第20話 王宮と呼び出し(1)
王都の中心地・ファルベン学園が襲撃されたという大ニュースは瞬く間に連合国中に広がった。
衆人監視の下で行われたテロ行為。犯人は未だ逃走中。主犯すら不明。
重傷者2名で済んだのは奇跡だ。女騎士団長の容態は伝えられていないが、訃報が届かない限り祈るしかない。
蜂の巣をつついた騒ぎになった学園も休校が続いた。危険に鑑みて帰国許可は下りていない。
最初は帰ろうと騒いだ貴族達も、ここより他に安全な場所はないことに半ば諦める形で納得していた。
学園に隣接された王宮に呼び出されたフォトナは、長い廊下にあつらえられた椅子に座り待機している。
王宮内では緊急の長時間会議が行われていた。
今回は前回と違って個別に事情聴取されるのではなく、大会議に直接呼ばれる形となった。
あれから王子達とも話せていないが、ラピス王子の拘留がなくなったのは確かなようだった。
待ちくたびれたフォトナは隣に黙然と立つ衛兵に返事を期待せず訊ねた。
「なあ……あと何時間待つんだろうな」
考えることが多すぎる中、ずっと考えないようにしていること。
―――シエラ。
何らかの策略をもって近づかれていたことは明らかだ。
何度目かのよぎる名前を頭から跳ねのけて、フォトナは状況を整理した。
目的を連合王国に対する反乱と仮定する。
不審者を警告する、ソルヴァ王子とアレン王子の情報。様相は異なっていたが、どちらも合っていた。
パーティーでの事件以降、各国は独自の調査を続けていたようだ。
イグニスト帝国の失墜はアクアヴィスタ公国の益になる。アクアヴィスタ公国の策略を疑ったドリニスト帝国、しかしお互いシロになった。
となればフォトナに接近し、フォトナを誑かそうとしたラピス王子が最も簡単に誘引できたはず。
そう、オーリア王国に容疑を絞る形で両国が一度まとまりかけたその時、予期せぬ大事件が起きたのだろう。
あの時顕現した竜は幻覚というより、魔力の塊のようなものだった。
謎の男はその場に特別な装置もなく、明らかに自分と他者の位置を自在に操っていた。そんな魔法が扱える国など聞いたこともない。
空間を操る……近しいのは魔法陣操作を得意とするテラスト聖国か?
エルフェイム公国もドリニスト帝国の失墜は望ましいはず。
シエラの単独行動。しかしアクアヴィスタ公国に利益をもたらすためではなさそうだ。
今思えば、王子らはこれまで何度もフォトナに警鐘を鳴らしてくれていた。危険な場に行くなと。
―――頭の中は、疑問だらけだ。
あの時、謎の男は間違いなく王を殺せたはずだ。真の目的はテロ行為自体ではない?
あれほどの危険を冒して大事件を起こす理由。
そして、そもそもなぜ……私が?
まとまらない思考に思い悩むフォトナの下に、かしましい声が聞こえてきた。
「離して、こんなことただじゃ済まさない、お父様に言いつけてやるんだから!」
「クリスティーヌ…?」
どうやら同時に事情聴取に呼ばれたようだ。衛兵に腕を捕まれているが。
フン!と鼻を鳴らしてフォトナを見下ろす。「冗談じゃないわよ、これもあんたが悪いんだから!」
ようやくフォトナの名前が呼ばれた。クリスティーヌも同様だ。
会議室の大きな扉が開き、重苦しい空気が二人を出迎えた。
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