第10話 特訓とプレゼント

フォトナが図書室で本の山をどさりと置き読み始めていると、ソルヴァから取り上げられた。

「"サルでもわかるダンスの基本""これであなたも上流貴族"?

 お前、バカにも程があるだろう。サルの自覚があったとは意外だが……」

「ソルヴァ!?」

を忘れるな」

「違う、これには……」

かくかくしかじかを説明すると、いよいよ本気の呆れ顔に変わった。

「お前、王都学園でのパーティーがどういうものか本気で知らんのか」

「貴族のマナー鍛錬とか?」

「見合いだ身の程知らずが」

「ヒャッ!?」

素っ頓狂な声を上げたが、いやしかし、あまり気の合わなそうなアレンとソルヴァから異口同音に非難されるからには、確かに理由があったようだ。

「主催者は王都学園に申請するし、厳格にルールも決まっている。

 参加者は爵位が一定以上の家柄であること、

 三王国以上の出身者が必須、一国出身者が半数を超えないこと、

 それぞれの国から一人以上の王族が参加すること……といった具合だ。

 必然的にそれなりの規模と格式が求められるが……あの女クリスティーヌの家が主催か。財力も申し分ないだろう」

「待て、しかし、同じ国の相手を探すのだろう?一国でいいではないか」

「連合国に対する一国による内乱の画策を防ぐために決まっているだろうが、戯け」

今日ばかりは、サル戯けの称号に甘んじるしかないようだ。大人しく聞き続ける。

「異国同士の貴族に社交の場を持たせ、連帯を培う。

 同国内の貴族を見染め、よりよい相手とより力を持つ。

 まぁ、くだらん。所詮王位に関係ない貴族共の権力闘争、その端くれだ。

 一時の意地で無様を晒しに行くべきか、平和ボケした頭でよく考えるんだな」

行くな———と、そう聞こえた。

「……それでは、私が無様を晒さなかったらどうだ」

「なに?」

「賭けをしよう」

フォトナがある提案をすると、ソルヴァが鼻を鳴らした。

「いいだろう。せいぜい足掻け、筋肉猿が」


図書室を出ると、疾風に捕まった。

「話は聞いたぞ、フォトナ!!!」

「イヴリス先生!?」

「うちの者がすまなかったな。

 来い、私がダンスとは何かを叩き込んでやる!」

そのままフォトナは連れ去られ……その日から地獄の特訓が始まった。


自室に帰れたのは毎日真夜中過ぎ。

ベッドに倒れこもうとしたフォトナは、届け物に気付いた。

宛名も何もない紙袋。

開けると、真っ白な身頃に緋色のフリル、まばゆく金の房と宝石のちりばめられた、豪華なドレスだった。

「………アレンめ」

約束は黙って果たすところは、彼らしいと言うべきか。

いよいよ後に引けなくなった。

いや、もとより、引くものか。


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