第2話 初めての魔法
第13コロニー魔法植物研究所
部屋の壁ごしの設置された大きな棚には瓶がずらりと並んでいる。それらの瓶の中には青緑色に光る液体と、一凛の花が入っていた。そして、一匹のビー族が瓶の中身を熱心に観察している。
「今日で30日目……被検体アルファに変化はなさそうでありますね……」
そのビー族は持っていた本にせっせと記録を残す。その時、研究室の扉が勢いよく開けられ一匹のビー族が飛び込んできた。
「ビーロっち!これは一体どういうこと!?」
「ビーラ殿……びっくりさせないでほしいであります……」
勢いよく扉を開けたビー族はビーラだった。そして、瓶の中の花を熱心に研究していたビー族はビーロという名前らしい。
「あの泥団子がビームちゃんと主従契約を結んだのよ!これじゃあますますあの二人が一緒にいることになるじゃないの!」
「ほぅ……あのビーム殿が主従契約を? その……泥団子殿のことは存じ上げないのですが、どちらが主になったのでありますか?」
「あんたバカ!? そんなのビームちゃんが主に決まってるじゃない!!あんな泥団子がビームちゃんの主になったなんて想像するだけで全身の毛が逆立ちそうになる!!」
ムキー!!と体をカリカリかくビーラ。
「そ、そうでありますか……。ところでビーラ殿、ここへは何用で……?」
「びびっ!そうだった!あんた、あたしを手伝いなさい!」
「……」
「……」
「……ビーラ殿。見ての通り自分は魔法植物の研究で忙しいのでありまして……」
「ビーロっち、あんたこれを見てもそんなことがいえるわけ?」
ビーラが1つの種を取り出し、それをビーロに見せる。
「びびびっ!そっ!!その種子はまさか――」
第13コロニーが管理運営している花畑
俺はビームと共に、ビーム一推しの花畑を訪れていた。
「うぉおおおおすっげぇええええええ!!見渡す限りすべてが花畑だ!!」
俺とビームは空を飛び、上空から広大な花畑を見下ろしていた。というか、空を飛ばないと花を見ることができなかった。なにしろ、花の一本一本が俺たちの体よりもずっと大きかったからだ。
自分の体が、地球の虫のサイズと同じくらい小さくなったのかと錯覚する。それほどにこの花畑の花は巨大だった。
ビームと最初に出会った場所の花畑が普通だっただけに、ここの花畑のサイズ感の異様さに驚いていた。
「なんでここの花ってこんなにでかいんだ!?」
「それはね~ここに咲いてる花はみんな魔法植物だからなんだよ~」
「魔法植物?」
「あまり詳しくないんだけど~。成長するために魔素を必要とする植物らしいよ~」
魔素というのは魔法の源となるものらしいが……まだ魔法を使ったことがないしいまいちピンとこない。
「ビロロンがいたらもっと詳しく教えてくれるんだけど~。ビロロン忙しいんだよね~」
「ビロロンさんは魔法植物に詳しいのか?」
「そうだよ~。それに、魔法植物だけじゃなくて、魔法にもとっても詳しくて、教え方も上手なの~」
ほほう、それは良いことを聞いた。なんとかビロロンさんに弟子入りして、魔法の使い方を教えてもらわなければ。そして、俺がかっこよく魔法を使えるようになったところをビームに見せて、サプライズしよう!そうしよう!
