「アレウス砂漠編」

 海底神殿ル=オルカでの激闘を終え、命からがら生還した守(まもる)たちはギルド本部へと帰還する。ここまでの封印破壊を阻止してきたが、黒装束の狙う“闇の水神”の復活を完全に止めたわけではない。

 ギルドが各地から集めた情報によれば、残る封印地点は砂漠のオアシス“アレウス”と極寒の氷湖“アイスティア”の二か所。これを破られれば、いよいよ“闇の水神”が完全に顕現する危機に瀕するという。


「あとは砂漠と氷湖……黒装束のやつら、どっちから先に仕掛けるか分からない。もし同時に儀式を進められたら厄介だな」

「私たちも分身できるわけじゃないし……まずはどちらか一方へ全力で向かうしかないわ」


 ギルドの幹部や仲間たちが頭を抱える中、“釣りバカ”としての守は「水辺があるなら釣りができる」と妙に前向き。だが、ガーランやリーリア、そして新たに加わったマーレンとギルも、それぞれ覚悟を決めていた。


 報告によれば、大陸南部に広がるアレウス砂漠では、いくつかのオアシスが枯れ始め、人々の水源が脅かされている。謎の生き物(魔魚に近い化け物?)が夜な夜な出現し、行方不明者も続出しているという。

 さらに、黒装束の一団が砂漠の奥へ向かったとの証言もあり、封印遺跡がある可能性が高い。


 一方、北方の氷湖アイスティアでは、例年より氷が溶けだし、“永久に凍らない湖”が暴走気味に水量を増やしているらしい。吹雪や寒波が不自然に強まり、周辺の集落が孤立寸前。こちらにも黒装束が出没し、封印を解きにかかっているのは明白だ。


 ギルド上層部は、残る二つの封印地点を同時に狙う黒装束の動きに対抗するため、二手に分かれた大規模捜索隊を編成する。砂漠にはA隊、氷湖にはB隊を派遣するのだ。

 守たち“釣りバカ”パーティも、どちらかへ合流するよう指示されるが……ギルド幹部の要望は「ぜひ砂漠へ行ってほしい」だった。理由は、砂漠のオアシスが深刻な水不足&魔魚被害に苦しんでおり、守の“チート釣具”があれば“枯れたオアシスの水源を蘇らせられる”可能性に期待しているからだ。


「オアシスの地下水脈には不思議な魚が棲むという伝承があり、そこに封印が眠ると言われています。あなたの釣りバカ魂で、ぜひこの危機を救ってほしい!」

「了解です……砂漠で釣り、想像つかないけど、やるしかない!」


 一方、エマら魔術師チームや一部騎士団は氷湖へ向かう予定。もし余裕があれば、守たちも後に合流するという作戦になる。


 守たちは仲間のリーリア、ガーラン、マーレン、ギルを連れ、南下を始める。地形は一転して灼熱の砂漠。砂嵐が吹き荒れる過酷な環境に困惑しつつ、キャラたちは水分補給や魔法バリアで凌ぐ。

 “釣り”どころではない炎天下だが、伝承によると「オアシスの地下水には大きな地下湖が広がり、そこに幻の魚が棲む」と言われている。黒装束はそこを封印遺跡の一つとして狙っているらしい。


 砂漠を越えて、かつて緑豊かだったオアシスサハファへたどり着くが、そこはほぼ干上がっている。周辺の住民は逃げ出し、廃墟同然となった集落の片隅に、わずかに残った人々が怯えながら暮らしている。

 話を聞くと、夜になると砂魔魚が出現し、地中や砂の下を這い回って人や動物をさらっていくという。さらに黒装束が出入りしているという噂も……。


「砂魔魚……まさか、砂漠で魚なんて……?」

「いや、実際に遭遇した人がいる。砂の下を泳ぐように移動し、獲物を引きずり込むとか……気味が悪いよ」


 まさに異世界ファンタジーならではの凶悪生物。守たちは夜釣りの要領で砂魔魚を誘き出そうと考えるが、果たしてうまくいくのか。


 深夜、干上がったオアシスの底に罠を仕掛け、守はタックルボックスから“砂地用の仕掛け”を取り出す(チートが故に、それ用のルアーやワームが充実している)。釣り竿を構え、地面に“疑似餌”を埋める形で誘い込むイメージだ。

 やがて砂がざわざわと音を立て、巨大な魚の形をした影がうごめく。背ビレや牙の代わりに鋭い角質やスパイクを持ち、地中を潜る“サンドイーター”だ。

 守はアタリを感じると一気に合わせるが、相手は地中を暴れ回り、ラインを切断しようとする。ガーランとギルが周囲をガードし、リーリアとマーレンは砂を掘り崩して姿を露わにしようと試みるが、簡単にはいかない。


「地中に引きずり込まれる……! ヤバい!」

「頑張れ、竿を信じろ!」


 竿の強靭さを頼りに引きずり出すと、サンドイーターは周囲に飛び散る砂嵐を巻き起こし、強烈なトルクで抵抗する。最終的に守が魔力を流し込んだ“光の鞭”を地面へ叩きつけ、相手の移動を封じ、仲間たちが総攻撃――という形でようやく仕留める。

