第38話 宝珠と火竜

二人が上ってきた岩山と同じはずの、しかし違和感の大きい景色。

山の形が、違う。真っ暗な空に遠くの山から溶岩が荒々しく噴出し赤く染めている。

辺りに草木は全くない、過酷な環境。

通常の生物がその場にいれば、焼け焦げて溶けてしまいそうな迫力がある。


周囲に怯える様子の二人に構わず、竜がゴォ―――っと火炎を吐いた。


《ほぉ だめか》


―――声?


また世界が一転した。

今度は見慣れた岩山だ。

見上げると先ほどのような山々の険しさはなく穏やかで、見下ろすと森が生えている。


《これなら よいか》


目の前に立っているのは上半身が鷲や鷹、下半身がライオンの―――

―――グリフォンだ。


《貴様が 今代の 巫女か?》


フォトナに問いかけた。

「み、巫女?私が?」

「お前、言葉が判るのか!?」

アレンが驚いてフォトナとグリフォンを見比べる。

グリフォンはコンコンと己の頭を突いた。


をいじられているな ざまあみろ だ》


ガッギャッギャッギャと恐ろしい声を上げた。


「ま、待ってくれ。

 私達はたぶん、何らかの意図に導かれてここに来ている。教えてはくれないか?」


《グッギャッギャギャ》


どうやら笑い声らしいものを上げる以外に、取り付く島もない。


《愉快 愉快 苦しめ 人間 ガギャギャギャ》


「……ダメだ」


《そんなもの 命ずれば よかろうに》


「お、教えてくださ……教えろ。

 えっと、この世界はなんだ?私達はなぜここに招かれた?

 私が持つ力とは、一体、なんだ?セレニアとどう関係する?」


《 盟約外 だア グギャギャギャギャギャギャ》


性格、わっる―――………


アレンが心配そうにフォトナを見つめる。

そうだ、混乱している場合ではない。

なんとかしないと。フォトナはいっぱいになった頭をなんとか鎮める。


こいつは人間の味方ではない。

しかしこれまでの祀られ方、とんでもない量の魔力を操っている―――神に近い存在?

盟約ということは、盟約に刻まれていることがあるはず。

と確かにこいつは言った、それなら私の血か国と関係があるだろう。

ならば、こうだ―――


フォトナは力強い声で、賭けに出た。



「フォトナ・アストリアの名の下に命ずる。


 アレン・グリニストに、魔力を返しなさい!」



グギャギャと笑って火炎を吐いていたグリフォンがつまらなそうな顔に戻った。


《ふん 約束は果たせよ 人間》


とてとてとアレンの前に立つと、バサバサ舞い上がってその巨大な羽をはためかせてから、アレンの頭向かってガアアッと火炎を吐いた。

―――ように見えたが、その火炎は炎の色をしていない。

魔力だけでできた透明なオーラのようなものがアレンにきらきらと吹きかぶさった。


《どうなっても 知らんぞ 

 愉快 愉快 グギャギャギャギャ》



周りの世界は一瞬にして溶け、再び洞窟に戻った。

足の力の抜けた二人は、その場に座り込んでいた。

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