「ナナホシ?」
「ん、あぁ悪い。少し考えごとをしていただけだ。ところでその…ビロロンさんというのはいつもどこにいるんだ?」
「ほとんどは魔法植物研究所で研究してるよ〜」
「いかにもな場所だな……」
「後でそこにも案内するよ〜」
「そうか!それは楽しみだ」
フラワ公国で暮らすビー族にとって、花の蜜や花粉は最も重要な食糧となっている。コロニーには数え切れないほどのビー族がいたし、それをまかなう食糧ともなれば花もこれくらいの巨大さがなの必要だろう。
花畑ではたくさんのビー族がせかせかと仕事をしている。花粉を集めたり、蜜を集めたり、空中で周りを警戒している者や、なぜか体がぼんやり光っているビー族もいる。
「体が光ってるビー族がいるけど、あれは?」
「あれはね~」
「あの光は、魔法植物に与える魔素を散布しているのでありますよ」
俺の質問に答えてくれたのは、知らないビー族だった。やはり顔の見分けはつかないが、他のビー族と違い手に本を持っているからわかりやすい。落ち着いており、賢そうな雰囲気がある。
「ちょうどよかったねナナホシ~♪ これがビロロンだよ~♪」
「ビーム殿……自分を紹介するなら、せめて本名にしてほしいであります……。初めましてでありますナナホシ殿。自分の名前はビーロ。魔法植物研究所の研究員であります」
俺はなんて運が良いんだ!会いたいと思ってた人がむこうからやってきてくれるとは!
っていうか、ビロロンってあだ名だったんだな……。
「初めましてビーロさん!ナナホシです。昨日から第13コロニーでお世話になることになりました。今はビームにコロニーを案内してもらいながら、俺にできる仕事を探していたんです」
「なるほど!仕事探しでありますか~それは良いでありますな~!」
「ビロロンがこんな所にいるなんて珍しいね~? どうしたの~?」
「えっ!?……と……たまには花畑の魔法植物を観察するのも良いかなと……。と、ところでビーム殿、大公様への報告は済んでいるのでありますか?」
「まだだよ~ん♪」
「……そ、それは少々まずいであります…。ビーリア様に怒られる前に、報告しに行った方が良いのでありますよ!」
「う~ん…でもナナホシだけになっちゃうし~」
これはビーロさんに弟子入りするチャンス!
「あ、それなら、ビームが離れている間、案内をビーロさんにお願いできませんか?」
「じ、自分でありますか?」
「やっぱりお忙しいですかね……?」
「いえ、大丈夫でありますよ。こちらとしても、他種族の方の意見は貴重でありますから、喜んでお引き受けするであります!」
「だってさビーム!俺なら大丈夫だって!」
「ふぅ~ん……」
あれ…なんか怪しまれてる?ちょっと強引だったかな。でも、ビーロさんに魔法の弟子入りするチャンスだし、もしかしたら魔法関連の良い仕事を紹介してくれるかもしれない。
「わかったよ~。じゃあちょっと行ってくるね~」
「おう」
ぶ~んとコロニーの方に飛んでいくビーム。俺はビーロと二人きりになった。ビームがいつ帰ってくるかわからない。俺は早速ビーロに話を切り出した。
「ビーロさん、実は、ビーロさんにお願いがありまして…」
「ほう、自分にでありますか?」
「はい、俺に魔法を教えて欲しいのです。まだ魔法を使ったことがなくて…」
「ふむ、まだ魔法を使ったことがないと……。ナナホシ殿は魔石持ちということでよろしいのでありますか?」
「ええ、魔石は持ってます」
「見せて貰っても?」
「えっと、申し訳ないのですが……魔石はあまり見せないようにとビームに言われてまして……」
「びび?……ビーム殿がそのようなことを? これは何かあると思ったほうが良さそうでありますな……」
「え?」
「あっ!いや、承知したであります。では、お持ちの魔石の色を教えてもらっても?」
「そうですね……」
魔石の色くらいは良いか?確か7色だったよな。紫、水色、橙、青、緑、赤、黒だったな。複数色持ちというのは隠した方が良いのかもしれないな。とりあえず、青にしてみるか。
「魔石の色は青ですね」
「びびびっ!? 青でありますかっ!?」
思ったよりも驚かれてしまった。ここは無難に、ビー族に多いという紫にしとけば良かったかもしれない。
「あの…青色だとなにか問題が…?」
