魔法使いの公国連合大公園

六守 創(ろくもり はじめ)

第一章 フラワ公国編

第1話 この世界の魔法使い


金色に輝く広い部屋


 そこに大きさの異なる二匹の蜂が存在していた。


 蜂の見た目はどちらもふわふわもこもこで、どちらかといえば蜜蜂に近い。大きさは、小さい方の蜂でも大人の人間ほどもあり、大きな蜂はというと、その10倍はあろうかというほどの巨大さだった。


 小さい方の蜂が大きな蜂に対して頭を下げている。その態度でどちらが上位の存在であるかわかる。


 上位存在であろう大きな蜂が告げる。


「第13コロニー軍団長、ビーリアよ。お主には予言にある救世主を探す任務を与える。手始めに我が国、フラワ公国をくまなく探すのじゃ。よいな」


「かしこまりました大公様。 我ら、ビー族のために…」


「……」

「……」


 大公様と呼ばれた大きな蜂が、何か探すように部屋を見回す。


「ところで…ビームの奴はどこじゃ? あ奴にも招集をかけていたはずなのじゃが……」


 あせった様子のビーリア軍団長


「もっ、申し訳ありませんっ!あいつはああ見えて賢いのですが、なにしろ自由な奴ですので……」







フラワ公国山林のとある花畑


 ぽかぽか陽気の青空の元、一匹のビー族が歌を歌いながら楽しそうに飛んでいた。


「ぶんぶんぶぶぅ~ん♪ ぶんぶぶぅ~ん♪ ボクぅ~は可愛いビー族ぅ~。おっいしっいハニーをつっくれっるしぃ~。こっどもっのおっ世話も……あれ?」


 ビー族が花畑の中で何かを見つけた。

 どうやら人間と思われる青年が一人、花畑の中で倒れているようだ。

 その青年はピクリとも動かない。


「びびび……こんなところに人間がいるなんてめずらしいね〜。でも、動かないし…もしかして、死んじゃってるのかなぁ~?」


 ビー族は倒れている青年の周りを、ぶんぶん飛びながら興味深そうに観察する。


「お〜い、おにいさ〜ん、生きてる〜?」


 声をかけても、倒れた青年は動かない。


「つんつん。つんつん。ボク、初めて人間を触っちゃった……!」


 前脚でつんつんしても動かない。


「びびび…かわいそう…でもお花畑の中だから寂しくないよね…!ボク達のお花の養分にもなるし!」

「か……勝手に……お花の養分に…するな…」

「びびっ!おにいさん生きてたんだね!」



 俺は……誰かに話しかけられているが……っ……

 眩しすぎて…目が……開けられない。



 俺は、自分に何が起きたかを思い出す。

 俺は確か、昆虫学会のための論文を自宅で書いていたはずだ。

 その時、見たこともない小さな虫が現れて、餌をやって……それで……………。


 だめだ。それ以上思い出せない……どうして……? 

 俺は手を額に当て、必死に思い出そうとする。



「おにいさん?」



 そうだ、俺は誰かに声をかけられていたんだった。


「悪い…いま起きる…」


 俺は体を起こそうと、力を入れる。体は重く、ぎこちなさがあったが、動いてくれた。視界はぼんやりしていて、まだよく見えない。しかし、大地の草の感触。そして、花の香り。あたたかな日と柔らかな風。さまざまなことを感じ取れる。


「すまん。まだ意識がはっきりとしなくてな……。声をかけてくれて助かった」

「お花畑でお昼寝すると、気持ちいいよね~♪」

「いや、別に俺はお昼寝してたわけじゃないんだが……って……んん?」


 俺は、先ほどから話している声の主の姿を見る。



 小型犬くらいの大きさの黄色い何かが、宙に浮いてる……?



「どうしたの~?」

「いや、どうしたのって……」


 声の感じから、人間の子供だと勝手に思い込んでいたのだが…………この宙に浮く黄色い何かから声が聞こえてくる。


 俺は声の主をよく見ようと近づく。



「…………でっかい蜜蜂?」



 宙に浮く黄色い何かは、小型犬ほどの大きさの蜜蜂だった。蜜蜂といっても、日本でよく見るリアルな蜜蜂をそのまま大きくしたというわけではなく、蜜蜂に近いキャラクターというような感じだ。ファンタジーの世界から飛び出してきたようなファンシーさがある。


 容姿は全体的にふわふわもこもこで可愛らしい。特にふわふわなのが、首元を囲む白とピンクのファーの部分と、2本の触覚の先端のポンポンだ。つぶらな瞳は透き通ったブルー。胸部背面には2対の羽がキラキラと輝いており、どうやって飛んでいるのか、ぱたぱたとした動きにもかかわらず滞空できている。そして6脚で、腹部の先端には紫色の針があった。胸には紫色の宝石のようなものが輝いている。


 周囲のお花畑と相まって、とてもファンタジーな光景だ。

 どう考えても地球とは思えない。



 …………ここは……異世界………なのか………?



