第3話 分水嶺
最終的に僕らが連れて来られたのは、石造りの王城だった。これまた中世的な謁見の間である。広間の天井はアーチ型。黒檀に金箔の玉座を近衛兵が守る。赤い絨毯に文様の描かれたタペストリー。
天井に円い大穴があって光と風が直接入り込んでいた。昼下がりの光は玉座にまでかかっている。冬は寒くないだろうか、とか、雨が降ったらどうするのだろう、とか考えたものの……。こういうことを一度でも懸念してしまった時点で、僕の思考力はミアさんの足元にも及んでいないのだろうなあと落胆した。基本的な事を忘れている。
ここは人工コロニー。季節は変わらないし雨が降る機能も無さそうだ。
玉座に深く埋もれた王が顔を上げた。反応を見てバジェさんは少し下がる。
僕とミアさんが二人並んで、高座の王を見上げていた。ミアさんは言うまでもなく緊張していない。自然体だ。というかコートのポケットに左手を突っ込んだままだ。流石に国王様相手にそれは殺されても文句が言えない気がする。やめた方がいいんじゃないのと目線で訴えたのだけど、ミアさんはいつも通りに前方しか見ていなかったので、多分認識されなかった。僕はやっぱりちょっと悲しい気持ちになった。
「アア、こんにちは、ごきげんよう。ワタクシたちの言葉が通じマスか?」王様が言う。
王は男性だ。身体を斜めに傾けて深く座り、右腕はひじ掛けから垂れ下がっていて、逆に左手は肘から上向きに曲がり空を掴むように緩く閉じていた。あの左腕は骨が固まってしまっているのだろう、そうでなければ腕が疲れるはずだ。
「こ、こんにちは」一向にミアさんが返事をしないので僕が言う。「通じています」
全身を見て、先天性の骨格障害を持っていることが明らかだった。話す言葉も——このコロニーの他の住民と比較して——発音の甘い音があったりするようだ。
「血が濃いのかな……」王様に聞こえない程度に呟けば、ミアさんが答えてくれる。
「この星でも特に懲役が重い方なんだろう。自分の懲役年数が拡がらないように血を狭めてるんじゃない? 両親の懲役の平均年数を引き継ぐルールだからね」ちなみにミアさんは声をそばだてたりしていない。命知らずにも程がある。
というか、え?
障害を負うほどの近親交配を重ねたのが、権力や財産のためじゃなくて、大義のため? しかも大義といったって遠大過ぎる。遥か数千数万年後に、この星にいる人間が、極力少なくなるように?
だとしたらこの王様は、この王様の家系は──。
王様は歪な姿勢のままに語り始めた。
「それはよかったデス。以前の神祖が訪れたのは何千年も前デシたので。伝わらない可能性もありえマシた。しかしよかった。改めマシてワタクシたちがこのコロニーの神あるいは国王でありマス。ワタクシたちは神を信じていマス。神とは愛であり、万能の権化デス。個人名としては、にひゃくごじゅうろく、といいマス。256です。ですが覚える必要はありマセん。ここに国王は常に一人。神もまた、一柱だけでよいのデス。お分かりいただけマスか? えー、お話をしなければなりマセん。そのために来ていただきマシた。ワタクシたちはあなた方を歓迎していマス。神は万能デス。なんでもできマス。ならば神は複数の事を考えるデシょう。ワタクシたちの家系は、多少の時間をかけて神として振舞ってきた以上、並列思考を得意とするのデス。そのように進化してきたのデス。結果として自分が複数に思えマス。これは祝福でもありマス。自分という認識を喪ってしまえば、国王として非常によい働きが出来る。完璧に理性的に振る舞えるのデス。少しだけ疲れマスが。この星はあなた方を歓迎しマス。歓迎するというのは、あらゆる願いを叶えてさしあげるということデス。いかような待遇であっても用意しマス。ワタクシたちは神を信じておりマス。神は愛と救いを授けるものデス。