アンドロイドとの生活

アンドロイドとの生活は、はじめのうちは少し慣れなかった。もしかしたら、アンドロイドだからというよりも、使用人がいる生活自体に不慣れなせいもあるかもしれない。

 一般的な現代の家政婦の様に仕事を終えたら、帰るわけではない。家に常駐する住み込みとなる。住み込みといっても自室を与える必要はない。充電スポットとして人が一人立てるスペースを確保すればよいのだが、さすがに目に付く場所において、じっと立ったり、座ったりしているアンドロイドを眺める趣味はないので、物置に使っている部屋の入口の脇に充電スポットを設置した。夜な夜な暗い部屋でじっと座っている女性がいるという絵面が少しホラーだが、こればっかりは慣れるしかないのかもしれない。

 とはいえ、仕事中でも手が空く時間帯は出てくる。特に食事の給仕をしているときは食べている時にテーブルの横で突っ立っていられると落ち着かない。すこし微笑んだような表情で固まっているので、余計に不気味に思う。アンドロイドは当たり前だが、食事はしないから、一緒に食卓に着かない。アンドロイドと人の差異を大きく感じる時間だった。

 息子も初めは気になって、「食べないの?」と尋ねたが、「私はアンドロイドなので、電気で動きますから大丈夫です」とアンドロイドが答えると、「それもそっか」と得心したようだった。

 お茶やコーヒーも以前なら自分で淹れていたが、これもアンドロイド任せだ。淹れ方にうるさいほうではないが、思った以上に上手く淹れるので、これは少し見直した。淹れている間は台所に引っ込み、その間は気が楽になることに気づいたので、用がないときは台所で待機するように指示をした。

 家事全般の出来栄えは思った以上だった。

 普通の一軒家だが、だからといって画一的な間取りというものがあるわけではないし、ものも少ないわけではない。

 すべてを把握しているわけではないから、最初はあれこれ、場所を尋ねられることも多かったが、最近ではそんなことも少なくなった。

 休日はともかく、平日、つまりは私が家に居ないときはやはり不安だった。息子は日中、保育園に通っている。送迎付きの保育園で、アンドロイドが玄関先まで出て、対応している。家政婦のアンドロイドを使っている家庭はまだ少ないため、保育士の人たちには珍しがられた。

 現状、アンドロイドを街中で単独行動させることができないので、保育園で何かあれば、私が対応する必要がある。ただ、それは妻の生前と同じで、私と妻で分担していたことだから、今更ではある。息子も大きくなって、急に体調を崩すことは少なくなってきているから、あまりその点は不安に思っていない。


「どうだ。アンドロイドと留守番してみて。パパがいなくて、怖くなかったか」

 アンドロイドを導入して、はじめて仕事から帰ってきた日、息子に聞いてみた。事前にアンドロイドから、息子の話は聞いていて、特に異常な様子もないという。

 息子からは「全然」と少し強めの口調で答えられた。強がっているようにも見えるし、子ども扱いするなと怒っているのかもしれない。

「そうか、すごいな」と返しながら、「今日はどうだった」と聞いてみる。

「あのアンドロイドのこと?」と息子が尋ねた。保育園のことを考えて聞いたのだが、気になったので「どうかしたのか」と話を促した。

「なんか変なんだよね。なにがしたいんだろう」という。それは確かに息子の言う通り、なにかしたいわけではないのだろう。「アンドロイドは遊んだりしたくないのかな」と息子が言うと、「そうだな」と私は息子の頭を撫でた。

「アンドロイドはちょっと変わってるんだ。大丈夫だよ。ちょっと人間とは違うんだ」と言った。それを息子がどうとらえたのか、少し不安に思って、「お風呂はまだだろ、入ろうか」といって、話を切り替えた。

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