「おにいさん♪ おにいさん♪」


 声をかけられて、俺の思考が中断する。


「わ、悪い。どうした?」

「ボクは蜜蜂じゃなくて~、ビー族の、ビームだよ~♪」


 ビームと名乗ったふわもこ蜜蜂が俺の目の前でくるりと回り、可愛くポーズをキメて自己紹介する。どうやら蜜蜂ではなく、ビー族という種族らしい。やはりここは異世界なのかもしれない。なぜ言葉が通じるのかはわからないが、とにかく助かった。


「ビー族? 君みたいのが他にもたくさんいるのか?」

「そうだよ~♪ ボク達ビー族のこと、知らない? 大公園の種族としては結構有名な方だと思ってたんだけどな~?」

「大公園?」

「…………おにいさん、なんにも知らないんだね……」


 そんな、可哀そうな子を見るような目で見ないでほしい。まあ……本当になんにも知らない可哀そうな状況であることに間違いないんだけど……。


「俺は天道七星てんどうななほし。人間だ。ナナホシと呼んでくれ」

「おっけ~ナナホシ~♪ やっぱり、ナナホシは人間だったんだね~」

「……もしかして、このあたりで人間は珍しいのか?」

「うん、みんなに嫌われてるからね~」

「そうなのか!?」

「うん、人間はすぐ森を燃やすからって」


 おっと……異世界でも環境問題か……。今の話を聞く限り、ビー族と人間との関係はかなり悪そうだ。このビームという子は、人間にそこまで悪い感情はもっていなさそうだが……他のビー族と出会っていたらどうなっていたのだろう。


「?」


 考え込んでいた俺を、ビームが興味深そうに見ている。


「ああ悪い。ところで――」




「クワァアアアアアアアアアアアア!!!!」




 突如現れた黒い影が俺達の上空を通り過ぎ、その後突風が吹き荒れる。突然のことでよく見えなかったが、それの体長は俺の体の5倍はありそうだった。


「な、なんだ今の!? 鳥か!?」

「今日は運が悪いな~。隠れるよナナホシ~!」

「お、おう!」


 ビームがぴゅーんと飛んで移動を開始したので、慌てて俺も後を追う。


 ビームが進む先には木々が生い茂る森が見えた。どうやら森に逃げ込もうとしているらしい。俺も今の全力で走る。


「クワアアアアア!!」


 先ほど通り過ぎた黒い影の主が戻ってきた。やはり鳥…というより巨大怪鳥といったところか。どうやら、目をつけられたようだ。


「おいおい!こっち見てんぞあいつ!!

「急いでナナホシ~!」


 ビームは既に森の入口に到達しており、俺を待ってくれている。俺は必死に走ってはいるものの、先ほど起き上がったばかりなので足が思うように動いてくれない。


 気を抜くと今にもこけてしまいそうだ。


「起きてそうそう、ハードだな!!」


 森の入口まであと少し。ビームが、「急げ急げ~!」と8の字で飛んでいる。俺の背後からは巨大怪鳥の羽音や風圧が感じられ、もうそこまで迫ってきていることが背中越しでもわかる。


 森まではあとわずかだ。


「あと少し…」

「クワァアアアアア!!!」


「びびび……ナナホシは間に合いそうにないな……」


 ビームが肩を落とし、諦めムードになっているのが見える。


「うぉおおおおおおおおおおおおビームさん諦めないで~!」


「しょうがないな~!」


 俺の必死さが伝わったのか、ビームさんがやる気を取り戻したように見えた。すると、ビームさんの胸部にあった紫色の宝石が眩い光りを放つ。


「雷魔法! らいとにんぐ~!」


 ビームさんが何か唱えた後、ビームさんの腹部の針先から紫色の電撃が放たれた。その電撃は瞬く間に俺を通りすぎ、背後の巨大怪鳥の顔面にヒットした。


「クワワッ!?」


 突然の電撃を顔面に受け怯んだ巨大怪鳥は、俺を通り過ぎバサバサと上昇する。俺とビームはその隙に森へ入り、大木の隙間に身を隠した


「ここなら安心そうだね~わっ!」


 俺は思わずビームさんを抱きしめていた。


「ビームさん!ありがとうございます!おかげで助かりました!」

「びびび~♪ ボク、こんなに可愛いのに、すごいでしょ~♪」


 ビームがあざと可愛くポーズする。


「はい! ビームさんは親切な上に、可愛いくて強くてもう最高です!」

「ナナホシは、人間にしてはなかなか見どころがあるね~♪」


 ビームさんが俺の肩をぽんぽんと叩く。


「あざす!」


 ビームさんがいなければ俺は今頃、あの巨大怪鳥の腹の中に納まっていたことだろう。それにしてもあんな巨大な鳥は見たことがない。


「…………ところでビームさん、あの怪鳥ってここらへんじゃ珍しいの?」

「えっとね~割といるよ~」

「……まじっすか……」


 あんなのが割といるとかこの世界やばすぎるだろ。



 俺、この世界で生きていけるのかな……?