「いえ!心配させて申し訳ないであります!青色の魔石は通称、水の魔石と呼ばれ水魔法が使えてとても便利でありまして、それで驚いただけであります!」
「水魔法を使いこなせるようになれば、この第13コロニーで仕事をもらえるようになりますかね?」
「第13コロニーどころか、このフラワ公国、そしてこの大陸の公国連合大公園のどこでも仕事が貰えるでありますよ!」
「おー!やっぱり水はどこでも貴重ってことか……!」
「そういうことでありますね!特にここフラワ公国では花の管理がとても重要でありますから、水魔法が使えればいろんなところで活躍できるはずであります!」
「そうかそうか!よーし!絶対に水魔法をマスターしてやる!」
「自分も協力するであります!あの~そのかわり……」
「なんでしょう?」
「もし水魔法を使えるようになったら、自分の魔法植物の研究にも協力してほしいことがあるであります……」
「そりゃもちろん!ぜひ協力させてもらいますよ!ビーロさんは俺の魔法の先生になるわけですからね!」
「先生でありますか…!おほん、それでは、さっそく訓練に入るでありますよ!ナナホシくん!」
「いよっ!ビーロ先生!そうこなくっちゃ!」
俺とビーロ先生は魔法を訓練するため、小さな池へとやってきた。
「まずはどの魔法にも共通する、魔法の基礎からでありますね。魔法の力の源となるのは、魔素であります。魔石は、魔素を取り込み制御するために必要な部分なのであります」
「魔素はどこにでもあるのですか?」
「良い質問でありますね。魔素は空間を循環しているのでありますが、その密度は違うのであります。また、魔石を持った者のほとんどは、体内で魔素を生成しており、それを魔石に蓄えているのであります。つまり、魔法を使う場合には2つ方法があるのであります」
「1つは、空間に存在する魔素を魔石に取り込み使用する方法」
「2つ目が、自ら生成した魔素を魔石に蓄え、それを使用する方法であります。空間の魔素を取り込むのはかなりの魔法技術が必要であるので、基本的には体内で生成した魔素を魔石に蓄えて使用するのが良いのであります」
「なるほど!勉強になります先生!」
ビーロ先生に教わって正解だったな。理論的でめちゃくちゃわかりやすい。
「では、まず自分がお手本を見せるのであります」
「お願いします!」
ビーロ先生が腹部を前につきだし、魔法を唱える
「雷魔法!ライトニング!」
ビーロ先生の胸部にある魔石がキラリと輝いたと思うと、腹部の針先から紫色の電撃が走り岩に直撃する。岩はしゅ~と音が鳴り少し焦げていた。ビームが巨大怪鳥から俺を助けてくれたときに使った魔法と同じだった。
「おぉ~」
「これは雷魔法のライトニング。雷魔法の初歩の魔法であります。自分の胸にあるこの紫色の魔石は雷の魔石と言って、雷魔法が使えるのであります」
「ビーロ先生は水魔法もご存じなのですか?」
「もちろんであります。初級の魔法ならほとんどの魔法を知っているのであります」
さすがビーロ先生!頼りになるぜ!
「それで!水魔法にはどんな魔法があるんですか!?」
俺は興奮気味にビーロ先生に質問する
「お、落ち着くであります。まずは初歩の魔法、コレクトウォーターからであります。自分は水の魔石持ちではないので水魔法を使うことはできないでありますが、理論的には雷魔法と同じはずであります」
「ふむふむ」
「大事なのは、魔素を魔力として出力するイメージと、使用する魔法の効果のイメージと、使用する魔法の詠唱を一致させることであります」
「なんだか難しそうだな」
「要は、魔石に意識を集中して、使用する魔法をイメージしながら、魔法を唱えれば良いのであります。コレクトウォーターは、水を集める初歩の魔法であります。ここにある池の水を、自分の方に集めるイメージで、コレクトウォーターと唱えるのであります」
「なるほど……よし、とりあえずやってみるか!」
「自分を信じるでありますよ!」
俺は背中にある青色の魔石に意識を集中する。すると、魔石から何かエネルギーのようなものを感じることができた。これが魔素、そして魔力なのだろうか。
俺を中心として周囲の大気が緩やかに動き出すのを感じる。
俺は、池の水を自分に引き寄せるように強くイメージする。……よし、頭の中ではっきりとイメージできた。あとは唱えるだけだ…!
