第14話 パーティーとサプライズ(3)
ナニカがフォトナの身体を抱きしめる。すごい力だ。
「離せ、やめろ!」
ナニカはみるみる、別の男に変わった。
制服……だが違和感を感じる肩。夜空の光をすべて吸い込むような漆黒の髪。
男は邪悪に歪んだ表情のまま、どす黒い瞳でフォトナを見つめ、抱きしめて離さない。
「や、やめろ!離せ」
「フォトナ……フォトナぉ…………」
その顔がどんどん近づいてきた。
「や、やめろ、やめろ!!………い、いやっ…………」
動けない。フォトナは必死に顔を背ける。
「やめて………」
ギュッと瞑った瞼に唇の押し当てられた感覚の後、ふ、っと力が緩んだ。
すべての邪気が抜けきった表情の、紫の透き通る瞳だ。
どこか、懐かしいような———
「ごめんね、フォトナ。すぐ迎えに、行くからね」
次の瞬間、男の形で光の粒子が暗闇に溶け、噴水の奏でるせせらぎのみが残された。
足の力が抜け崩れ落ちそうになり、噴水台の縁にようやくもたれかかる。
「フォトナちゃん!」
大広間から駆け寄ってきたラピスの姿に、ビクッとして強張る。
「いやっ、来ないで…っ!」
殴られたような顔のままのラピスを跳ねのけるようにしてソルヴァが駆けつけた。
後ずさりし震えるフォトナの手を握る。
「何があった」
フォトナが首を振り続ける。
「何か、いたんだな」
微かに頷く。
「大丈夫だ、もう、大丈夫だからな」
優しい声音で繰り返すソルヴァに、ようやく涙をポロポロと流した。
ソルヴァは温かくフォトナの手を握りしめたまま、大広間の扉に振り向く。
扉の前で呆然と立ち尽くすアレンに向かって、信じられない声量で怒鳴りつけた。
「失態では済まないぞ、アレン!!」
長い沈黙。
ははは!とそれを破ったのはフォトナの笑い声だった。
「いやなに、多少驚いただけだ。興を削いで悪かったな。
パーティーに戻ろうではないか?これしきのことで王族が騒ぐなよ」
怒りに震えるソルヴァ、表情を失ったまま立ち尽くしているアレンの肩をポンポンと叩く。
ラピスに向かっても微笑んだ。
「すまない、ラピス。そなたを騙る顔だったのでな。悪かった」
気丈に振舞うフォトナに頷き、表情を引き締めたラピスが口を開いた。
「変な魔力が使われた感じがする。追っ手をかけてもすぐに捕まえるのは難しそうだ。混乱を招くのは確かに避けたいね」
「うん。奴は私にも消えたように見えた。
そうだろう、ソルヴァ?」
「……ああ」
ラピスを睨みつけたまま渋々同意を示す。
「だが貴様、……なんでもない。ひとまず各所に連絡の上、戻るぞ。……アレンもわかっているな」
「ああ。上への連絡は俺がする」
結局、その夜の舞踏会は大盛況のまま、少し早い時間で幕を閉じたのみだった。
だからほとんどのの貴族は気付かないままだった。
―――国の暗闇が動き出したことに。
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