第11話 落胆と夕陽
昼食をかきこみ、次の教室に向かう途中、はたと気付く。
ドレスの入った鞄を大食堂に忘れた。
慌てて引き返して走っていると、クリスティーヌ軍団とすれ違った。
「あらごきげんよう。いよいよ明後日ですわね。
楽しみにしておりますわ!」
「ありがとう。すまないが急いでいるので、これで失礼」
クスクスクス……と笑う声がいつもより大きかったことにフォトナは気づかなかった。
座っていた席にドレスの入った鞄が確かにあった。
手にとると焦げ臭い匂いが鼻を刺す。
嫌な予感がして中のドレスを広げた。
それは―――美しい緋色部分が焼け焦げ、ただの白い布に黒い端切れがついている。
見るも無残な、ドレスだったものだった。
……クリスティーヌ!
さすがにこれは、反則だろう!!
怒りのままに慌てて走り出し、追いかけたが、次第に足取りは重くなった。
私はいま何に、怒っているのだ。
人の力に助けられ、人から与えられたもので慢心し、挙句は大切なものを―――期待を焼かれてしまった。
怒るべきは自らの、その油断ではないか。
身の程知らず。まさに、その通りだ。
特訓に付き合ってくれたイヴリス師匠に合わせる顔がない。
鞄を抱えたままふらふらと歩いたフォトナがたどり着いたのは、いつもシエラと語らっているベンチだった。
シエラ、すまない。
入学以来駆け抜け続けていたが歩みを止めたフォトナに、空しく風が吹く。
呆けたままのフォトナに夕陽を照らす頃だった。
「君とはよく会うね、迷い猫さん。珍しくサボりかい?」
見上げた先のラピス王子は、相変わらずきらきらと光っている。
制服に合わせた優雅なマントにあつらえられた上品な装飾。
最初はいけ好かなかった洒落っ気が、自分が無視してきた怠惰と対照的に思えた。
美しいな。そう素直に思った。
このような煌びやかな人間こそ、華やかな場にふさわしい。
「……貴殿はいつもサボり、だな」
「お姫様が言うようになったねえ」
「姫などでは―――」
ふう、と息を吐く。
「ない。国を背負うにふさわしくない、美しくない、ただの馬鹿者だ。私は。
今こうして呆けていても、国に残したルカを頼れないか、よぎってしまったんだ。
……嫌になる。何も間に合うわけがないのに」
事の顛末をぽつりぽつりと話し始めると、ラピスは初めは堪えていた笑いを隠さなくなり、
ついにはドレスを燃やされたくだりで爆笑され、さすがにフォトナはㇺッとした。
「笑いごとではない」
「なんだ、そんな面白いことになってたんだ」
「欠席するのか?」
「行くわけないよ、あはは。そういう場は
憂いの滲む少しだけ遠い目をして、エメラルドのピアスが夕陽にきらりと揺れた。
「よしわかった。なに、ちょうどいいじゃないか。
せっかくの学園生活、アレンにばかりいい思いをさせてちゃいけないね」
ラピス王子―――?
おもむろに立ち上がり、優美に手を差し伸べる。
「うら若きお姫様。いいパーティーに必要なものを教えてさしあげましょう」
王国一の美男子が、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「サプライズだよ」
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