#4 始まる夏物語

「じゃあ、とりあえず僕んちでお昼ご飯でも食べる?人数多いからそうめんとかになるけど」


「「「「「行くー!」」」」」



 この夏を越えるため、僕たちの‘‘これから”が幕を開けた___



 家に着くなりお昼ご飯の準備を手分けして始めた。

「はい、ここからは浴衣が仕切ります!まず男子組、あんたたちはめんつゆとか食器とかの準備をお願い。そして女の子組、そうめんを茹でたりネギとかの薬味を切ります。百合もそのくらいはできるよね?できなくても浴衣が教えるからさ!男子は準備、女の子はキッチンね!」

「えー俺もキッチンがよかった!そうめん茹でたかった!」

「涼、あんたをキッチンに立たせたら凪の家は無くなるわ」

「涼お願いだ、大人しく一緒に準備しよう。僕の家を無くさないでくれ」

「確かに凪の家が無くなると困るな!よし、準備頑張るぞー!」

 涼は自分がバカにされていることに気づくことはなかった。


 三人もいれば食器の準備なんてあっという間で男子組はそうめんが茹で上がるのを待っていた。

 チリリン…チリリン…

 風鈴の音が聞こえてくる。

「今日は風が少しあってあまり暑くないですね、風鈴がそう思わせてくれます」

 夏葵が窓から外を眺めながら言う。

「そうなんだ、昨日はあんなに暑かったのに今日はなんだか涼しいんだよね」

「架空の日付になっても四季は移り変わってるのかもしれませんね」

「だとしても昨日今日で下がるのかな。何かが原因で気温が下がっているのならこの現象に関係ありそう」

「確かにそうですね。明日また周辺調査しましょうか」

「なあ、二人とも何難しいこと言ってるんだ?俺にはさっぱりだ!」

「まあ、涼くんはあまり気にしなくていいですよ」

「ならいいんだ!」

 シシシッと涼は笑う。


 ブクブクブク…ブクブクブク…

 キッチンからお湯が沸騰している音が聞こえてくる。

「百合って包丁の使い方もわからないの⁉」

「そうなんだよね~実は料理全くしたことなくてさ」

「女の子は料理で男子の胃袋をつかむの!少しくらいはできなきゃ!これから浴衣たちが教えてあげる!あやめもいいでしょ!ね!」

「もちろんいいよ。こう見えて浴衣より私のほうが料理得意なの」

「ちょ、ちょっとあやめ!それは、そうだけど…わざわざ言わなくていいの!」

「ごめんごめん」

「二人すっごく仲いいんだね。一生このまま仲良しでいてね!」

「百合、急にそんなこと言ってどうしたの?当たり前に仲良しでいるから安心して!なんならこれからは百合もね!」

「改めてよろしくね百合」

「二人とも優しすぎるよ!こちらこそよろしくね!」

「よーしじゃあまず包丁の使い方から教えるね!あやめはそうめんのほうお願いできる?」

「任せて」


 女子トークが聞こえて数分後キッチンから女子組が出てきた。

「お待たせ~」

「めちゃめちゃ待ったぞ!俺腹ペコだぞ~!」

「あんたお礼もないわけ⁉そんな人は食べなくていいで~す」

「嘘嘘!ごめんじゃんか~!ありがとうありがとう!ほんと感謝してるから!」

 涼は命乞いをするかのように手を合わせる。

「三人ともお疲れ様です。ありがとうございます」

「夏葵は合格」

 あやめは夏葵に向ってOKサインを出す。

「さ、凪からも聞かせてもらおうかな!」

 百合が手をマイクのように出してくる。

「あ、ああもちろん言うつもりだったって。ありがとう」

「偉い偉い!」

「いやだから子ども扱いするなって!」

 また撫でに来た手を振り払う。

「よーしじゃあ」

 浴衣の掛け声で一斉に手を合わせる。


「「「「「「いただきまーす!」」」」」」


 みんな相当お腹がすいていたのか、大量に茹でられたそうめんは三十分も持たずに無くなった。


 お昼ご飯を食べてエネルギーチャージした僕たちは手分けして再度周辺調査することにした。

「じゃ、みんなまた後でな!行くぞ浴衣!」

「はいはーい、ちょ、待ってって!もっとゆっくり!」

 テンションの高い涼は駆け出して行き、後を追うように浴衣も家を出て行った。

「じゃあ僕たちも行きますね。行きましょうあやめさん」

「また夕方にね。二人ともバイバイ」

 夏葵とあやめは僕らに手を振って出て行った。    

「百合、僕たちも外行く?」

「よっし行こー!」



[凸凹コンビの周辺調査]

