第45話 ブブからの視点

 ハエをモチーフにしたかわいげある見た目のブブは上空から学校全体を鳥瞰していた。

 黒い煙はすでに出尽くしたのか影も形もなく、ブブの場所からは現場の状況がよく見て取れた。

 だからこそわかった。あいつがいま東校舎の屋上で現場の惨状を高みの見物としゃれ込んでいることが。

(なぜあいつが……、神野郎……)

 昨日見た忌まわしいあの顔を忘れるほどにブブの脳味噌は小さくない。真上からの視点だったとしてもあの体格とそこから放たれる禍々しいオーラを間違えるほどブブは耄碌していない。

 いま中庭ではハンニャとビルデがサシで拳を交えていた。中立をモットーとする審判でなくても二人の闘いは拮抗しているように見えただろう。

 しかしそれはビルデが闘い始めて一分と経っていない今だからこそ言えること。もしこれがあと三十秒も経てばそこで立っている者は一人だけになるかもしれない。それは体力が大きな要因だ。悪魔妙薬を摂取してから五分は体力という概念がなくなり人を殺戮するヒューマノイドと何ら変わらない。

 ブブはハンニャが一つ目の悪魔妙薬を摂取した場面をギリギリ視界にとらえていたからその状況はまだ理解できた。

(さっきサタン様と大門鈴鹿含む女子二人が西校舎の体育館の方へと飛んでいった。おそらく避難だな。そしてその後、天谷神二は悪魔妙薬を取り込んだこの男とやり合い、西校舎にふっとばされて敗北。今はビルデ様が交戦中。薬の時間があとどれだけ持つのかはわからないけどビルデ様が負けることなんて……ないだろうが……。そして今東校舎屋上で神が高みの見物。この状況を考えてみると大門鈴鹿を殺しに来たこの男は神の手先と考えていいだろう。だがそれなら同じく神の手先である天谷神二と闘うというところが矛盾してくる。仲間割れか? いや天谷神二はもう用済みということか? ああ、もうわかんない)

 ブブは頭を悩ますことしかできなかった。

もう少し自分に力があれば東校舎にいる神に不意の一撃でも入れてやれるというのに。ブブは自分の非力さを嘆いた。

 その時、気づいた。東校舎屋上にいる神の少し後ろで人が倒れている。。その人影は何か武装をしているようにブブには見えた。

(警察……とかか。でもなんで一人だけ……)

 ブブはそんな疑問を抱いた。

するとブブの視界に入る神は懐をごそごそと漁り無線を取り出したかと思うといつかのように姿を変えた。しかしそれは昨日みたく大門鈴鹿の姿ではなく、傍らで倒れている詳細不明の人間の姿と同じだった。衣服までもそのままに。

 そしてそいつは無線を口元に寄せ、

『未だ状況に異常なし。そのまま待機せよ』

 と、どすの利いた男の声でそう言った。

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