第39話 宝珠と怒り


「フォトナ、フォトナ!大丈夫か、フォトナ」


声に目を覚ますと、フォトナは自分が倒れこんでいたことに気づいた。

「あ、ああ―――アレン、大丈夫か?」

「ああ、ああ!大丈夫どころじゃない……」

緋色の瞳がメラメラと燃え上がるように光り輝き、不気味な笑みに思わずフォトナは身がすくんだ。

「アレン、お前―――」

「すっげえ……いい気分だあ…………ああ……力がみなぎってくる!!」

しかしすぐアレンの表情が曇った。片手で両頬を覆っている。


「……母上は……俺のせい、だった……?」


「違う!それは違う、アレン、

 自分が選べなかったことで自分を責めるのは、違うぞ!」


脂汗をかき俯いたアレンが、振り切れたように顔を上げた。


「アレン、色々なものを見すぎた、少し落ち着いて、休まないと」

「そう、そうだ…違う……あいつのせい……あいつは全部知っていたんだから……」

再び燃え上がったアレンの肩から、高温にチリチリと燃えるような音がしてくる。


「今すぐ、あいつをぶっ殺しに行かないとなあ!!!」


すごい勢いでアレンは洞窟を駆け抜けていく。

「アレン!!待ってくれ」

フォトナの足でも追いつきそうにないが、急いで後を追った。




視界が開けて、まぶしい。

洞窟を出ると、アレンが石の柱の向こうで佇んだままなのがわかった。

「アレン―――」



身じろぎもしないアレンの前、山を登ってきたところに、一人の男がいた。


「レオン」


「…………遅かったか」


アレンは興奮のあまりふー、ふーと息切れしている。


「遠慮しなくでいいぜえ」


アレンが、ゆっくりと剣を抜いた。火炎の魔力をみなぎらせている。


「俺、思い出したんだよ……ずっとお前のこと………ぶっ殺したかったんだってよお!!」


ふぅ、とレオンが息を吐いた。


「よかろう」


レオンもまた、立派な大剣を携えていた。それをぬらりと引き抜くと、アレンに向き合った。


「来い。久しぶりの稽古だ」


怒りに満ちた弟と、冷静を崩さない兄の、それが十年ぶりの対峙になった。

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