 死骸を調べると、やはり体内から黒石のカケラが発見される。まさに魔魚が蔓延していた証だ。


 サンドイーターを倒したことで、オアシス周辺の黒装束の呪詛が弱まったのか、わずかに地下水が流れ込み始める。長老格の老人が「昔はこの地下に広大な水脈があったはずだ」と言い、守たちはそこが封印遺跡につながると踏んで潜入を試みる。

 実際に地面の穴を掘り進めていくと、涼しい風とともに地下空洞が広がっている。水が滴り落ち、神秘的な地下湖が姿を見せる。水は透き通り、その底には幻の魚"サハニア”が泳ぐ影があるという噂。


「うわ……ほんとに地下湖が……しかも魚がたくさんいるよ!」

「守さん、ここも釣れるんじゃない?」

「ああ……試してみたいけど、まずは黒装束の痕跡がないか調べよう」


 地下湖のほとりには朽ちかけた石柱と、古代文字が刻まれた台座。海底神殿やラカス遺跡で見たものと似た雰囲気があり、まさしく“封印”に関連する施設のようだ。

 そこにはわずかに黒装束の気配が残っているが、既に撤退したのか、多くは見当たらない。封印そのものは完全に壊されてはいないが、ひび割れが進んでおり、いつ崩壊してもおかしくない状態。


「くそ、奴ら先回りしてるな……でもまだ間に合ったのは幸いだ」

「何とか修復できないのかしら……このままでは水神が解き放たれる可能性が高いし」


 守たちはギルド本部から預かった簡易的な“封印補強の魔法陣”を使って応急処置を試みるが、魔力が不足しているのか、効果は限定的。

 そこにさらに追い打ちをかけるように、地下湖から“サハニア”が魔魚化して出現する。先ほどサンドイーターを倒した影響か、黒装束の残留呪詛がサハニアに乗り移ったのか――巨大で神秘的な魚が狂気に染まり、襲いかかってくる。


 地下空間での大きな水域。守はここで本気の“釣り”を繰り出し、サハニアを狙い撃ちする。ガーランやギルが周囲を警護し、リーリアは上部から射撃で援護。マーレンは水中を泳いで動きを攪乱する。

 サハニアは幻の魚と呼ばれるだけあって、極めて素早く華麗な動きで翻弄してくる。だが、守が竿を変形させ、空中キャストからの水中ドリフトや“光の鞭”で一瞬固めるテクニックを駆使し、少しずつ追い詰める。

 最終的にルアーがサハニアの口に深く掛かり、力尽きたところを仲間たちが止めの一撃で浄化。崩壊しかけた封印も何とか補強が間に合い、砂漠のオアシスはひとまず安定を取り戻した。


「やった……これで砂漠の封印は守れたか……!」

「でも、黒装束はとっくに別の場所へ向かった可能性があるわね……氷湖か、ほかの封印地点か……」


 安堵に包まれる住民たちを見て、守は心に決める。「この世界中の水辺を魔魚なんかに汚させてなるもんか……」と。


 砂漠での戦いを終え、守たちはギルド本部へ急ぎ報告を入れようとする。ところが、届いた伝令によれば「氷湖アイスティアが最悪の事態に陥った」らしい。

 派遣されたB隊(エマや魔術師たち、騎士団)は奮戦したものの、氷湖の封印を完全に守り切れず、黒装束が儀式に成功。氷湖から湧き出る“邪水”が周辺地域を覆い、B隊も多くの犠牲を出して撤退したと聞く。


「そんな……氷湖が破られたのか!?」

「やはり二手に分けるしかなかったとはいえ……間に合わなかったのね」


 リーリアとガーランは悔しさに拳を震わせ、マーレンとギルも「皆が……」と言葉を失う。最終封印の一つが崩壊したことで、闇の水神の復活は秒読み段階へ移行してしまったかもしれない。


 氷湖が陥落したため、黒装束は“七つの封印”のうち六つを壊すことに成功したと推測される。あと一つ――あるいはもうすべて解き放たれた可能性もあり、各地に邪水や気候異常が起き始める。

 ギルドからの最終指令として「闇の水神が眠る“本拠地”を突き止める」ことを命じられた守たち。“釣りバカ魂”でやってきたが、今や世界の命運を背負う重大局面だ。


「最終的に奴らは、世界の中心と呼ばれる海域にある“大海の聖域”で水神を顕現させる計画らしい……。そこへ向かい、最後の儀式を止めるしかない!」

「分かった。俺たちも……釣りバカの意地にかけて、絶対に阻止してやる!」


 こうして物語はクライマックス直前の空気を帯び始める。砂漠の封印は守ったものの、氷湖は破られ、多くの仲間を失った。絶望と希望が交錯するなか、守はなお竿を握りしめ、海辺や湖、川や砂漠、あらゆる場所で釣りをしながら世界を救うことを諦めない。


 人々を救い、黒装束に破壊されそうな封印を守るため、守たちは激戦を繰り返してきた。だが、氷湖が落ちた事実は重く、ついに“闇の水神”復活を止めるラストチャンスが迫っている。

 「本拠地」――おそらくは大海の中心、または別の神域にある巨大な神殿。そこには今までとは桁違いの魔物や黒装束の精鋭が集うだろう。

 守のチート釣具はさらに進化の余地を見せながら、限界を超えたパワーを解放するかもしれない。だが、その代償が何なのかは誰にもわからない。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る