 俺にも何か対抗できる力があれば、この世界でもなんとかやって行けるのかもしれないが……。そういえばさっき、ビームさんから出た電撃はなんだったのだろうか。確か雷魔法とか言っていたような……。


「そういえばビームさん。さっきの紫の雷ってなんだったの?」

「あれは、雷魔法のらいとにんぐだよ? 見たいことない?」

「やっぱり魔法!? ビームさん魔法使えるんっすか!? まじすげぇっす!!」

「もちろん使えるよ~。あれ、もしかしてナナホシ、魔法使いになりたいの?」

「なりたい!なりたいです!魔法使い!」

「そっか~。だからこのあたりまでがんばって来たんだね~」


? なんのことだ?


「じゃあボクについて来て~。もしかしたら魔法使いになれるかも~♪」

「まじっすか!? よっしゃあ!!」


 まさか俺が魔法使いになれるなんて!異世界最高だ!この世界でもなんとかやっていけそうな気がしてきたぞ!






「ふんふんふふ~ん♪」


 俺達は険しい森の中を進んでいた。ビームは楽しそうにどんどん奥へと進んでいく。俺は慣れない森とその深さに圧倒され、不安を感じ始めていた。しかし俺にはビームを頼る他にない。信じて進む。



 しばらく行くと、ようやく建造物のようなものが見えてきた。


「ここだよ~♪」

「おぉ…!」


 遺跡と呼べるような、古い建物が森の中から現れる。その建物は蔦などの植物で覆われ、生き物の出入りはほとんど無いように見える。この深い森のなかでよくこの入口を見つけたものだ。遺跡の入口の両脇には、虫と人間の彫刻がほどこされた柱が立っており、妙な存在感を放っていた。


「この奥だよ~♪」

「なんかヤバいやつとか出てこないよな……? 罠とかあったりしない?」


 ビームは空を飛んでいるが、人間の俺は徒歩だ。何かスイッチを踏んで落とし穴に落ちたり、毒矢が飛んできたり、鉄球が転がってきたり、映画やゲームではお約束だがそんなのは絶対に嫌だ。


「ナナホシは心配症だな~。ボクは何度か来てるし大丈夫だよ~」

「そ、それならいいけど……」


 遺跡の中は薄暗いが全く見えない程ではなかった。遺跡の壁の模様が脈打つように青白く輝き、それが灯りの代わりとなっていた。


 この世界のことはまだよくわかってないが……。

 ここが特別な場所だってことは俺にもわかる。


 しばらく進むと、円形の場所が見えてきた。その中心には腰の高さの台があり、

 一匹の虫の像が鎮座していた。


「これは……テントウムシか……?」


 俺は台座の上に鎮座しているテントウムシに似た像を凝視する。


「さ、ナナホシ、ここに立って」

「お、おう……」


 ビームに導かれて、小さな円の場所に立つ


「ここでお願いすれば、魔法使いにしてくれるんだって」

「え!? 見たことがあるわけじゃないのか?」

「うん、だってここに人が入ったことなんてないし、ボクも人間を連れてきたのは初めてだからね」

「まじか……」


 俺は肩を落とす。正直、もっと確証がある話だと思っていた。ここに来るまで苦労しただけに、どっと疲れがでてくる。


「ナナホシ……ボクを信じてないの……?」


 悲しそうにしょんぼりするビーム


「あっ!いやっ!そんなわけないじゃないですか!もちろんビームさんを信じてます!」

「だよね~♪ じゃあやってみよ~♪」


 まぁ…だめでもともとだ。もし魔法が使えるようにならなくても、俺には地球の知識がある。もしかしたらそれでビームの役に立てるかもしれない。この後にでもビームに相談してみよう。


「よし、じゃあやるぞ。お願いすれば良いんだよな……?」

「そうだよ~♪」


 俺は目をつむる。


 俺にはこの世界で生きていくための力が必要だ。それに、このままではビームに借りを返すことができない。自分のため、そしてビームに恩を返すためにも力が欲しい。俺を魔法使いにしてくれ!


