第21話 王宮と呼び出し(2)

大会議室に入ると、長い楕円形の机の左手におぞましい量の書類を抱えた行政官がずらりと並び、右手には三人の王子が座っている。

奥からアレン、ラピス、ソルヴァだ。皆がこちらを見ることなく俯いている。

全く見た目の区別がつかない眼鏡揃いの行政官のうち、最も中央に位置する者が気忙しく書類を捲る手を止め、神経質そうにペンを叩いてから、口上を始めた。

「えー、まずファルベン学園生徒・クリスティーヌ・カジョス。同学生徒、フォトナ・アストリアに接近せんとする正体不明の男に情報を渡し、金銭を受け取った。間違いないですね」

「……!」

フォトナが驚いて横を見ると、顔を真っ赤にしている。


「それがファルベン連合国へ対しまして、えー、大いなる危害を加えることに繋がった。違いありませんね」

「……確かにこの女の居場所は伝えたわ。でもそれは傷物にしてやるって、そういう話だったから!

 今回の事件なんて私は知らない!」

「えー、虚偽を述べると貴殿は……えぇ、はい。承りました」

カササササと表情のない行政官達がペンを走らせる。

「精査の結果、えー、結論からにはなりま、ございますけれども、本件は反逆罪に該当し処理を進められることが決定されました次第であります。前例がなく……えー、確定事項は申し上げられませんが……少なくとも退学は確定するものでは、ありますが、カジョス家への処分につきましては、追ってご連絡する次第です。私共からは以上になります」

「そんな……私は!そんなつもりじゃ!……そんな……」


これだけの事件が起きて、不審者は見つからない。意図も不明。

情報公開するためのスケープゴートが必要ということか。

声を震わせ絶句したクリスティーヌ、無言を貫く行政官達。特にアレンは奥歯をかみしめた表情のまま押し黙っている。

「……待ってくれ」

口火を切ったのはフォトナだった。


「納得がいかない」

「……えー、参加者フォトナ・アストリアの発言ですね。許可します」

「被害者である私が言うのだ。不問とは言わんが、退学はやりすぎだ。せめて停学処分が妥当だろう。

 それより重要なのは、真の敵を探し出すことじゃないのか。

 真犯人の調査に協力させてくれ。セレニア国の情報は惜しみなく提供することを約束する」

一気に言い切ってから、深呼吸し、続けた。


「ここで疑いのままに憎しみの種を増やしてどうする。今、五国が連帯する時ではないのか」


半分は出まかせだった。有力な情報など希望薄だ。

それでも自分の価値を示さないと、一人の人間の未来が絶たれる。

あの男とは面識がない。しかし、どうやら自分への執着が強いことは確か。

であれば、学園唯一のセレニア出身者であることが何らかの鍵になるかもしれない。

隠蔽を優先させる王国に腹が立った。

唯一の友人を失ったフォトナは、これ以上理不尽が行われる様を見たくなかった。


「……協力しよう」


ソルヴァだった。


アクアヴィスタ公国うちの出身者から反逆者を出したのは事実。いずれ何らかの落とし前はつけさせてもらう。

 我が国は真相解明を速やかに進めることを要求すると共に、信用回復のために協力することを約束したい。

 これはソルヴァ・アクアヴィスタとしての提案だ」

「ソルヴァ……!」


、だ。と口が動いた。


行政官達が嘆息したようにも見えたが、まあいい。

これ以上は学園の手を離れ王宮で処理されること、一週間後の学園再開に向けて勉学に勤しむこと。

手短に伝えられ、フォトナとクリスティーヌは会議室を後にした。


廊下を歩きながら、クリスティーヌが口を開いた。

「どうして……」

苦虫を嚙みつぶしたような顔でいる。

「………情けをかけたつもり?」

「おっと、ちょっと待ってくれ。そのまま。動くなよ」


フォトナはクリスティーヌから距離をとってから、人差し指の照準を彼女の頭上の拳三つ分上に定めた。

「えいっ!」

「えいっ?」


バシャッ!!

バケツ一杯分の水がクリスティーヌに降り注いだ。


「はあ!?」

「うむうむ。これが魔力錬成と凝縮、属性の付与……いい感じに調整できるようになったものだぜ……」

「ちょっと、何するの!??」

「ドレスのお礼だ。ま、頭を冷やすことだな」

ハッハッハと高笑いして、いつものキンキン声に戻った―――びしょ濡れの―――クリスティーヌを後にした。


晴れやかな気持ちで長い廊下を出て、王宮を後にしようとしたその時、先程の衛兵から声をかけられた。

「フォトナ・アストリア」

「はい?」

「呼び出しだ」

「またっスか……」

「また、ではない。王だ」

「はぃ?」


「ヴァツラフ王がお呼びだ。玉座の間に案内する。来い」


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