「大河編」
大都市アーデルムのギルド本部で、海・湖・山と魔魚を生み出す黒装束の陰謀を追ってきた守(まもる)・ガーラン・リーリアの三人は、新たなステージとなる大河グラン・リバーへ向けて旅立つ決意を固めていた。
ギルドからも正式に「特別捜査隊」の一員として任命され、魔術師エマをはじめとする新たな仲間や情報網が整備されつつある。黒装束が目をつけているという“大河”の流域――そこには古代遺跡や封印の痕跡が点在し、さらなる魔魚の脅威が潜んでいるかもしれない。
「よし、行こう。今度は“釣りの本場”とも呼ばれる大河だって話だから、俺も燃えてきた!」
「釣りバカはいつでも楽しそうね。でも、油断しないで。黒装束が先回りしてる可能性だってあるわ」
そんなやりとりを交わしつつ、守たちは人々を危険から救うべく、大河の流域へと足を運ぶ。古代より“豊かな恵みの水源”として栄えた地域が、いま大きな陰に包まれようとしていた。
アーデルムから大河へ向かうには、街道をひたすら進む陸路もあるが、途中の運河を利用し、船で移動するルートが最も早い。ギルドが手配した小型船を乗り継ぎ、守たちは数日かけて川沿いの港町ロチェットを目指す。
この町は、大河グラン・リバーと運河が合流する拠点で、“釣り人たちの集まる市場”や“船乗りの店”が立ち並ぶ賑やかな雰囲気。昔から「大河の恵み」を受け、魚介や交易で栄えてきたという。
「ここなら、いろんな釣具がありそうね。魔魚との戦いに備えて、しっかり装備を調達しておきましょう」
「いやー、こんなに盛り上がってるのを見ると、釣りバカ心が疼くなぁ!」
ガーランは苦笑しつつ、「くれぐれも魔魚相手の特訓ばかり考えるんじゃねぇぞ」と忠告するが、守の瞳はすでにキラキラと光っている。
さらにロチェットでは、「最近、川上の集落で奇妙な魚が暴れている」という不穏な噂を耳にする。まさか、黒装束がもう動き出しているのか――?
港町で情報収集をする中、守たちは偶然にも新たな冒険者たちと知り合う。
- ギル … 厳つい顔の剣士だが、かつて大河周辺を旅しており、黒装束について何か知っている様子。
- マーレン … 人魚族と人間とのハーフの少女で、川や湖での“泳ぎ”と“魔法”が得意。ロチェットで人目を忍びながら暮らしていたが、最近の騒動で生活が脅かされている。
「あなたたちが噂の“魔魚ハンター”なの? もし本当に魔魚を倒せるなら、お願いしたいことがあるわ。私の友人が行方不明になって……」
「行方不明……またか。黒装束が攫ってる可能性は高いな」
ガーランとリーリアが顔を曇らせ、守は「ひどい話だ……すぐ調べよう」と真剣な表情をする。人魚の血を引くマーレンは、水中の捜索などでも役立つかもしれない。ギルは口数が少ないが、大河周辺の地理や昔話をよく知っているらしく、黒装束の足取りを追う上で貴重な存在になりそうだ。
ロチェットに滞在した守たちは、ここでも黒装束に似た人物の目撃報告をいくつも聞きつける。さらに、川上のほうで“水かさ”が異常に増したり、村々が不穏な雰囲気に包まれているらしい。
守はギルたちと意気投合し、「一緒に川上へ行こう」と提案する。マーレンも友人を探したいと強く願い、リーリアとガーランも同意。
こうして、剣士ギルと人魚ハーフのマーレンが新たに加わり、総勢五名のパーティとして大河をさかのぼる旅が始まった。
川を上る途中、小さな村をいくつも通過するが、どこも妙な被害に悩まされていた。
- 家畜や魚が一晩で大量に消える
- 河岸に奇妙な足跡が残っている
- 夜中に聞こえる不気味な水音や低い唸り声
まるで海や湖で目撃した事象と酷似しており、黒装束による新たな魔魚づくりを疑わざるを得ない。
「また同じ手口か……。奴ら、ほんとに手広くやってやがる」
「行方不明者も出てるよ。どうやら夜釣りや水汲みに出た人が戻らないらしい」