 俺が魔法使いになりたいと強く願った瞬間、虫の像から目を開けていられないほどの眩い光が放たれ、周囲を光で包んだ。


「す、すご~い……!!」


 ビームから驚きの声が聞こえる。数秒後、徐々に光が弱まり消えた。


「な、なんだったんだ……さっきの光は? ……………あれ? この台座ってこんなに高かったっけ?」



 俺の腰くらいだった台座が、今は見上げるほどの位置にある。



「やったねナナホシ~♪」


 俺の上空で、ビームが嬉しそうにブンブン8の字に飛びまわっている。


「もうナナホシはどこからどう見てもりっぱな魔法使いだよ~♪」


「……どこからどう見てもりっぱな魔法使い?」


 どういうことだ? 俺の体からとてつもない魔力があふれ出てるとか?


 俺は自分の手を見てみる。どう見ても人間の手とは思えない形をしていた。どちらかというとビームの前脚に近い。脚は6本あり、胴体が丸い。


 あれ? これって昆虫じゃね?


「これでボク達仲間だね~♪」




「え?」




 俺は台座の反射を利用して自分の姿を見る。その姿は人間ではなかった。


 台座の上に鎮座していたテントウムシの像があったが、よく見るとそれに似ている気がする。俺の体の大きさはビームの1.5倍ほどで中型犬くらい。そのボディは金色で、背中には七つの宝石が均等に並んでいた。テントウムシの星のかわりに大きな宝石を埋め込んだような姿だった。


「ビ、ビームさん……? これってどういう……?


「だってぇ~ナナホシが魔法使いになりたいって言うからぁ~」


 ビームが体をもじもじさせながら答える。


「魔法使いになりたいとは言ったけど、人間をやめたいとは言ってないぞ!」

「だって人間は魔法使えないも~ん」

「え、そうなの?」

「ナナホシ知らないの~? この世界の常識だよ~?」


 ビームが踊るようにくるくる回り――


「この世界で魔法使いって言ったら~♪」


 きゅるん♪ と可愛くポーズを決める。


「ボク達、ムシ族のことだよっ♪」





「知らねぇぇえええええええええええええええええええええええええ!!!!!」





 異世界に来て、魔法を使えるようになった代わりに ――


 ―― 俺、ムシ族になっちゃいました




 俺はインセクトボディになった現実が受け入れられず、まだ遺跡の中でぼーっとしていた。


「機嫌直してよナナホシ~。ね~ナナホシってば~」


 ビームは俺の背中にピッタリと抱き着いてうりうりしている。俺がムシ族になってからビームのスキンシップが強くなったような気がする。


「わかったよ。もともと俺が無知だったのが悪いんだし、魔法使いになりたいって頼んだのも俺だしな。それに、虫も嫌いってわけじゃない。どちらかというと好きだ」


「やっぱり~♪ ナナホシはそうだと思ってたよ~♪」


 ビームにぎゅ~っと抱きしめられた。ビームはとてもうれしそうだ。俺の体は金ピカのインセクトボディになってしまったが、この世界には魔法がある。ムシの体になれたのだから、人間の体に戻る方法もあるかもしれない。この辺りでは人間は嫌われてるみたいだし、とりあえずこの体で生活し魔法を使えるようになってから人間の体を取り戻す方法を探そう。それに、ビームに恩返しするというならこの体の方が役に立てそうだ。


「さて、これからどうするかな」

「ボク達のコロニーにおいでよ~。ナナホシなら大歓迎だよ~♪」

「俺はビー族じゃないけど、行って大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ~♪ 数は少ないけど、ビー族じゃないムシ族もいるからね♪」

「そっか、なら大丈夫そうだな」

「あ~…」


ビームが何か思い出したのか、懸念のありそうな感じを出している。


「な、何か不安なことがあるのか? そういうのは早めに頼むぞ……!」

「えっとね~…ナナホシはコロニーでもちょっと…、いや、かなり目立っちゃうと思って……」

「どういうことだ? 他のムシ族もいるから大丈夫なんじゃないのか?」

「この背中の魔石だよ~」


 俺の背中に並んでたあのでかい宝石は魔石だったのか!


