第13話 パーティーとサプライズ(2)
ようやく人いきれを抜け出した。夜風が涼しい。
あれから何人か、いつものゴリラ扱いとは掌を返したように貴族の男がフォトナに群がったが、どれも断ってしまった。
せっかくのドレス姿でガツガツと料理を食べつくすフォトナに、すぐに群れは散ったのだが……。
地獄の特訓の日々を思い出す。イヴリス団長の怒声が響く。
「カーテシーとはなんだ、フォトナ!」
「はい、広背筋のことであります、師匠!!」
「ターンとはなんだ、フォトナ!」
「はい、腹横筋のことであります、師匠!!」
「ワルツとはなんだ、フォトナ!」
「はい、大殿筋のことであります、師匠!!」
「それではサンバだ、フォトナーッ!」
はあ、はあと肩で息をするフォトナは、憧れの騎士団長……もとい、今は鬼軍曹と化した師匠に問うた。
「どうして助けてくれたんでしょうか……」
「うーん、暇つぶし?
なんてね。かわいい甥っ子のお願いは聞いてあげないとね」
「甥っ子……」
イヴリスの美しい燃えるような赤髪は、言われてみればアレン王子と同じ輝きを放っている。
「師匠がご参加されると心強いのですが……」
「ははは、私は警備に勤しむのがお役目さ。
それに……私が行くと、主役になってしまうだろう?」
グリニスト一の踊り手との噂は伊達ではないようだ。
ウィンクすると、すぐに茶目っ気ある表情を引っ込め、軍曹の顔に戻った。
「さあ、次はターンだ、フォトナ!」
「はい、師匠!」
本当に地獄だった。しかし私はやり遂げたぞ。
ダンスはミスもなかった、たぶん。料理は、間違いなくうまかった。
余は、満足だ———
そう叫び出したい気持ちで噴水の縁に手をついた。
そういえば、踊っている間にアレンが一言だけ耳元で伝えたことを思い出す。
「白装束に気をつけろ。警備が万全と思うな」
どういう意味だと聞き返す余裕はないままだった。
あまり一人ではいない方がいいかもしれないな。いや、多少の不審者くらい反撃してやるがな!
そういえば、不審者———?確か、前は…………
思いに耽り見上げると、夜空に二つの月と、幾千の星が瞬いていた。
セレニア国の夜空ほどではないが、今宵は母月と父月が近い。厳しい鍛錬の間、見上げた故郷の夜空を懐かしく思い出す。
広間の灯りも噴水に映り、いつになく幻想的だ。横から優美な声がした。
「綺麗になったね、フォトナちゃん」
話しかけられ、フォトナは心臓が止まるかと思った。
にっこりと微笑むラピス王子だった。まったく……この人の動きは予想できないな。
「今回は本当に……ありがとう。」
「フォトナちゃん」
「正直、私には分不相応だったのかもしれない思いは、今でも拭えない。
でも、挑戦させてもらえたこと。新しい世界があったこと。
そういうものを忘れたくない…そう思えるんだ、」
「フォトナちゃァん」
「……ラピス王子?」
「あ、
ああ、あああ、
会イ"たかッたよおォ」
ニチャア…とラピス王子の顔がみるみる歪んだ。
貴様、誰だ
そう訊く間もなく、刹那、フォトナの身体は見えない鎖で締め付けられた。
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