ガーランが怒りを抑えきれない声で吐き捨てる。リーリアは静かに矢を握りしめ、「急がないと」と緊張感を漂わせる。
上流へ進む道中、壊れかけた古い橋の付近で魔物の気配をビンビンと感じ取る。かつては大河を渡る主要ルートだったが、今は新しい橋に取って代わられ、廃橋のようになっている。
大きく崩れた橋脚の周りに水草が繁茂し、まるで水中の“巣”のようになっているのが見える。マーレンが水中を覗きに行くと、泥の奥に大量の“骨”や“人の遺留品”が沈んでいるのを発見し、悲鳴を上げる。
「これは……行方不明になった人たちの……!」
「やはり魔物の仕業か……それとも黒装束がここをアジトに?」
激しい憤りを胸に、守たちはすぐに調査を開始する。しかしその矢先、水中から長大な魚影がヌッと姿を現す。背ビレや鱗には黒い瘤がつき、血のような赤い目でこちらを睨んでいる。
激しい波しぶきとともに、川の魔魚が橋脚を割って陸へ迫る――。
再びの魔魚との戦闘。だが、ここは大きな川の流れの真っ只中にある半崩壊の橋脚周辺だ。足場が悪いうえ、濁流や水中からの奇襲も警戒しなくてはならない。
ガーランとギルが前衛となり、剣での応戦を試みるも、魔魚はヌルヌルと体をくねらせ、牙付きの口や棘の生えたヒレで攻撃してくる。リーリアは弓で狙いを定めるが、動きが速すぎて的が定まらない。
一方、守は「釣り竿で引き寄せるしかない……」と判断。マーレンが水中を泳ぎながら撹乱してくれた瞬間を狙い、ルアーを投げ込む。
「うわっ……引きが強い、でもこの流れの中でやるしか……!」
橋脚の残骸が邪魔をし、ラインが引っかかりそうになるたびに守はチート竿の妙技を駆使して回避する。ガーランとギルが魔魚の動きを押さえ、リーリアが援護射撃、マーレンが水中から刃付きの短槍でヒレを狙う――総力戦だ。
最終的には、魔魚の動きが鈍ったところを守が強引に“抜き上げ”る形で陸に倒れ込ませ、ギルとガーランが同時に止めを刺す。
「はぁ、はぁ……何とかやった……! でも、まだ背ビレの一部が動いてるぞ……」
「魔石の破片……探さないと。黒装束が埋め込んだ可能性があるわ」
死闘の末、魔魚を仕留めたものの、内部からやはり黒い魔石の小片が見つかる。彼らの推測どおり、海・湖・山岳地帯と同様に、ここでも同じ手口が使われていた。
古い橋周辺を片づけながら、マーレンは水中の骨の山に混じって、友人のものらしきアクセサリーを見つけてしまう。ショックを受けるが、まだ生死がはっきりしない以上、「黒装束が別の場所へ連れ去った可能性はある」と踏みとどまる。
すると、ギルがふと何かに気づき、壊れた橋脚の奥から古びた石版を見つけ出す。そこには“大きな川を守る神”や“ラカスの都”を示す文字が彫られていた。
「ラカス……確か大河の上流にある古代遺跡だが、封印とか言い伝えが多い場所なんだ。あそこが怪しいかもしれない」
「黒装束がそこをアジトにしている? あるいは魔石の儀式場か……?」
急ぎ周辺の村で聞き込みを続けると、ラカス遺跡には近年誰も近づかない。場所自体が防壁に覆われ、封印されたままという。だが、ここ数週間で妙な人影(黒装束らしき)が出入りしているとの情報を得る。
守たちは迷わずラカス遺跡へ向かう決定を下す。川沿いをさらに遡り、険しい岩場を越えた先に、巨大な石造りの門が崩れかけて佇んでいた。これがラカスの遺跡入口らしい。
門をくぐると、朽ちた都の廃墟が広がり、かつては水路や水車で栄えた痕跡が見受けられる。石の街路に苔が生え、半分水没している区画もある。
予想どおり、各所で黒装束が見張りのように配置されている。気づかれないよう、リーリアが先導し、ガーランとギルが斥候を倒しつつ、マーレンが水中ルートから回り、守と合流する。