「ビームの胸についてる、それも魔石?」


「そうだよ~♪ この魔石があるから、ボク達魔法使いは魔法が使えるんだ♪」


 なるほど…逆に、人間には魔石がないから魔法が使えないってことか。


「で、俺の魔石がどうだっていうんだ?」


「だって~こんなにおっきいし~。それに、7属性もあるし~。」


 ビームに詳しく聞くと、魔石の大きさは魔力の出力に関係し、大きい程高出力な魔法が使えるらしい。あと、魔石の色は魔法の属性を表している。ビームの魔石は紫色をしている。俺の魔石は、中央に大きな黒い魔石があり、それを囲むように紫、赤、青、緑、橙、水色、の魔石が並んでいた。


「黒の魔石はビリ姉以外で初めて見たかも♪」

「珍しいのか?」

「そうだよ~。特別な魔法が使えるんだ~」

「特別な魔法?」

「そのムシだけが使える魔法だよ~」


 つまり、俺しか使えないユニークな魔法があるってことか……それは楽しみだ。


「おっと、話がそれたな。つまり、俺が持ってる魔石がかなり特殊だから、目立つってことか」

「そゆこと~♪」

「ちなみに……目立つとどうなる?」

「う~ん……ボク達の大公様のところまで連れていかれて、いろいろ尋問されちゃうかも~」

「やだなぁ…」

「ボク、ナナホシともっと一緒にいたいし……連れていかれると困るな~」

「なんか良い方法ないのか?」

「う~ん……変装するとか?」

「変装?」

「うん、魔石が目立たなければ良いから~隠しちゃえば良いんだよ~♪」

「なるほど…ミノムシ作戦か。木の枝とか葉っぱで隠すんだな?」

「そうそう~。そういうムシ族もいるから、きっと大丈夫だよ~」

「よし、その作戦でいこう。俺もビームとは離れたくない。ビームには命を救ってもらった礼もあるし、恩を返したいんだ」

「びびび~♪ お礼なんて良いよ~♪ でも、うれしいな♪」




 俺はビームに手伝ってもらい俺は変装を始める。まず体中に泥を塗り、金色だった体は土色に、そして枯葉と枝でデコレーション。飾り付けはビームにおまかせした。ビーム曰く、完璧とのこと。さすがビームさん。


 変装を終えた俺たちは、ビームに案内されて第13コロニーへと向かった


 人間の時とは違いこの体には羽があった。ビームに空を飛ぶコツを教わると、割とすぐに飛べるようになった。高いところを飛ぶのはまだ怖いので低空飛行だったが、人間の体で草をかきわけて進んでいた時とは段違いに速い。ビームと一緒に空を飛ぶのも楽しかった。


 俺が飛ぶ練習をしながら進んでいると、気が付いた時にはコロニーに到着していた。


「これがボク達の我が家、第13コロニーだよー♪」

「うひょ~!でっけぇ~…!!」


 俺の目の前にそびえ立つコロニーは超巨大な高層ビルのようだった。敷地面積は東京ドーム4つ分以上あるのか、かなり広い。そしてなにより高さがある。高さは…高すぎてよくわからないことになっている。それに、第13コロニーってことは、このレベルの建造物が少なくとも13何個はあるってことだ。


……ビー族恐るべし。


「じゃ、行こっかナナホシ~♪」

「ああ、頼んだぜビーム」

「オッケー♪ ボクに任せてよ~♪」


 俺たちはコロニーの入口に近づく。入口に近づくにつれ、コロニーの巨大さが伝わってくる。圧倒されるほどの大きさだ。そして、入口付近には出入りで忙しくしている他のビー族と、門番のように待ち構えているビー族達がいた。そして俺は、あることに気がついてしまい戦慄を覚えていた。


 み、見分けがつかねぇ……!


 ビームと他のビー族との違いがわからない。これはかなりまずい。出入りが激しいこの中でビームと一度はぐれたら、見つけるのは至難の技だ。っていうかビームに俺を見つけてもらわないと無理!絶対無理!!


「どうしたのナナホシ?」

「えっ!? いや、ビー族ってみんな似てるな~と……」

「え~そうかな? でも、ボクが圧倒的に可愛いでしょ?」


 言えねぇえええええええええええええええ!!!

 どれも全く同じに見えるなんて絶対に言えねぇえええええええええええ!!


「そうだな!やっぱりビームが一番可愛いぜ!」

「びびび~♪ ナナホシわかってるぅ~♪ じゃ、ボクは門番達に説明してくるから、ここでちょっと待っててね~♪」

「お、おう…早めに帰ってきてね…」


 ビームがビー族達の群れに入っていく。もうビームがどこにいるかわからなくなった。



 俺がビームを待っていると、後ろから誰かに声をかけられた。


「ちょっとあんた、こんなところにいられると邪魔なんですけど?」


 振り向くと、知らないビー族の子だった。他のビー族と見た目の違いがわかるわけではないのだが、声がビームとは明らかに違っていた。確かに、こんな道のど真ん中で待っていたのは良くなかったかもしれない。


