第4話 段ボール、湧き立つホール
自室から出た後も魔王は「湯は溶岩の下位互換」だの「アヒルがないと風呂ではない」だの、ぶうたれる。
それでも手首を引っ張る俺に抵抗することなく、だらだらと階段を下りて後をついてきていた。
こんなの、ぐずる子供の面倒を見ているのと変わらない。
一体、俺は何をやっているんだろう。
別に魔王なんて放っておいて、ゴミの魔物だけ倒していればいいはずだ。
そうすれば魔王はいつか不健康が祟って死ぬだろうし、人間が魔物に悩まされることもなくなって全て解決だ。
――どうして俺は、甲斐甲斐しく魔王の世話を続けているんだろう?
「おうふ」
不意に魔王が情けない声を出すと同時に、ドサン、バサン、と物が落ちる音がした。
音がした方を振り向けば、魔王が肩をぶつけたらしく段ボールの山が崩れ落ちている。
「ほら、ちゃんと畳んでねえから——」
と、言葉を続けようとした時だった。
転がり落ちた段ボールたちが、ガタ、ガタ、と魚みたいに跳ね始める。
それからホール中の段ボールがわなわなと震えながら宙に浮き、ホールの中央へ向かいだす。
「な、なんだ……?」
今までにないゴミの動きに、俺は困惑しながらも剣を鞘から抜いて構える。
段ボールたちは2本の柱を作り、その上に胴体らしきものを築き、5メートルは超える高さまで積み上がりだして……最終的に、巨大なゴーレムとなった。
『ゴゥワアァァ―――――ッッ!!』
段ボールのゴーレムは2本の長い腕を誇らしげに掲げ、紫色の二つの眼で俺たちを見下ろしていた。
その目には、明らかに俺への敵意が込められている。
「おい魔王、大人しくさせろよ! 自分で生み出したんだから命令とかできるだろ!?」
これほど大きなゴミモンスターは、まともに戦うとなれば建物が壊れかねない。
魔王の配下にして大人しくさせれば話が早い。の、だが。
「ならば燃やせばいいのだろう」
「馬鹿! やめろ!」
魔王が、のろのろと手をかざして炎の紋様を浮かべ始める。
慌てて俺はその手首を掴んで炎の魔法を中断させ、魔王を指差して𠮟りつけた。
「前同じようにゴミ処理して大火事になっただろ!」
すると途端に魔王はやる気を失ったらしく、ため息を吐いて自棄になる。
「もう構わぬ、“段ゴーレム”よ。我もまとめて殺してみるがいい」
コイツ、やりやがった。
モンスターには名前はなく、魔王が名前を与えることで支配下に置くことができる。
つまり、この魔物――“段ゴーレム”は、魔王の命令の下で俺たちを襲い掛かってくることになるのだ!
『ゴゥウオオォォーーーーッッ!』
「勘弁してくれよ……!」
魔王の手首を掴むと、全速力でホールを突っ切って洗面所へと逃げ込んだ。
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