ワタクシたちはこの国の王にして神でありマス。かような広さの空間において支配者が神を兼ねるのは、ワタクシたちが望む望まないに関わらず必然的なことデシた。ワタクシたちは神の代行者でもあり、この星は神の秩序によって統治されていマス。神は救いをもたらすものデス。ゆえにワタクシたちはこの星に秩序と安寧をもたらしているのデス。しかし問題もありマス。それはとっくの昔から表面化していマス。張り詰めたコップであり、引き絞られた弓なのデス。神は奇跡を起こす存在である以上、我々も奇跡を起こさなければなりマセん。お分かりいただけマスか? いえ、お分かりいただけると思いマス。来訪者の方々は賢い方でおられマス。しかしワタクシたちはその力を有しておりマセんでした。つまりワタクシたちはデスね、非常によく頑張ったのデス。平衡を保つために、頭と身体を沸騰させ続けたのデス。貯金を食いつぶして生きてきたのデス。空になったボトルの底に着いたものを、側面に着いたものを、入り口に着いたものを、無くなったと見えていてもまだあるかもしれないと、幻覚を見て、引っ搔いて、舐めとりながら、生きてきたのデス。奇跡的な綱渡りをこなし続けてきマシた。まだ星は回っている。まだ——星は回っている。ワタクシたちは成し遂げたのデス。ワタクシたちは神を信じていマス。神を信じる人間が、神を務めるのは、しんどいものデス。本当に疲れマシた。ひとえに愛によって、ワタクシたちはこの刑務を成し遂げマシた。これにて、ワタクシたちの歴史は以上となりマシた。ワタクシたちの要望も、以上となりマシた」
息もつかせぬ長台詞の最中、唐突に沈黙が下りた。これで全て言い切ったらしい。
「えっ」と溢したのは僕だ。「今ので終わり……?」
まさか彼は今ので何かを伝えたつもりなのだろうか。僕は今、一体全体、何を要望されたのか? そもそも何かを要望するつもりの演説だったということすら分かっていなかった。さっぱりである。一応言っていることの意味自体は理解していたはずなのだけど。
「随分回りくどい話だったね」とため息を吐いたのはミアさん。左手はポケットに入れたまま、ちょっと肩をすくめて言う。「まあ神だというなら仕方ないか。聖書だってあんなに分厚かったわけだし」
ミアさんは国王の方へ歩いて行った。数段昇り、玉座の前に立つ。
「ありがとうございマス」王は見上げて言う。「この星をお願いしマス、神祖様」
「ワタシが思うに」巫女服の大和撫子が国王を見下ろしていた。「祈ったところで、神はワタシたちを救ったりなんかしやしない」
「しかしあなたは、ワタクシたちを救ってしまいマス」
「確かに、認めよう。残酷なまでに秩序的だ。賛辞の言葉すら浮かぶ。このシステムを考えた者はよほど性格が悪い。とはいえ——」
左手はコートのポケットに入ったままだ。動いたのは右手だけ。
国王の首はミアさんの手刀で切り飛ばされた。
「ワタシほどじゃあないけれど、ね」
ゴトリと固い音を立てて首が転がる。何秒かの後、振り返ったミアさんは、頭から足までかなりの血を浴びていた。だというのに彼女は拭う様子を見せない。まったく欠片もそのつもりがない。常識以前に本能的に、拭い取りたくなるはずなのに。
「さてグレロくん。キミはどうする?」
ミアさんは玉座を背に僕を見下ろしている。彼女の背後に噴き出し広がる血の海が、段差を下り流れ、広がり続けていた。ミアさんの右手からも帯のようになって滴っている。
鮮血は瑞々しく、鉄臭い。
「ええっと……ごめん」僕はおずおずとして尋ねた。「教えてほしいな、状況を。正直言うと、あんまり話が分からなかったんだ。何がどうなって、ミアさんは王様を殺しちゃったの?」
「クックッ」ミアさんは右手を口元にやって笑う。
手の甲に付着した赤色の流体が、ピエロみたいな裂けた笑顔を描き出していた。