「す、すみません。知り合いのビー族を待っていたもので…」

「あんた……見ない顔ね? 知り合いのビー族? 本当に?」


 探るように俺を見るビー族。やばい、さっそく疑われてしまった。


「まさかあんた、あたし達の神聖な第13コロニーに入るつもりじゃないでしょうね?」


「そのまさかだよビーラちゃん」


「ビ、ビームちゃん……!?」


 ビームが戻って来てくれたおかげで助かった。なるほど、この子はビーラっていうのか。どうやらビームの知り合いみたいだな。


「こ、こんなところで奇遇ねビーム。もしかしてこの泥団子、あんたの客だったりするわけ?」


 泥団子呼ばわりである。ひどい。


「ビーラちゃん。この方はボクの大切なお客様なの。だから失礼なこと言わないでね」

「ふ、ふんっ!なら、さっさと行けば!?そこに居られると邪魔!迷惑なの!!」

「わかったよビーラちゃん。でもビーラちゃんもこんなところで大きな声出すとみんなに迷惑だからやめたほうが良いよ~」

「うぅっ…」


 えっ…ビームさんつよっ…


「ボク達邪魔なんだってさ~♪ 行こ~ナナホシ~♪」

「あ、ああ……そうだな……」


 後ろを振り向くと、ビーラって子は怒りと悲しみで、今にも泣きそうに見えた。




 俺は門番のビー族にチェックされそうになったが、ビームの客だということがわかるとすんなり通してくれた。


「おお…中は涼しくて快適だな〜」

「でしょ~♪」


 コロニーの中は少し薄暗かったが、不思議と風通しが良い。ところどころに開いた窓から外の光が差し込んでおり、その光がコロニーの壁で反射され内部を明るく照らしていた。


 ビー族達はコロニー内部でもせかせかと移動している。


「みんな忙しそうだな」

「そうだよ〜。建物を整備したり〜。赤ちゃんのお世話したり〜。花の蜜を集めに行ったり〜。防衛もしなきゃだし〜」

「ビームは何を担当してるんだ?」

「びびび〜♪ 何だとおもう〜?」


 楽そうに俺の周りをぶんぶん飛ぶビーム


「そうだな~お花畑にいたし……外で蜜を集める係!」

「ぶぶぶーん!はっずれ~♪」

「ちぇー、答えは?」

「答えはね〜……」


 ビームが顔を近づける


「な・い・しょ♪ だよー♪」

「なんだよ~」


 やばい…!ビームとイチャイチャするのめっちゃ楽しい!




 そんな二人の姿を影から観察するビー族がいた


「あんの泥団子…!ビームちゃんとあんなに楽しそうに……!絶対に許せない!!」




 俺はビームに案内されるまま、コロニーの中を移動していた。

 ビームによると、コロニーには1万以上の区画があり、コロニーの中心に行くほど重要な施設があるとのこと。なので中心に行くほど警備も厳重になる。俺のように外部から来た客のために、コロニーの外壁に近い場所に客用の居住区画が設けられているらしい。俺はそこに住まわせてもらうことになった。俺としても、内部で迷うよりも外に近い場所の方が安心できる。よく設計されているなと感心する。


の部屋はここだよ〜♪」


じゃ~ん♪ と、ビームが部屋を紹介してくれる。


「えっ…!? めちゃくちゃ広くないか!? ……って、ボク達?」

「びびび〜♪ ナナホシと一緒の部屋にしてもらっちゃった♪」


 きゃ~♪ とはしゃぐビーム。

 第13コロニーは、ビームが暮らしてる場所なんだよな?


「ビームは自分の部屋があるんじゃないのか?」

「びびっ!?……ナナホシはボクと一緒の部屋は嫌なの……?」


 しょんぼりするビーム。ビームが一緒で嫌なわけがない。


「そんなわけないじゃないか!こんなに可愛い子なら大歓迎だぜ!」

「びびび〜♪ ナナホシわかってるぅ〜♪」


 部屋は俺とビームの二人だとしてもかなり広い。

 蔦で編まれたベッドらしきところには藁がふかふかに積まれている。水を飲む場所や、トイレらしきところもあり、部屋の入口には扉までついている。まさかコロニー内の部屋にプライベート性があるとは思わなかった。大部屋に複数匹が暮らしているような勝手なイメージをしていた。ビー族の生活水準は思ったより高そうだ。そして、住む場所が確保できたことで安心したのか、俺は自分の腹が減っていることに気が付いた。


 そういえば目が覚めてから何も口にしていない。倒れる前の記憶がはっきりしていないのでいつから食べ物を食べていないかもわからない。


 というかそんなことより……


 俺って何が食えるんだ?


