幼馴染とボクと幼馴染 - 5
「ささっ、どうぞ、入って入って!」
「ああ、お邪魔させてもらうぞ」
お屋敷とすら呼べるような大きい家に上がらせてもらい、そのまま通される千穂の部屋。
「随分と久々な気がするな、この部屋に来るの」
「実際そうなんじゃない? 多分……中学ぶりだっけ?」
「そんなに前になるのか」
昔はよくここで、千穂とアイプロについて語らっていたと思うが……。
あれ、どうして来なくなってしまったんだ?
「なんでだったっけ? ――……あっ、そうそう! 竜郎がバイト始めたからだ」
原因はボクだったか。
思い返してみれば……高校入学を機にバイトを始めて以来、千穂と遊ぶこともすっかり少なくなった気がする。
だからどうしたと言われれば、別に何も無いのだが。
強いて言うなら、アイプロにつぎ込む金を稼ぐために、アイプロについて語り合う時間を減らしてしまっていたことが悔しいというくらいだ。
「それで、肝心の額縁がどこにも見当たらないぞ? まさかオマエ……本当にボクを騙してたのか?」
「そう慌てなさんなって。大丈夫、ちゃーんと隣の部屋で保管してるからさ」
「本当だろうな? もし嘘だったら、土下座で詫びてもらうからな」
「はいはい。取ってくるから、ちょっと待ってて。その辺座ってていいからねー」
ボクの追及を飄々と躱すように、千穂が部屋を出ていく。
ふむ……ただぼんやり呆けて待つのも、なんだかつまらないな。
久しぶりの千穂の部屋は――昔と変わらず、アイプロのグッズまみれだ。
あのタオルとかずっと飾ってあるんだが……。
確か初現地の思い出だとか言っていたと思うが、ちゃんと洗っているんだろうか?
「はーいお待たせー。ほ~ら、コイツが見たかったんだろ~?」
戻ってきた千穂の手には高級感のある額縁が。
表のイラストが見えないように、伏せた状態で持ってくるなんて……なかなか焦らしてくれるじゃないか。
「お、おお……それが……そう、なんだな……?」
「見たい? ねぇねぇ見たい?」
なんだよ。もったいぶってないで、早く見せてくれないか。
「はぁ……はぁ……――は、早くしてくれよ。はぁ……いいだろ? なぁ、もう待ち切れないんだ……早く、見せてくれ……」
「ちょっ竜郎、鼻息荒いって。なんか身の危険を感じるんだけど……」
「み、見えない……。クソッ、あと少し……なんだがっ……!」
「おいコラっ、下から覗こうとするなって! その体勢傍から見たら事案だから! ワタシ今スカートだからっ!」
うるさいなぁ。
だったら、さっさと見せてくれれば済む話だというのに。
「もう……ちゃんと見せてあげるから、そこに直れ!」
言われた通り、座布団の上に座り直す。
「じゃあ、いくよ……? せぇー……のっ――!」
おお……!
額縁の表が向けられ、とうとうその全貌を目に収めることとなる――。
素晴らしい……。
もともと語彙力があるほうではないが、そのなけなしの語彙さえも失ってしまうほどの美しさだ。
ああ……なんて素晴らしいんだ……。
ネットの画像で見るのとはまるで違う、神秘的な神々しさがそこにはあった。
「神だ……ああ……こんなことが、本当にあるなんて……」
「そんな土下座するほどか!? いや、気持ちは分からんでもないけどさ……」
「ボクは今ゴッッッドを目の前にしてるんだぞ!? これが崇めずにいられるか!」
せっかくだから写真を撮らせてもらっても――……いや、それはこの御神体をボクの手中に収めるまで我慢しよう。
手に入れた時の歓びを最大限に享受する、そのために。
待ち遠しいな……その日が来るのが楽しみだぁ……。
「千穂!」
「はっ、はいっ!? え……な、なに……?」
「最高だよっ、オマエ! よし、決めたぞ。コイツをいただくためだ。千穂の望むこと、なんでもしてやるからな!」
「ああ……うん……?」
今のボクは最高に気分が良かった。
その勢いでつい宣言してしまったけれど……後悔することはないだろう。
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