「やはり……奴らの本格的な拠点かもしれない。手早く突入して行方不明者を探そう」
「気をつけて。封印術らしき仕掛けもありそう」
ラカス遺跡の奥へ踏み込むと、黒装束の集団が儀式を行っている空間に出くわす。古い神殿らしき場所に巨大な水槽が設置されており、その中にはドロドロと濁った液体と無数の魚らしき影が蠢いている。
彼らは行方不明者を生贄や素材として、次なる“魔魚”を大量生産しようとしているのだ。石碑には「闇の水神を讃える讃美歌」が刻まれ、狂気じみた雰囲気が漂う。
「またおまえたちか……いい加減、邪魔をするな! ここで最後を迎えさせてやろう」
黒装束のリーダー格が叫ぶと、水槽の中から巨大な複数の魚形生物がうごめき、ガラスを突き破らんと暴れ始める。
「やばい……あれが孵化しきったら、一度に大量の魔魚があふれ出す!」
「阻止しなきゃ。行くぞ、みんな!」
守は釣り竿を構え、リーリアやガーランたちは武器を手に突撃。水槽を破壊するか、術式を止めるか――二つの作戦が同時進行する中、黒装束が妨害呪文や魔法生物を呼び出し、激しい戦闘に突入する。
ガーランとギルが黒装束たちを引きつけ、マーレンが水中魔法で周囲の水位を操作し、リーリアが的確に敵を射落とす。守はチート竿の“光の鞭”やルアー攻撃を駆使しつつ、圧倒的な数の魔魚に立ち向かう。
しかし、水槽の半分が割れたことで、途端に大量の小型魔魚が遺跡内に散らばり、人々を襲い始める。地面は水浸しになり、腐臭を放つ液が流れ出す混乱状態だ。
「くそっ、これじゃラチがあかない……!」
「守さん、ここはあなたの“釣り”で大物を狙うだけじゃなく、小型を一気に引き寄せられないか?」
「わかった……やってみる!」
守はタックルボックスから範囲用のルアーを取り出し、騒めく水中へキャスト。バイブレーションや光の波動を強力に発生させ、小型魔魚をまとめて誘導しようとする試みだ。
すると魔魚たちがルアーに集中し、一か所に群れが集まり出す。そこをガーラン、ギル、マーレンが一斉攻撃し、何とか殲滅に近い形に持ち込めた。
一方、リーダー格の黒装束は奮闘を続けている。呪符を用いて自らの体を魔魚と融合させるような邪法を使い、半人半魚の怪物へ変貌する。
「これが……水神さまの力……人間など……くだらんッ!」と叫び、恐るべき跳躍力と水魔法で攻撃してくる。
リーリアの矢も簡単には通じず、ガーランとギルも苦戦を強いられる。守は竿を引きながらタイミングを計り、“魔力鞭”で動きを止め、マーレンが下半身を氷の魔法で固める――こうした連携でようやく僅かな隙を作る。
「今……一気に押し込め!」
「やぁぁぁッ!」
ガーランとギルが剣撃を畳みかけ、リーリアの矢が怪物の胸を貫く。守も竿先に渾身の魔力を注ぎ、怯む怪物を強引に引き倒すような動きで動線を封じる。
血混じりの水しぶきを上げ、リーダー格はうめき声を上げながら倒れ込む。床に転がり、もはや動けない状態に……が、息絶える寸前まで「闇の水神は蘇る……」と呟くのを止めなかった。
黒装束の中心人物を打倒したが、ラカス遺跡全体が大規模な水害と魔力暴走で崩壊の危機に陥る。天井がきしみ、壁が割れ出し、水路から大量の水が流れ込む。
守たちや生き残った囚われ人(わずかにいた)を救出しつつ、急ぎ地上へ脱出。かろうじて破壊を食い止めたものの、遺跡の大半は水没し、もう二度と深部には入れないかもしれない。
残された石板や魔石の破片から、“闇の水神”の眠る場所がまだ別に存在するらしいことが分かる。海や湖、山での封印もすべて一部にすぎず、どうやら“本拠地”とも呼べる聖域がある可能性が浮上する。
「やっぱり、これは序章に過ぎないのね。黒装束の本当の狙いは、世界各地の水源に眠る封印を解いて……“闇の水神”を完全復活させること?」
「何だそりゃ……ますますシャレにならねえぞ」