 凸凹コンビこと、涼と浴衣は畦道あぜみちを歩いていた。

「なあ浴衣、あのチラシ以外なんも変わったことないよな。俺ちょっと飽きてきたぞ!」

「浴衣もちょっと飽きてきた、だって何も手掛かり無いんだもん。朝は百合が出てきたから盛り上がったのに」

「浴衣はあの百合って人ほんとにどこから出てきたと思う?俺あれが不思議でしょうがなくて仕方ねーんだ!ほんとにお化けかもな!」

 ハッハッハッと涼が冗談ぽっく言う。

「ちょっとそんなこと言わないでよ、浴衣がお化け苦手なの知ってるでしょ!」

「大丈夫だって、そんなことないからさ!それにお化けだったとしても、百合はいいお化けじゃん!」

「そ、それはそうだけど……」

「よし!この話終わり!お化けの話してごめんな!ほら見てみろって、でっかい入道雲だぞ!」

 涼が指差すその先には、この暑い夏を包み込んでしまいそうなほど大きな入道雲があった。

「いや、会話へたくそか!そこまでお化け嫌いな子供じゃないわよ」

「そっかそっか!じゃあ今度みんなで肝試しでもやりたいな!」

「やりたくないわよ!」



[頭脳派コンビの周辺調査]

 頭脳派コンビこと、夏葵とあやめは砂浜を歩いていた。

「ねぇ夏葵、飽きた……」

「あやめさんも同じこと思ってくれててよかったです。実のところ僕も飽きていたんです。こんなにも手掛かりがないとは思いませんでした…。浴衣さんと涼くんはよくチラシ見つけれましたね」

「もう帰る?」

「あやめさん帰りたがっているのバレバレですよ?」

「だってさっきから歩いてるだけだし」

「それもそうですね、凪くんの家に戻りますか?」

「うんそうする。あ、でも夏葵に一個聞きたいことあったんだ」

「僕に?一体何でしょう」

「実際のとこ百合のことどう思ってる?」

 急に止まって聞く。

「なるほど、百合さんのことでしたか。そうですね、いい子だと思いますよ」

「違う、正直に」

 目をじっと見つめる。

「う…あやめさんには嘘はつけなせんね。僕、ほんとは怖いです。彼女は僕たちの前に急に現れて、そしてこの終わらない夏はその彼女が原因、さらにこれから一緒に行動する……。みんながすんなり受け入れすぎなんです……。はい、これが僕の本音です。隠していてすいません」

 本音を隠していた申し訳なさと、それを言えた安心感で複雑な表情になっている夏葵を見てあやめが口を開く。

「私も」

「え?」

「だから、私もって」

「そうでしたか…だから聞いてきたんですね」

「あまり驚いていないね」

「ええ、どんな時もしっかり屋さんのあやめさんがそんなすんなり受け入れるとは思いませんでしたから」

「分かってるね」

「もちろんです」

「じゃあもう一つ聞く」

「もう一つ?何ですか」

「百合とバイバイしたい?」

「そ、それは…したくないです。なんでかわからないですけど百合さんとは一緒にいたほうが良さそうなんです」

「そうなの。私も受け入れられないのに、なぜだか一緒にいなきゃいけない気がしてるの。さっきも一緒にキッチンに立ってるとき、不思議だけど女の子三人でいるのが当たり前のような感じがしたの」

「僕も六人でいるのが当然のように感じました。この気持ちは何なんでしょうね。」

「夏葵、私たち二人はこの夏が終わるまでにその気持ちは何なのか調べよ。きっと百合とこの夏に関係があるよ、だから私はまず百合のことは受け入る」

「はい、僕もそれに賛成です。このことは誰かに言いますか?」

「まずは私たち二人だけで進めよ」

「はい!」



[凪百合コンビの周辺調査]

 チリリン…チリリン…

 僕たち二人は風鈴の鳴りやまない住宅街をさまよっていた。

「びっくりするほど何もないんだけど…いつも通り過ぎる」

「ま、こーゆーのんびり歩くのもいいじゃん!ね?」

 百合が同意しろと言わんばかりに顔を覗き込んでくる。

「はいはいそうだね」

「こらー!思ってないでしょ!」

「思ってないが?」

「はぁ⁉認めたんですけど!ありえない!」

 目を見開いて言う。

「百合は何か知ってるんじゃないのか?何かおかしいとことか心当たり無いのか?」

「んーそりゃあるっちゃあるけど、全部言ったら面白くないでしょ?」

 百合があざとく人差し指を立てて唇に当てる。

「おい謎多き女、謎が多すぎると嫌われるぞ?」

「ごめんって!あるって言ったけど実際私もあんまり知らないの!」

「じゃあ少しは知ってるってことじゃん」

「んーまあ、そゆことになるね」

「それは何なんだ。教えてくれ」

「ヒントだけなら!」

「この不思議な現象をクイズ感覚で楽しむな!」

「ヒント、意外に身近に何かあるかも?」

「それは百合のことだろ」

「おっと、いきなり正解!」

「バカにしすぎだ!百合がこの夏を終わらす鍵だってことぐらい知ってる。でもそもそも百合のことだって全然わかんないし、さっき会ったばっかだし。ほんと百合は謎すぎるんだよ」

