若芽の罪
九戸政景@
若芽の罪
きっかけは一つの言葉だった。
「ん……なんか応援メッセージ来てるな」
小説投稿サイトのマイページに寄せられていた一つの応援メッセージ。それは作品と作者に対する賞賛だった。
「これは嬉しいな……あ、よく見たらこの人って書籍化してる人じゃん! そんな人に認められるなんて嬉しいな」
それが励みになって作者は次々に作品を書いた。その度にそのユーザーは応援し、作品をの思想も肯定した。その内に作者は助長して、少しずつ態度も横柄な物へと変わっていった。
『あの人、なんか変わったよな』
『作風も変わって色々粗が目立つし、読むのイヤになってきたかも』
『俺、離れるわ』
『それじゃあ私も』
一人、また一人と作者から離れていったが、作者にとって支えは一人のユーザーだったため、作者はその言葉だけを信じて書き続けた。そうして読者がいなくなった頃、作者は書店である作品を見つけた。
「ん、あの人の新刊か。タイトルは……“若芽の罪”か。いっぱい応援してもらってるし、俺も貢献しないとな」
作者はうきうきしながら若芽の罪を購入し、帰宅してから読み始めた。
「へー、主人公はアマチュア作家なのか。あー、たしかに読まれないと不安になるよな。まあ今の俺にはこの人がいるからいいんだけどさ」
読み進めていく内に作者の顔色が悪くなっていった。自身の身に起きている事と同じ出来事が作中で起きていたからだ。
「な、なんだよこれ……これじゃあまるで俺自身がこの作品の主人公じゃないか……!」
恐怖を感じながら作者は読み進める。最後のページまで来た瞬間、そこには悲観した主人公が絶望する様子と主人公をサポートしてきた登場人物の独白が書かれていた。
「『やっぱりそうだった。必死になってる奴程、名声には弱い。それを実験したくて声をかけたけれど、思った通りの結果が出てボクは満足だ』」
本を閉じた瞬間に作者の目から光が失われた。
「そうか……これがこの人なりの答え合わせだったのか。はは……けっきょく俺もこの人の描く世界の登場人物にすぎないんだな」
作者は絶望しながら崩れ落ちる。その姿は作中の主人公と同じ姿だった。
若芽の罪 九戸政景@ @2012712
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