「人殺し自体には動揺しないのかい? 地球への帰還が絶望的であることを思い知ったときは、あんなにも狼狽していたじゃあないか」
「そ、それはそうでしょ。あれはよっぽど絶望的だったし……今もその状況自体は変わってないけど。人死に自体は見慣れてるからね」
「ワタシはアレをもう一度見てみたかったんだよ。お腹を抱えるほどに面白かったからさ」ミアさんの声には嫌味な愉しさが滲み出ている。「つまりね、キミはワタシの愛玩動物足り得るってこと。飼ってみたいなって結構真剣に思っているよ。ヒトを飼うのはワタシの一つの夢だったんだ。もちろんワタシのお眼鏡にかなうヒトじゃなきゃあいけなかったんだけれども。あ、今のはワタシなりの最大限の賛辞の言葉だよ」
どんどん本題から逸れていく。頬を膨らして抗議。
「何の話をしてるの? 分かるように話してくれる? ミアさんならできるでしょ?」
「おやおやつれないね」緩く目を瞑り、抑揚は控え目で。「閉鎖環境で社会を築く以上、監獄惑星に王国ができるのは必然だ。けれど、その維持には限界がある。ここに流されてくるような突然変異の鬼才たちならば、コロニー一つ支配するくらい造作もないことだけれど、その子孫にそれが可能かと言えばそうとは限らないだろう? ゆえに支配は次第に緩んでいく。けれど独裁者はこのコロニーを……いや、『世界』を維持するのに必須の存在だ。なにせ資源も燃料も効率よく使う必要があるし、下手に暴動なんかが起こってはコロニーが物理的に崩壊する可能性だってある。だから彼らは粉骨砕身して世界を維持してきた。先祖の貯金を食いつぶしつつ、なんとか耐え忍んでいたんだ。そうしてただじっと耐え続けていれば、いつかは新たな天才が降ってくる。新たな『神』が顕れて、貯金が復活する。そういうシステム。ご理解いただけたかな?」
ミアさんの薄い微笑みは昨日今日見て来たそれと全く同じはずだ。しかし何かが違う。半身に血を浸らせて、それでもまったく平然としている。動じるということを知らない。
……違う。ぜんぶ「予定調和」なんだ。
どんな状況に至ってもそれが彼女の目的だったと勘違いさせてしまう。彼女のために世界が回ったかのように錯覚させてしまう。それほどまでに卓越した洞察力と底知れない予知能力。彼女以外の万人を盤上の駒と為す隔絶した存在。
彼女が立つならば、どんな混沌であっても、絶対的な平衡に均されるのだろう。
やっと理解した。つまり彼女こそがこの星に降り立った新たな神である。
「改めて自己紹介させてもらおうか。ワタシはミア・ワタナベ。星系を股にかけ環宇宙政府の喉笛に刃を突き立てた者だ。人呼んで〝星紀のテロリスト〟。懲役十二万年を宣告されているよ」
ミアさんは血染めの右手を差し伸べてきた。
「さて、ではお誘いだ、グレロくん。一緒にこの国を統べやしないか。強くてニューゲームだよ。現代知識で無双して一方的に支配しよう。楽しいとまでは言わなくとも、そんなに退屈しない余生を過ごせるはずさ」
「うぇっ? う、うーん……」伏し目から尋ねる。「えっと、ミアさんは……この星の奴隷制、身分制をどうしたい?」
「当然、現行のまま維持したいね」
「文明力の制限も? 科学の発展も許さない?」
「そうでなければ『絶対の支配』は叶わないだろう?」ミアさんは微笑んで頷く。「停滞こそがこの星における美徳だ」
「それ以外の選択肢はないと信じている?」
「信じている。それだけがコロニー存続の道に違いない」
僕は内心で悲しみつつ、諦めつつ、息を吐き溢した。ジロリとして見上げる。
「欺瞞だよねそれ。科学を進歩させて星外脱出を図った方がいいに決まってる」
「えっ?」ミアさんはちょっとだけ目を丸くした。「誘導尋問じゃあないか……。飼い犬に手を噛まれた気分とはこのことかな」