「おっと、それは不正解だぞ!」

「え、どういうこと?」

「この夏を終わらす鍵は私じゃない、君たち!」

「僕たちが何かすれば夏は終わるのか?」

「そんなところ~」

「あー余計分らん!そもそも百合は何者なんだ!どこから来た!なんで夏を終わらせない!全部が分からない!」

「楽しんでくれててうれしいな~!」

「またクイズ感覚で楽しんでやがる!」

「さあ、散歩の続きしよっか!」

「もう散歩って言っちゃってるし」



 みんな飽きたからなのか、情報が無かったからなのか真実はわからないが僕たちが家に着いた時にはもうみんな帰ってきていた。

「みんな早いね」

「凪たちは遅かったじゃねぇか!」

「途中からはただの散歩になってたけどね」

「さあ、みなさん情報共有は後です。暗くなる前にお泊りセットを家に取りに行きましょうか」

 夏葵の声でみんなが一旦家に帰った。


 賑わっていたリビングが静まり返ると思えば今度は、窓からオレンジ色の光と共にヒグラシの音が入場し賑わい始めた。

 無性に海が見たくなり、蒸し暑さの世界へ踏み出す。

 家の前の海は昨日と同じオレンジ色に輝き揺らめいていた。

「あれ、あそこにいるのは百合か?」

 昨日と同じような光景、美しい眺めなのになぜだか儚げな目をしている彼女。

「え、涙…」

 昨日とは違う。百合は涙を流していたのだ。

 声をかけようとしていた自分を押し殺し家に戻ることにした。


 数分経った頃みんなが続々と戻ってきた。

「あれ!私が最後⁉」

 なんとすぐそこで海を見ていた百合が最後だった。そして不思議だったのはみんなは海を眺める百合の姿をみんなは見てないというのだ。

「どうしたの、凪」

 急にあやめが話しかけてくる。

「ああ、いやなんでもない」

「ならいいんだけど、何か悩んでるなら言ってよ?」

「うん、ありがとう」


 それから僕たちは男女に分かれてお風呂に入ってから夕飯を食べた。

「みんなで食べるカレーは格別だったな!」

 涼が嬉しそうに話す。

 今日の夕飯は急に人数が増えたことで簡単に多く作れるカレーが選ばれた。もちろん僕たちではなくお母さんが作ってくれた。

「じゃあ情報共有といきますか。まずは僕たちからと言いたいところですが、すみません。何も発見することはできませんでした」

「私たちは砂浜を歩いてたんだけど、特に変わったものはなかった」

 夏葵とあやめが申し訳なさそうに下を向く。

「俺たちも何も見つけてないから大丈夫だぞ!」

「そうなの、全然手掛かりらしいものがなくて浴衣たちすぐ飽きちゃったの」

 涼と浴衣もありのままのことを話す。

「そうですか、ならよかったです。少し安心しました」

 夏葵がホッと胸をなでおろす。

「次は凪くんたちですが何かありましたか?」

「僕たちも何もなかった。力になれなくてごめん」

「凪がもっと真剣に取り組んでいれば見つかったんだろうけどね~」

「おい、どの口が言ってるんだ?途中からただの散歩にしたのはどこの誰だ!」

「えー?私知らないよ~」

 百合がわざとらしくとぼける。

「みんな手掛かりなしですか…」

「いや、一つだけあるよ」

「何ですか凪くん」

 自覚なさそうな人に指を差す。

「えっ私?」

「当たり前だろ!百合は怪しすぎるんだ。まだ隠してることありそうだし」

「あちゃー!大丈夫だっていつか全部わかるからさ!」

「本当なんだろうな」

「ほんとほんと!」

 信じてよと愛くるしい子犬のような眼をしてくる百合。

「確かに百合さんは一つの手掛かりですね。今日の収穫は百合さんと夏祭りということで」

「なんか収穫って言われると複雑な気持ちなんですけど!」


 情報共有をした後はみんなでゲームしたりトランプしたりして遊んだ。

 時刻は二十一時を回ったころ明日に備えてもう寝ることにした。

「無事みんなで明日を迎えられることを願っています」

「明日なんて来るに決まってるぜ!」

「じゃあ電気消すよ、みんなおやすみ」


「「「「「おやすみー!」」」」」


 部屋が静まり返る。

 僕は明日のことを考えていたらなかなか寝付けなかった。

 修学旅行とかのこういった場面で話しかけてくるやつはいたがここにはいないようでよかった、目をつむっていれば寝れそうだ。

「なあもうみんな寝たか?」

「いた…いたよ、話しかけてくるやつ」

 僕は涼に聞かれないように息を殺しながら言う。

 そうえば修学旅行で話しかけてきたのって…。

「え、みんなほんとに寝たのかよ…」

 うん、絶対こいつ…涼だ。

「せっかく面白い話しようとしたのにな、はあ残念だ。明日何しよっかな、夏休みが続くのってなんか楽しいな。ワクワクが止まらねぇな」

「「「「「涼、うるさい!」」」」」

「なんだみんな起きてんじゃねぇか!面白い話が…あって…よ…」

 涼は嬉しそうにニコッと笑うと充電が切れたかのように、寝た。


「「「「「え…?」」」」」

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終わらないこの夏に、儚く脆い君に出会う。 @tokoyo_tuduri

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