第2章 火の帝国編

第25話 街並みと笑顔


フォトナの決死の勢いもあっけなく、遠方転送ワープは一瞬にして行われた。


―――――――ここは……


急に開けたところに出たのが空気で分かった。日差しがまぶしい。


次の瞬間、彼らは賑やかな広場に立っていた。

すぐに何人もの兵隊達に囲まれる。

「お待ちしておりました、アレン様!お加減は?」

「ああ、問題ない。……お前も大丈夫か」

「あ、ああ」

いつのまにか握りしめたままだったアレンの手をぱっと放す。


人々の行き交う活気ある場所だった。目の前から活気溢れる市場の声が聞こえてくる。

露店からは、香ばしい肉の匂いや甘いお菓子の香りが漂ってくる。明るい衣服を身にまとった人々が行き交い、陽気な音楽が聞こえてくる。フォトナは、初めて見るグリニスト帝国の活気に圧倒され、目を輝かせた。


アレンは懐かしい故郷の匂いに安堵した表情を見せたが、すぐに王子の顔に戻った。

「アレン様、すぐ城へお連れいたします」

いやいい、控えておけと答えてからちらりとフォトナをみやる。

「観光でもしていくか?」

「はっ……大丈夫だ!」

「では、向かうぞ」


きれいに整備された石畳を二人は歩いた。護衛は遠くからこっそりついてきている。

飲食店、衣服店、独特の鼻をつく匂い……鍛冶屋が多いようだ。

遠くに険しい山々が連なっているのが見える。二人が歩く道は、真っ青な空の下、石造りやレンガの建物が並んでいる。

時折、旗をはためかせる家もある。グリニスト帝国旗、緋色の炎に浮かぶ金に縁どられたグリフォンだ。

帝国の中心がこんなに賑やかな都市だとは……。

その名高い軍事力は知っていたが、それは確かな経済力を基盤とするものだということをフォトナは肌身で学ぶのだった。


それにしても―――

途中、ごちゃごちゃとした市場を通り抜けるときに特に顕著だったのが。

「おやっ、アレン様!帰ってきてたのかい」

「おーいぼっちゃん!ちょっとこれ持っていきな!」

「きゃっアレン王子様よ」「えっうそ!?すてき!!」

人望の厚さ。そして、笑顔の人々に、おう、と応える、アレンのその表情の穏やかさだった。

学園にいた頃はどこか気を張っていたのかもしれないな。

やい、と小突くと、あ?といつものように睨まれたが。

「……なんだよ」

「いーや、別に」

なんだ、愛されてるじゃないか、お前。

なんだか妙に嬉しいような気持ちになって、フォトナも微笑むのだった。


街を抜けてしばらくすると、宮殿に着いた。

「ここが……お前んち?」

「ああ。俺んち」

当たり前だろ、といった調子ですたすたと門をくぐり、小道を歩いていく。

白い石造りを花々の彩る美しい庭園を中庭として、噴水まである。建物までの距離が、長い。

「置いてくぞ」

慌ててついていくフォトナ。

俺んちってのは―――もっと、慎ましい言葉じゃなかろうか!?


フォトナは東側2階にある寝室をあてがわれた。ゲストを迎え入れるための洋室だろう。

一人がけ用のソファが2つ、机に、化粧台まで置いてある。ここだけで充分快適に暮らせそうだ。

ふぅ―――……

ふかふかのベッドに倒れこんだ。

宮殿に入ってからは数々の給仕の者達と挨拶を交わし、頭を下げ、いそいそと案内された。

なんだか変な疲れ方を遣ったフォトナは仰向けになる。

街を歩くアレンの悠々とした出で立ちは、宮殿に入ってからくっと力のこもった面持ちに変わった。

給仕たちも、どこかよそよそしいような―――


宮殿内で潜められた、アレンの穏やかな笑顔。

思いを巡らせるうちに、いつしかフォトナは眠りに落ちていた。

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