第12話 パーティーとサプライズ(1)
重厚な大広間が今夜は豪奢に飾り付けられ、一つ一つ磨き上げられたシャンデリアがファルベン連合国の威光を示さんばかりに輝いている。
いつもは簡素な制服に身を包む生徒達が、この夜限りは貴族として優美に振舞う。
流れる音楽に色とりどりのドレスが早くも踊り出そうと揺れ動いている。
夢のように煌びやかな世界だ。
しかしどの生徒達の輝きも、クリスティーヌの満面の笑みには勝るまい。
「さあ、そろそろお時間ですわね」
言い終わるかどうか、アレンがゆっくりと歩み寄った。
「万事つつがないか」
「アレン様!
ええ、ええ。万事、万事滞りなく。田舎臭いお邪魔虫もおりませんことよ」
「なに?」
「幾人かに気に入られているかどうか知りませんけれど、やっぱり格ってものがございますわね。
今夜は存分にお楽しみくださいませ!」
「お前、まさか……」
その時、開け放たれた大扉に駆けつけた人物。
待ってくれ!と叫ぶと、思いの外声が響いてしまい、一斉にそちらに視線が向く。
フォトナが、ヒールと思えない怒涛の勢いで駆けこみ、すぐに居住まいを正した。
すっきりとした白いマーメイドドレスの腰からふんわりと優美にヴェールが伸びている。
両肩にあしらわれた細かな意匠のレースが絶妙な位置でフォトナの逞しすぎる筋肉を隠し、
印象的な黒い蔦模様が無駄のない身体を引き立たせ、まるで漆黒の髪と呼応するように全体を優美に演出していた。
飾りを最小限に結い上げられた上品な髪と対照的な、胸元の見事な宝石が目立ち輝く。フォトナと瞳の色と同じ、紫だ。
会場の誰もが息を飲む中、フォトナさま……!と呟いたのはシエラだ。
ヴェールをなびかせ、そちらへ優雅に歩みよった。
「待たせたな、シエラ」
いいえ、いいえ…!と首を振るシエラの瞳は潤んでいる。
フォトナは微笑むと、くるりとクリスティーヌとアレンの方を振り向いた。
「お招きいただきありがとう、クリスティーヌ」
その優美なカーテシーと威風堂々たる面持ちに、すべての照明が喝采を浴びせているようだった。
開いた口が塞がらないクリスティーヌの横から、アレンが歩み出た。
跪き、手の甲にキスをする。
少し驚いた様子のフォトナの手をとり、演奏家に向かって一声かけた。
「何している。……演れ」
響き渡るクラシック音楽の中、円になって踊るフォトナら数組を眺めるソルヴァ王子に、柱の陰からラピス王子が声をかけた。
「うーん、やっぱりいいなぁ。
ゴテゴテしたのよりさぁ、ああいうラインが似合うと思ったんだよねぇ。素材は活かしてこそだよ」
「……何故いる」
「ふふ、君こそ。どうしてそんなにイラついてるのかな」
対照的にご満悦のラピスがくすりと微笑み耳元で囁く。
「妬いた?」
踊り終えたフォトナはまっすぐにソルヴァの下へ向かった。
「どーー~だソルヴァ、文句があるなら言ってみろ!」
ソルヴァ様と……ラピス様———!?舞踏会には来ないんじゃなかったの!?
一斉に騒がしくなる。
ラピスが進み出て、やあやあと手を振り注目を集めると、一気に人だかりができてしまった。
お礼を言おうとしたフォトナはハッとして、「あとでー、噴水前ー!」と口パクで叫ぶ。
ラピスはウィンクして応じると、黄色い声に飲まれた。
その後ろから静かに進み出たソルヴァが前に跪いたのは、シエラだ。
「えっそんな、え?ソルヴァ様?」
「勘違いするな。義務の履行だ。文句は貴様のお節介なサルに言え。
それとも……不服か」
シエラが、震える手を差し出す。次の曲が始まろうとしていた。
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