第6話 お抹茶の体験会
次の日曜日、わたしはママと古民家に行った。わたしはよそゆきの紺色のワンピースだし、ママは何枚かある着物のうち、地味目だけど生地のいいものを選んで着てる。
お抹茶の体験会に集まってる人たちは、予想通りというか、ママと同年代の主婦さんたちが多い。もともと知り合いなのだろうね。あちこちで三人組とかができてて、雑談してる。結構にぎやか。
ママも若干緊張してるのかな。わたしにはわかってしまう。外国人のママは、このお抹茶体験会で、どうしても目立ってしまうもの。
主婦さんのひとりが、「若いのに感心ねー。お抹茶に興味あるの?」とわたしに声をかけてくれた。
「うちが和菓子屋なんです。『花みや』って言います」
少し小さな声で、まるで、桃子みたいな声でわたしは言った。主婦さんはわたしを会話に混ぜてくれた。どこの中学校なの? とか、彼氏さんはいるの? なんて話題まで出てくる!
そのうち、講師の先生がいらしたの。主婦さんたちは急にピタリとおしゃべりをやめた。
先生は白髪の上品な女性。おばあさんと言っていい年齢だけど、背筋がぴんとしていて所作が美しい。
わたしとママはすみっこの座布団に座って、まずは、主婦さんたちの所作を見学。
あんなにぺちゃくちゃしゃべってた主婦さんたちなのに、お茶をたてる時はしんとして、流れるような動き。真剣そのものの目をしてた。
和菓子も出てきた。
でも、和菓子屋の娘なのに。親父さんごめんなさい!
主婦さんたちがお抹茶をたてる、ということ自体にすごく興味が湧いたから、出てきた和菓子の味とか、あまり、逆に意識してなかったかも。
でもね。「菖蒲」という名前の、花をかたどった綺麗な和菓子だったよ。
わたしとママは、お茶碗の回し方や、畳の上の歩き方(畳のへりを決して踏まないように)という基本のことを教わった。
あとは、正座ね。ママの方が辛そうだった。でも、わたしも結構、辛かったよー。
ただ、主婦さんたちが帰り際に、
「アユちゃん、また来てねー」
「アユちゃんのママも、またいらしてねー」
と明るく挨拶してくれて、なにか温かいもので心とからだが満たされてた。
家に帰ると、桃子が来てた。
「スバル先輩から、アユに渡してほしいって」
言われて、結構大きなワインレッド色の包みをもらった。急いで開ける。
「ショコラ」
声が出てしまう。
不思議なんだ。一週間前に夢で見たぬいぐるみ。
茶色い子グマのぬいぐるみ。
その子にすごく似てる気がした。
あれは夢だったけれど。
この茶色いクマさんは夢なんかじゃない。
ギュッと抱きしめると温かい。
「桃子も、プレゼントもらえた?」
無量くんにもらえたの?
聞くと、桃子は幸せそうに笑う。
「白いテディベアをもらったよ」
小さな声だけど、はっきりとそう言った。
「良かったね」
わたしは言う。
「うん。お互い、良かったよね」
桃子はすごく嬉しそう。ほっぺたがピンク色。
わたしたちは、もっといろんなこと、話せるんじゃないかな。
「あとで、スマホアプリで話そうよ。たくさん話そうよ」
桃子に言うと、桃子はぱあっと笑ってくれた。
その晩、音楽を聴きながら、ショコラのぬいぐるみを枕元に置きながら。
たくさんのことを桃子と話して。
いつのまにか寝落ちしてた。
すごく幸せな夢を見た。そう思う。
ほんわか和菓子屋さんの一人娘の恋物語①古本とショコラ 荒井瑞葉 @mizuha1208mizu_iro
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