第24話 フォトナの旅立ち
明朝、フォトナは女子寮まで迎えに来た馬車に揺られ、王宮へと向かっていた。
……アレンと、二人きり。
アレンは腕組みし、昨日のラピス王子達との会話を話すフォトナの話を聞いていた。
気まずぅ~~~――――――……。
思わずぺらぺらと昨日の話―――恐らくフォトナはおとりだろうというラピスの推理も含めて話してしまってから、アッと口を閉じたフォトナに対し、憮然と口を開いた。
「事実だ」
王子は短く言い切った。
「お前を連れて行くのはそういう思惑もあってのことだ。
……俺が、落ちこぼれだというのもな」
馬車が王宮のはずれに到着し、二人の会話は遮られた。
広い王宮の庭のはずれ、石造りの小さな背の低い棟の前に着いた。
草木に隠れて、目の前を通り過ぎても存在に気付かなそうな石の壁だ。
しかし衛兵が手をかけると、スムーズに扉は開いた。
中は洞穴のように地下に続く階段となっている。
二名の衛兵に連れられ、アレンとフォトナはろうそくに照らされたかび臭い廊下を進んだ。
明らかに隠し通路だ。
絶対に一人では来たくないな……。そう思わせる暗い通路、階段の繰り返しを黙々と歩いていると、時間感覚が狂うようだ。
どれだけ歩いただろう。
ようやくたどり着いた通路の奥には、また扉が待ち構えている。衛兵がじゃらじゃらと鍵を開けると、重い扉が開いた。
そこは、石造りの柱が立ち並ぶ、巨大な空間だった。
地上の大広場にすら匹敵するような……こんな広大な空間が地下に隠されていたのか。
最奥に祭殿のように祭られているのが、
今は扉のはめ込まれていない石の枠だけが残っているように見えるものだ。
両側に立つ柱には水晶のような玉がはめ込まれている。それら二つに衛兵達が手をかざし、魔力を込め、声を合わせて詠唱を始めた。
石枠に細かく刻まれた複雑な古代文字が紅く光り出した。
扉の枠の中―――光のもやがぼんやりと出現した。向こう側は見えない。
衛兵が詠唱を終える頃、光は真っ白に輝く壁と化した。
「それでは、いってらっしゃいませ。アレン様、フォトナ様」
行くぞ、とアレンに促され、フォトナはおう、と答えた。
おう。おう。行くぞ、行くぞ。
「お前…………さては
「
鼻息荒く固める表情とは別に、足が動かない。
呆れ顔で笑ったアレンが、小さく訊ねた。
「…………今からでも、断っていいんだぞ」
え?とフォトナが聞き直すと、アレンがフォトナを真剣な顔で見つめている。
「怖くて当たり前だろ。お前にとってはわけのわかんねえ場所にわけのわかんねえ道具で行くんだ」
「怖く……なんか」
「巻き込んだのは俺だ。引き返してもお前の恥じゃない」
自分の感情を、ゆるすのよ。サマンサ先生の声音が胸に残る。
鍛錬だ、フォトナ。イヴリス団長の熱い眼差しがよぎる。
「……ああ。怖い。私は今、すこぶる怖いぞ、アレン!」
「おい」
「だが、行く。だからお前は、私が怖え~~!って思ってることだけ、知っておいてくれ!」
なんだそれ。アレンがふっと笑う。
「ああ…………わかった」
フォトナの手を、ぎゅっと握りしめた。
「お前は俺が必ず守る。付いてきてくれ」
「お……おう」
フォトナがアレンの手を握り返すと、二人で、歩み出した。
光の壁に足を踏み入れようとする間、走馬灯のように思い出された。
怒涛のように過ぎた学園生活。挑戦、努力、葛藤、―――裏切り、
そして、親愛。
これから待ち受ける使命が何であろうと。
私は、やめない。
己の弱さと戦うことを。知ろうとすることを。
ギュッと閉じた目を再び開き、紫の瞳を輝かせ、フォトナは光の壁に飛び込んだ。
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