「……えっとさ」勝手に飼い犬扱いしてきた人を怪訝に睨みつつ。「つまりミアさんは、残り半世紀そこらの神の立場と引き換えに、この星の十万人を、そしてこの星にこれから生まれてくる途方もない数の人間を、みんな等しく踏み敷いて、数千年に渡り思想と科学の発展を制限しようというんだね? ……こんなに残酷なことはないよ。人類という種への冒涜ですらある。悪人にも程がない?」
「まったくもって」
「星の脱出を目指すって話は?」
「やめた」ミアさんはパッと右の手の平を見せる。「こんなに良い立場が用意されているなら、わざわざ出ていく必要が無いからね。実のところあんまり未練も無いし」
「そっかぁ」ため息をついて肩を落とす。「じゃあ、ミアさんとはここまでかぁ……」
多少仲良くなった人と袂を分かつことに落ち込んだ僕だったのだけど、ミアさんはというと対照的にクックッと笑って楽しげなご様子である。
「ワタシは他人に感謝することが滅多にないんだが、グレロくん、キミには心からの感謝を送ろう。おかげさまで多少は楽しむ余地がありそうだ」
「はあっ……」今度のため息は気落ちのそれじゃない。にわかに苛立ってきた。つま先を鳴らす。「ミアさんの話し方って、敵だと思うと途端にウザく聞こえるね」
僕とミアさんの間には十歩以上の距離がある。
「なに、早速だ。見せてもらおうか」ミアさんは指揮者のようにふわりと手を回す。「新たな神王の近衛兵が、どれだけの信用に値するのか」
周囲にいた合わせて四人の兵士が胸のホックを外してつなぎを脱ぎ捨てた──蛹から蝶が孵るように。つなぎは重い音を立てて地面に張り付く。十キロ以上あったように見える。中の制服は高級感のある黒艶のジャケット。
背後からバジェさんの声がした。同時に銃を構える音も。
「〝星紀の傭兵の末裔〟が直系アダマイト家、1564代目当主、バジェ・アダマイトである。御使い筆頭にして、この星の武を束ねる騎士団長なり」僕らを案内していた時に比べて、多少熱がこもっている。「神王陛下、捕縛が目的でよろしかったか」
「捕らえるだって?」ミアさんは嗤いつつ右手で促した。「とんでもない。殺すつもりでやりたまえ」
逃げ場のない大広間の中心で四方から銃弾が放たれる。咄嗟の判断。
脳と内臓だけはなんとか躱すが、そのためには両腕で受けるほかなかった。物理的な衝撃はあるものの……。
「な、なぜ動けっ——」
四肢から血を流し捨てつつ兵士の一人に飛びついた。流れで関節を折って抵抗の余地を奪う。次の射撃は取りついた兵士を盾にして受けて、お返しに身体を投げ返した。足を掴んで砲丸投げの要領だ。軽い。
兵士の身体はバジェさんに一直線、もろとも壁まで吹き飛ばす。衝撃に響く鈍音。残りの二人は……やはり教育が甘いようで、バジェさんの方へ目を向けてしまっていた。それは一秒くらいの出来事だったが、慌てて振り返ったところで、僕は既に君たちを切り捨てている。
奪い取ったサーベルから血が滴るのに遅れて、後方の兵士二人がドサドサと続けて倒れた。
「この低重力下で僕に一秒も与えたんだからさ、殺されたって文句は言わないでよね」
彼らはきっと地球基準の重力下で育った人間を想定して訓練していたのだろう。しかしいかんせん実戦経験が足りていない。
「な、なぜだ……」壁際に倒れ込んだバジェさんは、腕をあらぬ方向へ曲げながらも、身体を震わせ起き上がろうとしていた。「銃弾は……当たったはずでは……」
「運動に支障があるところは外してたからね。痛みは気合で我慢してるよ」
ミアさんに向き直って剣を突きつける。ミアさんは依然として小癪な微笑みと共にこの惨状を見下ろしていた。まるで絵に描いたような王と逆賊の立ち位置。
「託す想いか恨み言はある? この僕が聞くよ」
「なぜそんなことをする必要が?」
「死んでからじゃ遅いからね」