大河で繰り返される魔魚騒動を食い止めたが、黒装束の支部はまだ点在しているだろう。まるで災いの根が地中深く広がっているかのようだ。
ファングリル事件以来、新たな魔魚を討伐したことでロチェット周辺の被害は落ち着きを取り戻す。行方不明者の一部も救出でき、村々の人々は感謝の言葉を伝えてくる。
マーレンも友人の命こそ救えなかったが、黒装束の悪行を暴けたことで「同じような犠牲者を増やしたくない」と強い意志を抱き、今後も仲間として旅を続ける決意をする。ギルも懇意にしていた村を守れたことに安堵し、守たちに合流して“次の戦い”へ備える。
アーデルムへ報告を送ったところ、幹部から至急の招集がかかる。どうやら“別の水域”でも大規模な災害が起きており、黒装束が強行的な儀式に踏み切りつつあるという。
海、湖、山、大河と巡ってきた守たちだが、黒装束の本拠や“闇の水神”の謎はまだ遠い。むしろ、いよいよ世界規模で封印を破ろうとしている事実が見え隠れしている。
「ここまで来たら、とことんやるしかないよね。釣りバカだって馬鹿にされたって、俺は大事な水源を守りたいんだ」
「オレたちも覚悟はできてる。奴らのせいで、どれだけの人が苦しんだことか……見過ごせねぇ」
リーリアや仲間たちもうなずきあい、冒険はますます大きなステージへ向かう。エマが先にギルド本部へ戻り、新たな作戦を立案しているかもしれない。マーレンとギルはこのまま守たちと行動を共にし、より強力なパーティとなって黒装束の跡を追う。
ギルからの情報によれば、黒装束が注目する遺跡はまだ複数存在し、海底に沈む神殿や、砂漠のオアシス周辺にも封印があるらしい。どこから手を付けるべきか、悩ましい局面だ。
しかし、ギルド幹部の方針は「最も危険度の高い場所への精鋭派遣」。つまり、守たちが今までの実績を買われ、“要注意”とされる大規模な封印跡へ向かわされる可能性は大いにある。
「海、湖、山、大河……次は……海底かもしれないし、砂漠のオアシスかもしれない。でも、釣りができる水辺ならどこでも行くさ。ヌシがいれば狙ってみたい!」
「ったく、あんたは……。でも、頼もしいよ。私も覚悟を決めるわ」
ガーランやマーレンも笑みを浮かべながら、次なる水域の噂話を拾い始める。やはり“黒装束”は世界中の水辺で儀式を行っているらしく、黒い魔石を大量に集めている――そんな情報がちらほら聞こえてくる。
こうして、大河グラン・リバーでの魔魚騒動と黒装束の拠点ラカス遺跡の壊滅により、守たちはひとまずの成功を収めるが、それはまだ本当の終わりではない。
各地で同様の事件が起き、さらなる凶悪な魔魚が生み出されようとしている。闇の水神――その正体と完全復活の阻止こそが、世界を混乱から救う道だと確信し始めた守たち。
チート釣具は今回の大河での戦いを通じて、ますます進化の兆しを見せている。釣り糸に魔力を流し、複数の魔魚を同時に引き寄せたり、水流を一時的に制御したりと、これまで以上に“異能”を発揮する可能性がある。
「やっぱり、竿もタックルボックスも、まだまだ未知数だ……でもこの力をうまく使いこなせば、きっと黒装束の計画を止められる」
「ええ。私たちも全力で支えるわ。釣りバカだけど……あなたの釣り、ここまで世界を救う存在になるなんてね」
リーリアの温かな笑みに、ガーランやマーレン、ギルもそれぞれ思いを抱え、笑顔を交わす。
― これから先、訪れる水域はさらに多彩で、危険も増すだろう。海底か、神殿か、砂漠のオアシスか……いずれにせよ、黒装束の陰謀を追い詰めるには避けて通れない。
水面のきらめきに誓って、守は次の“大物”と世界の平和を釣り上げるまで決して竿を置かないと固く心に誓うのだった。
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