナメられてるからそんな厳しい警備はつかなかったんだけどぉ……」
「エリック、身体は大丈夫なのか?」
「おい、なんか体に変な…こう違和感とかないのかよ。まさかスパイじゃないだろうな」
「そんなの、知らないよう。フォトナちゃん見た瞬間から覚えてないんだってばぁ」
ぐちぐちと文句を言う割には、菓子を齧る手が止まらない。
ふぅーっと紅茶を飲み終えると、今度は真剣な顔で再びフォトナに向き直った。
「フォトナちゃん、エルフェイムが―――僕の国が、大変なんだ。
なんでも急な異変が起きててぇ、魔獣が狂暴になっちゃってるらしくってぇ……。このままだと国の皆が危ないんだって。
僕の国の、なんていうか……すっごい強くて怖いおばあちゃんがいるんだけど。その人がフォトナちゃんを連れてこいって。
僕一人ではもう、どうにもできないんだって……」
しゅんとしたエリックが肩を落としている。
状況を呑み込めないフォトナが問い返した。
「私が、エルフェイム共和国に?行けばいいのか?」
「フォトナちゃん!うん、そうなんだ!
セレニアから来た珍しい子がいるんだって話してて、フォトナちゃんが、国の乱れを治める鍵だって。それで―――」
「フォトナ!」
出窓に佇んでいたアレンが割って入った。
「行くべきはずないだろう。
ただでさえ、王宮の近くだと油断したらさっきのザマだ。
それも、おかしなことが起きている国に行けって?冗談じゃない。危険が過ぎる。
そこまでお前がしゃしゃり出る道理がどこにある」
「それは……」
エリックが反論した。
「フォトナを連れてこいって言ったばば様は、うちの賢者なんだ。
フォトナちゃん、魔力を得たのはいいけど、悩んでることはない?
うちのばば様なら、すっごい物知りだから、何か力になれるかもしれないよ」
―――図星だ。
「そもそもどうしてイグニストに連れてこられたのさ。アレンがお願いしたんじゃないの?
僕もフォトナちゃんの力を借りたいって思うのは、そんなにダメなこと?」
しかし、アレンと経験した不思議な経験を、どこまで話していいものか。
沈黙に耐えかねたフォトナが別の話題を切り出した。
「そういえば、どうやってここまで来たんだ?
「え?あんなの巻いたよ。ちょろかった!」
まったく、このガキは……と嘆息するアレンをよそに、ふふん、とエリックは得意げだ。
ちょうどドタドタと外で多くの男達が駆け付ける音がした。
ゴンゴンと荒々しくノックされ、返事を聞くまでもなく失礼します!とイグニストの逞しい警備兵がドアを開けた。
「あぁ~やっぱりここに!いたぞ!!
エリック王子、困りますー!!ほら、ちゃんと正規の手続きを!」
「え?ちょっと、やだ~!!フォトナちゃんと一緒にいるの~!!」
自由奔放というより―――ここまでくるとわがままな少年である。
無理やりエリックが連れ出された騒ぎの後、部屋には二人が残された。
アレンが口を開いた。
「……どうするつもりだ、フォトナ。これ以上、危険を冒すのか」
「ああ……」
困っている友人を助けたい思い。
しかし、あの時の不気味なエリックが想起させた……パーティーでの恐怖。
忘れたわけじゃない。
「それでも」
フォトナはアレンを見上げた。
アレンの表情は、ずっと険しい。
しかし今ならわかる。この人は、不器用にずっと、自分を心配してくれている。
「それでも、その危険の先に、お前の力を蘇らせることができた」
「フォトナ」
「知ろうとすることを―――やめたくない。
これはたぶん、セレニアのためじゃない。自分のためだ」
ぎゅっと拳を握り締めるフォトナを、ただ、アレンは見つめるほかなかった。
「自分が何か―――知りたいんだ」
「……わかった」
長い息を吐いたアレンが告げた。
「ただし、俺もついていく。それが条件だ」
「アレン!?」
「もうあんな思いはごめんだ。道中襲われる可能性もあるだろう」
「そんなの絶対……」
「俺か?そりゃ止められるさ。でも
「しかし……王位は……」
「そんなもの」
ふっとアレンが笑った。
「どうせ時間がかかる。兄上にはこれからあの
一筋縄ではいかないさ。その間、俺が自由にして何が悪い」
今度はフォトナが、見つめるしかない瞬間だった。
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