 何しろこのインセクトボディになってから数時間しかたっていない。この体は人間と同じ物が食えるのか? そうとは思えないが……。


「ビームさん」

「な~に~?」

「俺って何が食えるんでしょう?」

「う~んとね~……わっかんない♪」

「わっかんないか~」


 さすがのビームさんでもわからないことがあるようだ。


「……ちなみに、ビームさんは普段何を食べてるの? 花の蜜とか?」

「そうだよ~。花の蜜とね~、花粉とね~、お水と~、あとハニ~♪」


 良かった。俺が知ってる蜜蜂とあまり変わらない。これだったら俺でも割と抵抗なくチャレンジできそうだ。


「……俺もビームと同じの食べてみて良い?」

「良いよ~♪ じゃあ持って来てあげる~♪」


 ビームがぶ~んと部屋を飛び出していった。俺も手伝おうかと思っていたのだが……今から追いかけても見つけられないだろう。


 ビームには本当に世話になりっぱなしだ。このコロニーで俺が手伝えることないか探してみよう。


 ビームに恩を返すこと。それが当分の目標だな。


 しばらく待っていると、部屋の入口の扉が開く音がした。

しかし、部屋に入ってきたのはビームではなく――。


全く知らない複数のビー族達だった。


 先頭のビー族は他と違って体がかなり大きい。ビームの5倍はありそうだ。ビームよりももっとふわふわもこもこしていて羽も6枚ある。額には紫の魔石が3つ、そして胸には黒い魔石があった。黒い魔石は珍しいとのことだったが……。


「ふむ、貴様が報告にあったムシ族で間違いないようだな」

「あの……あなたは……?」

「私はこの第13コロニーの軍を統括する軍団長ビーリアだ。貴様には窃盗の容疑がかけられている」



「えぇえええええええええええええええええええええええええ!?」



 俺が窃盗!?どういうことだ!?


「俺はここに着いたばかりなんですよ!?いったい何を盗んだって言うんですか!?」

「マザーローズの種子だ」

「ま、まざーろーず……?」

「そうだ、ここフラワ公国において花は最も重要なものだ。その中でも原初の力をもつマザーローズの種子は我が国の秘宝の一つなのだ。それが盗まれていた」

「な、なるほど……盗まれた物はわかりました。でも、そんな大事な物、今日初めて来たばかりの俺に盗めるものなんですか?」

「さぁな。だがお前に似た者が保管区画の近くでうろついていたとの目撃情報がある」


「ええ!?」


 どういうことだ…誰かにはめられてる…? でもなぜ……。


「悪いが体を調べさせて貰うぞ」

「えっと……ちょっとそれは……」

「ん? 何か後ろめたいことでもあるのか?」

「あ、いや~そういうわけではないんですが……」


 もしここで俺が着ているミノムシスーツを外されたら俺の魔石が見られてしまう。ビームによると俺の魔石はかなり珍しいものだから、これを見られたら中央に連れていかれて尋問されるかもって言われてるし……できれば目立たずに平穏に暮らしたい。


 でも断ったらどう考えても怪しいし、どうしたら……。


「みんなどうしたの~? こんなに集まって~」

「ビ、ビームさん!!」


 助かった。ビームが食事をもってふわふわと部屋の中に入ってくる。

 すると、ビーリアさんがビームを見て驚く。


「ビーム!? こんな所にいたのか君は!大公様の招集にも応じず何をしていた!」

「え~? 知らないよ招集なんて~。遠くにいたから通信が届かなかっただけでしょ~? ボク、行くなんて返事してないも~ん。


 どう見てもビーリアさんの方が上司っぽいのだが、怒られてもビームはまったく動じていない。


「ビリ姉こそなんでここにいるの~? 遊びに来た?」

「そんなわけないだろう……。というかビリ姉と呼ぶなといつも言っている。私の名前はビーリアだ。まったく…」


 どうやらこの二人は姉妹らしい。


「私はこの者を捕らえに来たのだ。この者にはマザーローズの種子を窃盗した容疑がかけられているのでな」

「そうなんだ~。でも、ナナホシは違うと思うな~。だってコロニーに入った時からボクとずっと一緒だったんだも~ん」

「なに? そうなのか?」

「はい!そうです!」


 俺はビシィ!と敬礼して答える。


「ふむ、だが私がここに来た時は貴様だけだったではないか」

「それはボクがごはんを取りに行ってたからだよ~」


 ビームが手にもっている食事をアピールする


「……というかなぜこの者の食事を君が運んでいる?」

「今日からここでナナホシと一緒に暮らすんだも~ん♪」


 頭を抱えるビーリアさん。わかる。かわいい妹が見知らぬ男と急に同棲するなんて言い出したらそりゃ心配するよね。特にビームは天然っぽいし…


「許可できない。ビーム、君は自分の立場をわきまえたらどうなのだ?」

「知らないも~ん。それに、ナナホシなら大丈夫だよ~。ボク達と種族だって違うし~。安心でしょ~?」

「何を言っているんだ君は。ブルームーンになったら種族なんて関係なくなるだろう」


ブルームーン?


