第26話 夕飯と兄弟


寝てしまっていたようだ。窓の外はもう薄暗い。

コンコンとドアがノックされたので、フォトナは飛び起きて返事をし、衣服を整えた。

「開けるぞ」

扉の隙間、アレンが部屋に顔を出すことなく声をかける。

「こんな部屋まで用意していただいてしまって……すまない、寝てしまった」

「いや、いい。食事は食堂でいいか」

「あ、ああ!すぐに行く」


案内された大食堂ではテーブルが並んでおり、その隅に二人分、パンとスープ、香ばしく焼き上げられた肉料理が用意されていた。

着席して黙って食べ始めるので、フォトナもそれに倣った。

まるで学園での食事のようだ。王子の食事とは、こういうものなのだろうか…?

「……今日は、兄がいない。俺一人のために用意させるのも悪いからな」

「そ、そうか。いや、ありがとう」

………。

黙々と食事をする。耐えかねてフォトナが話し始める前に、アレンが淡々と話し始めた。

「兄は国の執務に当たっている。

 俺の叔父にあたる人間が今のグリニストの王だ。共に食事することは滅多にない。母はいない」

うん、うんと相槌を打つ。

「……美味いか?」

「あ、ああ!なんだこの、スパイスか?肉に合って、美味だ!」


その時、二人の背後から不機嫌そうな声が降ってきた。


「久しぶりに帰ったくせに、顔も見せずにメシか」


「……いたのか」


はっ!と立ち上がり、フォトナが挨拶した。

グリニスト帝国王位継承権第一位―――――――レオン・グリニスト。

見上げるような長身に、燃える赤髪はストレートに垂らされ、いかにも王族らしい気品と……

……少し高慢な印象を与える通った鼻梁、二人を見下ろす眼差し。


将来はグリニスト帝国の王となる者。ヴァツラフ王ほどではなくとも、若くしてすでに厳格な威厳を漂わせていた。


「フォトナ・アストリア。しばらくアレン…様と共に世話になります」

「話は聞いている。貴様が……な」


しげしげと不躾に眺められ、フォトナはたじろいだ。アレンは黙々と食事を続けている。

「まあ、いい。近々晩餐の場を用意する。寛いでくれ」

「あ、ありがとうございます……?」


レオンが去ってからも、アレンは食事を続け、食べ終えると黙って紅茶をすすった。


もしかして、結構、仲悪い―――???


ツッコミを入れるわけにもいかず、フォトナも下品にならない程度に急いで食事をかきこんだ。


「……明日、行きたいところがある。お前も来るか」

「行きたいところ?」

「多少、山を登ることになる。それなりの装備をしておけ」

「やま」


「ああ―――ちょっとした山、だな」


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