幼馴染とボクと幼馴染 - 2

 近所の高校までの道を千穂と歩いていく。

 まあ、大して珍しい光景でもない。ほんの三カ月前くらいまでは当たり前だった光景なのだから。

 まったく……こんなことをして何になるというのか……。

 どれだけバカらしくても、額縁を貰うためには耐えなければならないのだが――。


「なあ千穂。オマエ、本当にアイプロの額縁持っているんだろうな?」

「え、突然何さ」

「ボクのことを言いなりにするために、嘘を吐いているんじゃないかって話だ」


 なにも本気で疑っているワケじゃない。

 あえて挑発的な態度を取って、上手い具合に渡してもらおうという作戦だ。


「はぁ? ちゃんと持ってるっての! そんな嘘吐くほど落ちぶれていませんが!?」

「本当か? 後になって、実は持ってませんでしたーって言うつもりなんじゃないのか?」

「しつこいなぁ! 持ってるって言ってるでしょ!」

「だったら見せてくれよ。そこまで言うなら、写真くらい持ってるんだろ?」


 グッズの写真を撮る習慣が千穂に無いことなら、良く知っている。

 これでもし写真があれば、プランBの必要が出てくるが――。


「写真……そういえば撮ってなかったかも……」

「そらみろ、やっぱり嘘なんじゃないか。あーあ、『渡さない』じゃなくて、『渡せない』だったんだなぁ……残念だ」

「いいよ……分かったよ! そこまで言うなら渡してあげようじゃない!」

「ああ、そうしてくれると助かる」


 ふっ、ちょろいな。

 千穂を誘導するなんて、ボクにとっては容易いことだ。

 昔っから乗せられやすいところは変わってないというか……まるで成長していないの悪いんだぞ?


「――なんて、言うとでも思った?」

「なに……?」


 ゾクリと、急に鳥肌が立った。

 気の昂ぶりをまるで感じさせない、余裕に満ちた不敵な表情。

 こんな顔、今までに千穂が見せたことなんてあったか……?

 まさか、千穂……オマエ……。


「残念でしたー。そんな簡単にあげたりしませーんっ」

「ばっ……バカなぁっ――!」


 そんな……まさか千穂が怒りのコントロールを覚えてしまうなんて……。


「一体どこでそんな技術を……」

「額縁欲しさに竜郎が煽ってくるのなんて読めてたんだから。分かっていれば、いくらでも冷静になれるってもんよ」

「このボクが……千穂に見透かされていただと……?」

「ふっふっふー。いつまでもワタシがチョロいままだなどと、その気になっていた竜郎の姿はお笑いだったぜ」


 考えが甘かった。知らぬ間に千穂も成長していたとは……。

 こうなってしまった以上、今すぐに渡してもらうよう誘導するのは、諦めるしかないか。


「渡すのは夏休みの終わりかな~。それまでちゃーんと彼氏っぽいことしてくれれば、約束通り渡してあげよう」


 どうやら、恋人ごっこからは逃げられないらしい。

 ん……? ってことは、これから毎朝千穂に起こされて、毎朝高校まで送っていかなきゃならないのか?

 おいおい……勘弁してくれよ……。

 そんなの、知り合いに見られたらどう言い訳すればいいんだよ。

 こんな幼馴染との遊び半分の不純な付き合いみたいな関係がバレるとか、絶対に嫌だぞ……。


「はあぁぁーー……」

「うわ、すっごい溜息。そんな落ち込まなくてもいいじゃん」


 ボクは運命的で、真剣で、純愛に満ちた理想の恋愛を求めていたハズなんだ。

 それがよりにもよって幼馴染の、しかも『ただ恋人っぽいことがしたい』とかいう不純な動機の恋愛ごっこに付き合わされている。

 落ち込みもするさ……。


「まあでも、なんか竜郎が可哀そうだし……実物、見せたげよっか?」

「なに……――いいのかっ!?」

「変わり身早っ! どんだけアイプロ好きなのさ……。竜郎、今日バイトは?」

「なんも無いぞ!」

「よし、じゃあ放課後迎えにきてよ。そのまま一緒にワタシの家行って、額縁拝ませたげる」


 なんだ、千穂も意外と話が分かるじゃないか。

 あの額縁をこの目で拝むことができる日が来るなんて……。

 そんなの、落ち込んだりなんてしていられるワケが無かった。

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