「死ぬ前には用意しよう」ミアさんは薄ら笑いを浮かべたままやれやれとかぶりを振る。「けれどそれは今ではないな」
「みんなそう言うね」
ひゅんと跳ね飛んだ。ミアさんの頭上から、頭蓋を叩き割るつもりで剣を振り下ろす。眼下の彼女は薄い微笑みを讃えたまま、右手だけを僕に向けてただ伸ばし——。
「——!?」
次の瞬間、僕の身体は床に跳ねていた。ガハッと喉から空気が抜ける。体重と、落下速度と、振り抜いた腕の力。その全てが余すことなく僕自身に打ち付けられていた。これでは自ずから勢いをつけて飛び降りたようなもの。
痛みは問題ではないけど、物理的に身体が動かない。息が上手く吸えないから、肺の機能が麻痺してるのか……。
要は僕は、投げられてしまった。達人クラスの技術で受け流されて。
信じられない。僕だってそこそこやるのに。
この人、異常に強い。
仰向けに倒れたまま、ミアさんの背中越しに右手のジェスチャーだけが見えた。ほらと何かを持ち上げるような手つき。
「ワタシは日本人なんだから。当然、合気道には精通しているとも」
日本人ってそうなのかと尋ねかったが、ハッ、ハッ、とごく短い息が漏れるのみ。次第に衛兵の足音が集まってきて、僕の身体は取り押さえられた。
「とはいえワタシがやったのは君の姿勢を多少修正したくらいだ。分かるかな? キミは最初から間合いを間違えていたんだよ。大きく間違えていた。手を加えずともほとんど当たっていなかった。『落下』は『ズレる』からね。基本的なことだ」
ミアさんは僕を投獄するよう衛兵たちに指示した。今さっき王になったばかりだと言うのに随分と様になっているものである。
後ろ手に縛られつつもミアさんの背中へ向けて訴える。
「僕には……その椅子も牢屋と変わらない、似たようなものに見えるよ……!」
「それを言うなら」ミアさんは振り返らない。「この世界そのものだって檻のようなものだろう」
「それはこのコロニーのことを言ってるの? それとももっと大きな広がりのことを言ってるの?」
「愚問だ。あまり失望させないでおくれ?」言葉面に対してミアさんの声は愉快そうだ。
「よ、余裕だねぇ。ムカつくなぁー……」とぼやけばクックッと笑う。
「ああそうだ。そういえば気になっていたんだ。いま教えてくれるかな?」
「ん……? 何を——」
「——君の懲役年数を。ワタシだけ知らないのは不公平だろう?」
「懲役年数……か」
僕は自分の使命を改めて思い出した。
今この時も戦い続けている同士がいる。耳にこべり付いた叫び声を忘れる時はない。悲痛に握り潰した拳の感触がまだ残る。僕が彼らを焚きつけた——その事実を忘れるわけにはいかない。僕は絶対にこの惑星を脱出しなければならない。
加えて僕は——死んでいった仲間たちに懸けて——この星の惨状も見過ごせなかった。
「僕はグレロ・ド・ルゼ。旗手にして指導者。〝星紀の革命家〟って呼ばれてる。奴隷解放思想を広めて環帯の南岸諸国を軒並み蜂起させた。宣告された懲役は──四十九万年」
ミアさんは一瞬だけ固まった。続けて右手を口元の方にやって笑う。
「随分と奮発したじゃないか」
「これでもセール中に買ったんだけどね。そっちはなに? 『手頃な懲役』とか『初心者向けパック』みたいな感じ?」
強がって煽ってみたのだけど——。
「『お一人様限定パック』かな。キミのよりはコンパクトだろう?」
「っ……」
やり返された。悔しいけどこれは完全敗北。
「くっ……覚えておいてねミアさん! 僕をこの場で殺さなかったこと、絶対後悔させてあげるから!」我ながら情けない捨て台詞を吐き捨てる。「その玉座から引きずり落とされる日を楽しみにしておいてー!」
ミアさんは背中越しに手を振って僕を見送った。
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