第二章 王都の決断と揺れる心
翌朝、俺たちは王都へ戻ることにした。東部の警戒を強化するには増援と物資が不可欠だからだ。父ウラノスの命で、騎士団の一部は山間部に残り、俺と精鋭数名が王都へ向かう。薄暗い朝の道を馬で揺られながら、昨夜出会った鬼族――白銀の髪と赤い瞳の男が頭から離れない。
王都セレウスの石畳や市場が視界に広がっても、父の表情は険しいままだ。「気を緩めるな。奴らの出方次第ですぐ出陣だ」と言い残し、先を急ぐ。
王城に着くと、ルーファス王が玉座で待っていた。父は「鬼族の動きが活発化し、威嚇を受けた。早急に増援を」と願い出る。王は「朱煌石の宝庫を渡すわけにはいかない」と鋭い眼差しを向け、即座に軍備拡張を承認した。
城を出ると、父は低く言う。「アキト、お前も覚悟を決めろ。鬼どもに情けは無用だ」。俺は抵抗を感じながらも、「わかっています」と答えるしかない。
その夜、訓練を終えても眠れず、王立図書館へ向かう。奥の書庫では宮廷魔術師セディスが古文書を読み込んでいた。俺は鬼族の男が妙に悲壮感を漂わせていたと話す。セディスによれば、鬼族の王家には「人間を愛すると暴走する呪い」があるらしい。もし彼がその当事者なら、相当苦しんでいるのだろう。
翌朝、広場では兵が集められ、東部への大規模出陣が決まる。俺も騎士として参加するが、胸は重い。そんな中、行商人のマルクは荷車を整えながら「鬼族だって生きるのに必死」と囁き、妙に心を揺さぶる。
数日後、王国軍は黄昏の山脈へ進軍を開始。道中、俺の頭には白銀の鬼の姿がよぎる。もし本当に王家の呪いを背負っているなら……。険しい山道を進むうちに夕闇が迫り、遠方に鬼族の牙砦らしき影が見える。父は「やつらが攻撃してきたら斬り伏せろ」と号令を放つ。
森の奥から金属音と怒号が混ざり合い、斥候部隊がすでに鬼族と衝突しているようだ。俺も剣を抜いて戦場へ駆け込む。そこには牙をむく鬼や呪術を放つ者がいて、激しい衝撃が飛び交っていた。すると、白銀の髪が一瞬視界に入る。彼は俺を見て何か指示を出し、闇へ消えていく。
父が斬り込み、俺も後に続くが、戦いながら「本当に斬るしかないのか」と胸が軋む。やがて彼の逃げた先に獣道があり、「父さん、俺はあいつを追います!」と叫んで駆け出す。
木々を抜けた先の崖に、彼の姿があった。満月の光を浴びながら、まるで苦痛に耐えるような表情をしている。俺も胸に痛みを覚え、剣を握る手が震えた。いったい、これは呪いなのか。それを確かめる術もわからず、ただ唇を噛むしかなかった。
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