「コレクトウォーター!!」
俺の背中にある水の魔石が強く輝き、俺の周囲に風が巻き起こる。
いやいや風魔法を使ったわけじゃないんだが……!
風が砂を巻き上げているのでよく見えない。
「魔法は…!池の水はどうなった!? ちょっとでも動いたか!?」
「いや……あの……動いたというか……」
俺の周りの風が治まってきた。
池の方をみると……池の水が空になっていた。空になった池の中では魚がぴちぴちと跳ねている。
「え?」
「ナ、ナナホシくん……上……」
「上……?」
俺がゆっくりと上を見上げると、そこには大量の水の塊が浮かんでいた。
できるだけ水を集めるイメージをしたが……まさかこんなことになるとは……!
そして、水を集めた後のことは何も考えてなかった。
「えっと…これは…………?」
俺は助けを求めるようにビーロ先生の方を見た。ビーロ先生は、落ち着け、落ち着けというようなジェスチャーをしている。そして、なぜか小声で話しかける。
「ナ、ナナホシくん……そ~っと……池のほうにおかえしするイメージであります……」
「な、なるほど……そ~っとですね……」
「そ~っとであります……」
「そ~っと……」
俺は、そ~っと、水の塊を池の方へと動かしていく。水の塊はゆらゆらと進み、池の中央まで移動させることができた。
「良いですよナナホシくん……!後は下に降ろすだけであります。そ~っと…」
「そ~っと……」
俺がそ~っと水の塊を池の底へとおろし始めた時――
風に吹かれた草が俺の顔をくすぐった。
「へっくしっ!」
「あっ……」
くしゃみによって集中が途切れたことで、制御を失った大量の水の塊が落下し始める。
「お、おお……?……おおおおおうわぁああああああぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ!!!」
池の底に勢いよくたたきつけられた水の一部が津波となって俺とビーロ先生を飲み込んだ。ものすごい水流で身動きができない。
このままじゃビーロ先生まで…!
俺は目を閉じて背中にある水の魔石に意識を集中させる。もう一度水を操るんだ。池に水を戻すイメージ……。頭の中でイメージが完成する。水の中なので声に出して唱えることはできない。俺は頭の中で魔法を詠唱する。
コレクトウォーター!!
すると、映像を巻き戻すかのように、今度は池の中に水が戻っていく。しかし誤算だったのが、戻っていく水に流されて俺たちまで池の中に吸い込まれそうになる。
このまま池の底まで吸い込まれたらやばい!
俺はもう一度魔法を頭の中で詠唱する。今度はもう失敗しない。俺とビーロ先生のいる周囲の水だけその場に留まるイメージ!
ここに留まれ!!
コレクトぉおおおおウォータぁあああああああ!!
俺が魔法を発動させると、俺とビーロ先生のいる空間の水だけ流れが止まり、2つの水の塊として宙に浮いた状態となった。
他の水は全て池の方に戻っていく。
俺が魔力を止めると、俺たちを含んで宙に浮いていた水は力を失ったようにバシャリと地面に落ちた。
「ごほっ…!ごほっ!」
俺が意識を取り戻すと周囲は水浸しになっており、ところどころに藻や魚が点在していた。
少し先に、ビーロ先生が倒れていた。
「先生!ビーロ先生!!」
俺はビーロ先生に駆け寄り、体を揺らし呼びかける。
「う~ん……ナナホシくん……?」
「ビーロ先生!良かった…!」
ビーロ先生が無事でなによりだ。魔法を使えるようになった恩師を危うく殺してしまうところだった。
「ナ、ナナホシくん……?その体……それに…その魔石は……!」
「へ?」
な、なんてこったぁああああああああああああああああああああああああ!!
