第3話 熱海銀座、春。

 中学二年生になって何週間か過ぎた。


 四月半ばの晴れた日曜日、わたしは桃子を連れて、熱海銀座をぶらついてた。

 観光客の人たちに混じって、「熱海のプリン」を頼む。瓶に入っていてとろんとした、たまご味の濃厚なプリンなんだ。

 道端でプリンをすくって食べていると、クラスメイトの伊月無量(いつき・むりょう)くんの姿が見えた。ちょっと私服が派手めの「先輩らしき人」と一緒に歩いてる。

 無量くんも薄ピンク色のTシャツを着てて、髪の毛サラサラなのもあり、「女子力高め」な外見だよ。


 隣にいる桃子が、無量くんのことをチラリチラリと盗み見ては、熱心に、プリンの空になった瓶に視線を戻してる。あれれ?


(好きなの?)


 なんか、微笑ましいな。

「無量くーん」

 声をかけてみると、彼は気づいたみたいで、派手めの先輩と一緒にこちらにやってきた。


「プリン食べてるんだー。いーなー」

 派手めの先輩がフランクな調子で、わたしと桃子に言った。

「スバル先輩! 彼女たちは僕のクラスメイトなんだよ。目をつけないでね!」


 無量くんがちょっと怒ったように言うと、スバル先輩はおかしそうに笑ってた。


「いや。可愛いからさ。俺らもプリン食おうか!」

 スバル先輩が行列に並ぶと、無量くんはわたしにコソコソと耳打ちしたの。


「あの人はねー。女たらしだから。ほんと、花宮さんたち、気をつけてね!」

 

 女たらし。なんて。

 ずいぶん昔っぽい言い方だな。 

 要するに、モテる人なんだな。


 十人くらいの行列にひとりで並んでるだけなのに、スバル先輩はとても楽しそうだった。やや癖のある髪をおしゃれに整えてる。私服というのは、エメラルドグリーンの薄手のシャツに、紫色の天然石が連なったネックレス。


 ああいうのが、「モテる人」なんだね。

 気をつけなきゃね。


 なんとなく、チラチラとスバル先輩を見ちゃう。すごく意識してるよね。


 桃子と同じくらい、わたしの顔も赤いんじゃないかな。


 桃子は恥ずかしそうにしてたけれど、なんか、無量くんも桃子を見て、同じように黙ってた。

 へえー。意外と似たもの同士なのかな。


 お節介は焼かないよ。でも。


 

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