「あ~!ダメだよビリ姉~!せっかくナナホシをびっくりさせようと思ってたのに~!」


 ビームが珍しく本気で怒っている。さらに頭を抱えるビーリアさん。

 ……っていうか、ブルームーンって……なに?


「ええい!話がそれた。もういい。こいつを連行しろ」

「ダメダメ〜!」


 俺の周りをビー族が取り囲む


「大人しくついて来るなら手荒な真似はしない。抵抗するなら容赦はしないがな」


 従うしかないか…俺が特殊な魔石持ちの魔法使いってことはバレるかもしれないが、元人間だということまではわからないだろう。ビームがバラすとは考えにくい。でも、本当に他に方法はないのか?


「俺が無実だと証明する方法ってないのか?」

「まあ、あるにはある。例えば、貴様が私と主従契約を結んで私の従者となるとかだな。そうすれば貴様は私の命令に逆らえなくなる。嘘をつくなと命令すれば嘘をつけなくなるわけだ」

「なるほど……じゃあ主従契約を結んでやろうじゃないか」

「ほう?」

「ナナホシー!」

「だが、俺の主となるのはあんたじゃない。ビームだ!俺はビームになら自分の命を差し出しても構わない」

「ナナホシ……!!」

「……いいだろう。お前の覚悟はわかった。どうするビーム。この者が君の従者となるのなら、一緒に暮らすことを拒む理由もなくなるが」

「本当に良いのナナホシ…?」

「ああ、ビームには命を救ってもらったし、恩返しもしたい。それに、君と一緒にいるのはとても楽しいんだ。もっと一緒にいたい」

「ナナホシ〜!!」

「ええい!婚約のような言い方をするでない!契約するならさっさとしろ!私は他の任務で忙しいのだ…まったく…」


「じゃあはっじめっるよ〜♪」


 主人公とビームを囲むように円形の紋が広がり紫色に輝く。


 ビームが俺に問う


「汝は私を主と認め、契約しますか」


 俺がビームに答える


「はい、あなたを主と認め、契約します」


 紋の光が強く輝き、俺とビームの周りを風が舞う。数秒すると紋が輝きとともに消え、静かになった。俺は目を開けて自分の体を見る。特に変化はないようだ。だが、ビームのほうは何かを感じとったのか、驚いているように見えた。


「これは……まさか……」


「ん?どうしたのだビーム。まさか契約に失敗したのか?君がそんなミスをするとは思えないが……」

「……」

「……」

「……」


「な~んちゃって~♪ もちろん契約は大・成・功っだよ〜♪」


 長い沈黙の後、ビームがきゅるん♪ と可愛いポーズをとる。


「なんだ……紛らわしいことをするな。黙っているから心配したではないか…まったく…。ではこの者に命令するのだ。これから質問することに嘘をつくなとな」

「おっけ~♪ じゃあナナホシ〜これからボクが質問することに正直に答えてね〜?」

「おう!わかった!」

「では質問しま〜す。あなたは〜マザーローズの種子を盗みましたか〜?」


「いえ!盗んでません!」


「……」

「……」

「……」


 特に何も起きない。っていうか、命令に逆らったらどうなるんだ? 

 ……と、突然死んだりしないよな…?


「ほらね~。ナナホシは盗んでなかったでしょ~」

「うむ、これでこの者の無実は証明された。ナナホシ、疑って悪かったな」

「いえ、ビーリアさんは職務を全うされただけですから」

「そう言ってもらえると助かる。君の覚悟は見せてもらったぞ。ビームはとても賢い子なのだが、天然な上に恐れ知らずなので少々心配な所があるのだ。ビームのことをよろしく頼む」

「はい!」

「ビリ姉は心配性なんだよ~」

「ビリ姉と呼ぶな!……はぁ…なんだか疲れた。ではな。私は大公様の任務に戻る。他に怪しい奴を見かけたら報告するように」

「は~い」

「お疲れ様です」


 ビーリアさん、思ったより怖い人じゃなさそうだ。ビームのことも本当に心配してるみたいだし、良いお姉さんじゃないか。っていうか、疑いが晴れて本当に良かった。これで胸をはって暮らしていける。


 疑いがあったままだとここでの生活にかなり支障がでていたはずだからな。ビームと主従関係を結ぶことになったけど俺は全く後悔していない。むしろビームとの絆が深まったとさえ思える。


「ビーム、改めてよろしくな!」

「うん♪ こちらこそよろしくナナホシ~♪」


 明日からこのフラワ公国第13コロニーの生活がはじまるんだ!さっさと仕事を覚えて、少しでも早くビームの役に立てるようにがんばるぞー!



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