俺は自分の体を見て驚愕した。俺の体が金色に光っており、背中の七つの魔石すべてがあらわになっているではないか!
先ほどの津波で、ビームがデコってくれたミノムシスーツと、泥パックが完全に流れてしまったようだ。
もはや言い訳なんて通じるレベルではない。なにしろ、こんなでかい魔石を7つも持った奴が変装してコロニー内に入り込んでるなんて、危険人物そのものだ。俺だったら通報する。
ビーロ先生は俺の姿を見て、さっきからずっと固まっている。ビーロ先生に通報されたら、俺は中央に連行されてしまう。
ビームとの楽しいイチャイチャライフがここで終わってしまうのか…!それは嫌だ…!まだビームに恩を返していない。せっかく魔法が使えるようになってこれからだって時に…!
なんとか…なんとかしなくては!
「あの…ビーロ先生? これには深いわけがあってですね…」
「美しい……」
「え?」
「なんて美しいのでありますか!それに背中の7色の魔石!そう!全てが違う魔石でありながら、ひとつひとつがこんなにも大きい!この姿はまるで千年前に存在したと言われるムシ族の王の再来かと思うほどにぃいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「ビ、ビーロ先生!? どうしたんですか!? おおおおお落ち着いてください!!」
ビーロ先生は何かに取りつかれたように早口でしゃべり始めた。もはや狂気といえるレベルで興奮しているのがわかる。
正直言ってちょっと怖い。
「そうか……!きっとナナホシくんが予言にあった救世主……それでビーム殿は……!やはりあの方はのんびりしているように見えて侮れないでありますね……。そうするとビーム殿がナナホシくんの主になったということ……? それはつまりビーム殿がとてつもない力を得たことに……」
「…………ビーロ先生?」
「びびっ!? ああぁあ!!えっと…!!ビーロ殿はナナホシくんのこの姿を知っているのでありますよね?」
「そ、そうですね。ビームは知ってます。もし見つかったら中央に連れていかれて尋問されるだろうから、隠しておいたほうが平和に過ごせるって」
「え? ふ、ふむ……確かに、平和に過ごしたいのであれば隠しておいたほうが良さそうでありますね……」
「やっぱり?」
「ナナホシくんが魔法を使えることはもう実証できたでありますし、おそらく他の魔石も、練習すれば魔法をつかえるようになると思うであります。とすれば、ナナホシくんはフラワ公国の英雄どころか、このフラワ公国を含む12の公国連合からなる大公園の王に君臨できる可能性を秘めているのであります」
「よくわからないですけど、俺は王様になる予定はないですね……」
なんかめんどくさそうだし
「そ、そうでありますか……な、なら自分にもブルームーンでチャンスがあるかもしれないであります……」
もじもじするビーロ先生
「あの、そういうことですから、またこの体をカモフラージュしておきたいんです。あと、このことはどうか俺とビーロ先生の秘密にしていただけると…」
「了解であります!それと、敬語は不要でありますよナナホシくん!自分とナナホシくんは秘密を共有する運命共同体と言えるのでありますから!」
ビーロ…!なんて良い奴なんだ。俺はビーロを抱きしめる。
「ありがとうビーロくん!!」
「ナ、ナナホシくん……!!」
俺とビーロくんが友情のハグをしていると、後ろから声をかけられる。
「ふぅ~ん…ビロロンとずいぶん仲良くなったんだねナナホシ~?」
「ビ、ビーム殿っ!?」
「ビィイイイイイイイイイイイイムさんっ!?」
ビームはいつもと変わらないように見えるが、何か黒いオーラのようなものが背後に見えているのは気のせいではないだろう。
ビーロくんも何か感じ取ったようで、俺に抱き着きぶるぶる震えている。
「ビロロン、ナナホシの秘密を知っちゃったんだね~」
ビームがゆ~くりとビーロくんに近づいていく。見た目がファンシーで可愛いだけに、それが逆に恐怖感を増す要因になっている。
「ゴメンナサイデアリマス……コロサナイデホシイデアリマス……」
なんだかビーロくんが可哀そうになってきた。命を握られた子ウサギのようになっている。
ビームの顔とビーロくんの顔が触れるくらいまで近づく。
「ビロロンは頭が良いから~。ナナホシの存在がこの大陸でどういう意味を持つか、もう気づいちゃってるよね~。でも、このことはまだビリ姉様や大公様にも秘密にしておきたいんだ~。わかってくれるかな~」
「ハイ、ダレニモイイマセン……」
なんか怖い会話してる気がするけど…聞こえてない。俺は何も聞こえてないぞ!
