幼馴染とボクと幼馴染 - 3

 千穂を高校まで送り届けた後。

 その足で大学へ向かうと、一限目すら始まる前についてしまった。

 よく考えれば、すぐ歩いていける距離なんだから、一度家に帰って二度寝でもしていればよかったな……。

 どうするか……今からでも帰るか?

 いや、ここまで来て引き返すってもの面倒だ。

 仕方ない。図書館でアイプロでもするか――。


「た~っくんっ――……えいっ!」


 ドサッ――と、不意に背中へ掛けられる重量に、バランスを崩しそうになる。


「うおっとと……ビックリしたなぁ、もう! 凛花……そういうのはやめてくれないか?」


 踏み止まれたから良かったものを、二人して倒れてしまったらどうしてくれるんだ。

 相変わらずスキンシップが激しいな……。


「ふふ、ごめんなさい。たっくんを見つけて、嬉しくなっちゃって」

「分かったから、いつまで抱きついているつもりだ。重いぞ」

「まあ! たっくんってば、女の子に『重い』なんて言っちゃダメよ? 嫌われてしまうわ」


 凛花以外には絶対言わないから安心しろ。

 そんなことより、さっさと離れてくれないか?

 ……いつまでも離れる様子が無いので、無理やり腕を解いて距離を取った。


「もうっ、イケずなんだから」

「これくらい普通だ。ボクだってもう子供じゃないんだから、ベタベタとくっつかないでくれ」

「そう……たっくんももう大人になってしまったのね。昔はお姉ちゃんがオムツを変えてあげていたのに……」

「おい変な嘘を吐くな。ひとつしか違わないんだから有り得ないだろ」

「あ、バレちゃった? てへっ」


 てへっ、じゃないが。

 お茶目な感じで舌を出しているが、全然可愛くないぞ?


「……うりゃっ」

「いたたたたいっ! 痛い! いきなり何するんだよ!?」

「なんだかたっくんが失礼なコトを考えている気がしたので、お仕置きです」


 気がしたって程度でお仕置きとか、勘弁してくれないか?

 いやまあ実際考えていたんだが。

 だからって、ヒールの先っぽでグリグリしないでくれ……。

 足に穴が開いたらどうしてくれるんだ。


「そういえば、たっくん、今日は一限だったかしら? もー、それならお姉ちゃんも時間合わせたのに~」

「違うぞ? ボクは今から図書館に行くところだ」

「えっ、そうなの? 図書館……あ、なるほど! レポート、自分でする気になったのね! たっくんが真面目さんになってくれて、お姉ちゃん嬉しいわ~」


 なんか勘違いされた。


「違う違う、そんなことするか。あの意味不明なレポートは、去年の凛花のを見させてもらうからな」

「そ、そう……お姉ちゃん、残念だわ……。……それじゃあやっぱり、千穂ちゃん関係?」

「千穂だと? なんで千穂なんだ?」

「今朝たっくんちに来てたでしょ? あれ? 勘違いだった?」

「来てたのはそうだが……どうして知っているんだ?」

「だって隣の家だもの。あれだけ賑やかにしていれば、誰だって気がつくわ」


 言われてみれば、確かにそうか。

 隣に凛花が住んでるってこと、すっかり忘れていた。

 え……? ってことは、千穂とのコト、もうバレたのか……?


「ねえねえ、朝から二人で何話してたのかしら? 私たち、三人揃って幼馴染でしょう? お姉ちゃんだけ仲間外れにしないで~」

「別にそんな……た、ただ千穂が本を借りにきただけだぞ」


 今朝言っていた内容で、話を合わせておく。

 千穂との恋愛ごっこのことなんて、凛花に知られるワケにはいかないからな。


「なーんだ。てっきりたっくんと千穂ちゃんがお付き合いを始めたのかと思ったのに~。面白くないなぁ」


 これだ。ボクが凛花に知られたくない理由は。

 昔からどういうワケか、凛花はやたらとボクと千穂をくっつけようとしてくる。

 そんなこと、絶対に有り得ないというのに……。

 もし恋愛ごっこを凛花が知ってしまったら、面白がって、勝手に外堀を埋めようとしてくるに違いない。

 そうなると『ごっこ』じゃ済まなくなってしまう。


「何度も言ったハズだが、ボクが千穂と付き合うだなんて、絶対にないぞ」

「またそうムキになちゃって~。そういうところが可愛いんだから、たっくんは」


 男に向かって可愛いとか言うんじゃない。

 あと人のほっぺを指でつつくな。


「おい……そろそろ一限が始まるんじゃないか? もうそろそろ行ったらどうだ」

「あら、いけないわ。一限目、出席取る先生なのよね。早く行かなきゃ」

「そう言いながら、ほっぺをつつくのやめないのはなんなんだよ」

「ふふふ、たっくんのほっぺたって柔らかいから、クセになっちゃうの。――えいっ。またねたっくん。お姉ちゃん、もう行くわね~」


 最後にひと際強く指をほっぺに押し込んで、凛花は行ってしまった。

 はぁ……。千穂との恋愛ごっこがバレたかと思ってヒヤヒヤしたぞ……。

 話していた感じ、凛花にはそこまで聞こえていなかったみたいだ。

 それが分かっただけでも、十分に安心できるな。

 あとは今後もバレないように立ち回らなければいけないんだが……。

 とりあえず、ボクも図書館へ向かおうか。

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