第40話 兄と弟
岩山の自然に構成された広場となっている広大な空間。穏やかな日差しとは裏腹に、二人の覇気で満ちていた。
アレンの周囲は、地面から噴き出す魔力の炎にめらめらと赤く染まり、空気を震わせる熱気を帯びている。
一方、レオンの魔力は彼の身を囲む環状の光に収斂されていた。静謐な殺気を孕み、身じろぎもせず銀色に輝く大剣を構えている。
先に斬りかかったのはアレンだ。彼が握る剣からは刃の先まで真っ赤な魔力が漲り、鋭い閃光を放ちながらレオンへと襲いかかった。
「アハハハハハハ 余裕綽々かよお、おい!!!」
レオンは、剣の切っ先を変え少し後退ったのみで猛攻をかわした。かすめた剣同士が炎を噴き上げ熱波を発する。光沢を帯びた大剣が、アレンの炎の刃を迎え撃った。
間合いに入ったアレンが怒号を響かせた。
「
レオンの環状内、地面から業火が空間を割いた。熱風に吹きすさんだ後のレオンには傷一つなく、氷のように煌めくバリアがその身を覆っていた。
アレンはニヤリと笑うと、そのまま何度も剣を打ち付ける。
激しい金属音と炎の咆哮が響き渡る中、アレンとレオンの剣は何度も激しくぶつかり合った。
「母上が死んだのは誰のせいかも!あの男の目論見も!」
レオンは俊敏な身のこなしでアレンの攻撃を躱すが、すかさずアレンが炎の刃を次々と繰り出す。しかしレオンの剣技は次第に重厚さを増し、 一撃一撃に込められた殺気がアレンの身をも震わせた。
「全部……全部……!!知っていたくせによお!!!!」
息つく暇もなく続く攻防。アレンは、レオンの攻撃の隙を突こうと試みるが、レオンの精緻な構えがそれを許さない。
彼の動きは、まるで機械のように隙がない。体中から魔力を放出させ続けるアレンに一抹の焦燥が訪れた、その時だった。
「
レオンが詠唱すると、その剣が黒曜石のように光り出した。
「……はしゃぎすぎだ、ガキが」
レオンが大きく剣を右に振りかざす。
轟音と共にアレンの身が岩壁に打ち付けられた。
「アレン!!」
フォトナの絶叫も空しく、岩壁をへこませる衝撃波で打ち付けられたアレンはそのまま岩にめり込んでいく。
明らかに炎に依らない高度な魔力操作。岩はアレンの衝撃で崩れ落ち、大量の岩屑が舞い上がった。
しかし、歯を食いしばらせたアレンはさらに体中の魔力を奮発させ、叫んだ。
「っるせええんだよおおおお!!!」
血走る目が異様な輝きを放つ。地面に降り立ち、落としたボロボロの剣を拾いもしないまま疾風のようにレオンに突進した。
「
アレンの周囲から出現した炎の雨が水平に降り注ぐ。流星群のように、広場を焼き尽くさんばかりの勢いでレオンを襲った。
レオンは咄嗟にバリアを張ったが、そこにアレンは素手で殴り掛かった。
うおおおおおお!!!
レオンが剣先から放つバリアに拳一つで挑むアレン。もう片方の五指が血を滲ませながらバリアに食い込み、その掌から吹き上がる魔力が壁を今崩そうとしていた。
次の瞬間、レオンの大剣は、金属音の悲鳴を上げてバリアごと砕け散った。
無防備になったレオン。思わずたじろいだその瞬間、アレンの全身に沸き立つ魔力の炎が最大火力を発した。
「くたばれ、クソ兄貴が!!!!!」
アレンは顔面に強烈な一撃を叩き込んだ。 レオンは吹き飛ばされ、地面に倒れ込む。
一瞬うずくまった レオンだったが、すぐに立ち上がった。口から流れる血を淡々と拭う。
再びレオンに環状に現れた魔力が、コオオオと静かに燃える青い炎と化した。
構わず再度殴り掛かったアレンの拳を片手で止め、その場に投げ飛ばした。
「
身体の真下から巨大な炎の形をした氷が燃え上がり、アレンの体躯を突き刺し―――
「……
爆発した。
すべての魔力を拳に青白く集中させたレオンがゆっくりとアレンに近づき、髪を掴んで起き上がらせた。
「お前は………ずっと…………」
轟音と共に、アレンの顔面に一発、叩きこんだ。
「愛されてただろうが!!!!」
吹き飛んだアレンは、今度こそ起き上がらなかった。
周りにあれだけ滾っていた魔力も完全に失せている。
駆け寄ったフォトナが頭を抱き上げた。まだ息はあるようだ。
「魔力切れだ、バカが」
吐き捨てたレオンも、その場に座り込み、フゥ―――と長い息を吐いた。
三人を、もう随分と傾いた日差しが茜に照らしていた。
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