そして、ビームがさらに小声になってビーロくんに何か言っている。
「ビロロン、今度のブルームーンの時はナナホシに近づいちゃダメだからね~。ナナホシはボクが最初に見つけたんだから……」
何を行ったのかは聞き取れなかったが、さっきまで怯えていたビーロくんの震えが止まった
「ビーム殿!そこは自分も譲れないであります!ブルームーンはこの公国連合大公園で平等公平であります!自分も正々堂々、ビーム殿と戦うであります!」
「ど、どうしたんだビーロくん…。ビームと戦うって……?」
「ナナホシくんは関係ないっ…ことはないでありますが……これはビーム殿と自分の譲れない戦いなのでありますっ!!」
めらめらと戦意を高揚させるビーロくん
逆にビームはがっくりとうなだれる。
そして、俺の体を手でぺちぺちして抗議してくる。
「ナナホシ~!ビロロンと仲良くなりすぎだよ~!も~!も~!」
えっ、どういうこと? っていうか、ブルームーンって、結局なに?
俺たちはその後、協力して泥パックとミノムシスーツを作り第13コロニーに戻った。
今回もブルームーンについて聞ける雰囲気ではなかったので、ブルームーンは謎のままだった。誰か教えてくれ。
今度ビーリアさんに会ったらこっそり教えてもらおうかな…
魔法植物研究所の一室
薄暗い部屋の中で、ビーラとビーロが密会をしている。
「で、どうだったのビーロっち!? あの泥団子の弱みとか、隠してる秘密は見つかった!?」
「……」
自分はナナホシくんとすでに同士であります。ナナホシくんを裏切るようなことはできないであります。
でも、もしここでビーラ殿と手を切れば、ビーラ殿を監視する者がいなくなってしまうでありますね……。
ビーラ殿があの種子を隠し持っている以上、へたに刺激するのは危険であります。ここはビーラ殿と協力しているふりをしてスパイに徹するのが最善でありますね。
ナナホシくんのために体を張る自分……これぞ友情であります!
「ビーロっち?」
「びびっ!?な、なんでありますか!?」
「だ~か~ら~!あいつの弱みは見つかったかって聞いてんの!」
「もっ、申し訳ないであります!何も見つかってないであります!」
「……あんた、なんか隠してるんじゃないでしょうね?」
ビーラがずずずいとビーロに近づき圧をかける
「かかかかか隠し事なんて無いであります!」
「もしあたしを裏切ったら、あの種がどうなっても知らないからね?」
「ビーラ殿!あれはとても貴重な種子なのであります!もし失うようなことになればビーラ殿もただでは済まないのでありますよ!」
「あたしが盗んだ証拠がなければ、あの種がどっかに消えてハイ終わり。それだけのことでしょ?」
「ビーラ殿……!……わかったであります。もし何かわかったら教えるであります」
「期待してるわよ!ビーロっち!」
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