第2話 桜の時
桜の咲く時期、もうすぐ中学二年生のわたしの体も初潮を迎えた。
ママが昨晩、お赤飯を炊いてくれたの。わたしは、これから大人になるなんて、なんか嫌だなあ、という気持ちもある。でも、クラスの女子も続々と「きている」ようだし、ようやくわたしも「来た」なあ、嬉しいなあ、という気持ちもあった。
お赤飯のあとに、お店の和菓子、桜餅が、関東風と関西風と両方出てきた。
「売れ残ったものじゃないよ。親父さんがアユに作ったんだよ」
ママの言葉に、親父さんを見る。いかつい表情の親父さんは何も喋らない。お茶をのんびりとすすっていた。
親父さんの表情からは、その気持ちはわからない。でも、「わたしのために」和菓子を作ってくれるのはとても珍しいこと。
「ありがとう。親父さん」
わたしは小さな声で言う。最近、親父さんの顔がまともに見られない時があった。反抗期かな?
桜のほんのりした甘みが口の中に広がっていく。
わたしは「春」を意識した。脳裏に、昔、親父さんと見に行った熱海城の桜が浮かんだ。
今度の日曜日に、幼馴染の桃子を誘って、熱海城の桜を見に行こうと思った。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「桜、満開だね。綺麗」
桃子はぽつりぽつりとしゃべってる。感情を彼女は表にあまり出さない。とてもおとなしい。声はかすかで、風が吹いたりすると聞き取れない時があった。
小さな頃から病弱で、お母さんが早くに亡くなったりしたのもあって、桃子はわたし以外の女子と、あまり喋らなくなった。
大学生の、彼女のお姉さんは外交的な性格なのに。対照的な姉妹だった。
わたしは、初潮を迎えて何日かは、お腹と頭が少し痛かった。幸い、もう終わったみたい。
だから、満開の桜を思い切り楽しめる。
うちでは和菓子を作るけれど。和菓子とは自然を模したもの。親父さんも、「自然をよく観察しなさい」と言っていた。わたしは中学校の教科で、理科も美術も大得意。
絵が描きたいな。この桜並木を表したい。
そして将来は漫画家になりたい、って、小学校の時から思ってる。叶わないかもしれないけれど、大切な「夢」。
「スマホで写真とろう!」
桃子に声をかけて、桜の枝をバックにスマホでぱちり。
桃子は恥ずかしそうに笑ってた。うん。すごくいい笑顔。こんな笑顔がいつもできたらいいね。
桜がさわさわとおしゃべりしてるように感じた。
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