第44話 ポジティブか強がりか
およそ五分前。ビルデたちが北校舎に闖入してきたその時、屋上では、
「どうしよ、どうしよ、三人が下に入ってきたんだけど」
鈴鹿は少し慌てていた。
それをサタンは宥める。
「大丈夫だよ、この屋上には来ないと思う。もうすぐあの薬の効力が切れる頃だから」
「え、あの薬って悪魔何とかだよね? あの飴玉みたいな奴だよね? え、制限時間とかあるの? あれってなんなの?」
好奇心旺盛鈴鹿はクエスチョンマークを忌憚なく使う。だがついさっき麗華にした説明を再びするのが億劫と感じたのかサタンは、
「あとで教えるよ」
とだけ答えた。
「とりあえずここから離れよう。巻き込まれたらたまったもんじゃない」
そういうとサタンは二人を抱えた。麗華も鈴鹿もそれに抵抗することはない。今の状況では二人もそうするしかないことがわかっていたからだ。
「とりあえず、ひとけのない場所に行こう」
「それなら西校舎と体育館の間がいいかも、あそこなら隠れる場所多いし」
「よし、じゃあそこだね」
サタンは黒い翼を大きくはためかせ鈴鹿の案内のもとその場所へと降り立った。
この距離からでも三人が交戦している音が耳朶を打つ。
サタンは二人を降ろし、隠れられそうな場所を探した。その場所はさっきの部室棟裏とよく似たつくりをしていて、鉄の棒や段ボール箱なんかがあちこちに置かれていた。
まあまあの大きさの物置があったので二人をここに押し込めようとサタンはその扉を開けた、と同時に鈴鹿も体育館の入り口をガラガラと開け放った。
「こっちの方が広いからこっちに隠れよう」
どうやら大門鈴鹿という人間は好奇心旺盛だけではなく自由奔放という言葉もよく似合うらしい。
鈴鹿と麗華は靴を脱ぐことも忘れその中に入っていった。女子二人が隠れるにしては随分と大きな箱だが、おそらくもうそろそろ戦いの決着がつくだろうと考えていたサタンにはどうでもよかった。
「じゃここに隠れていてね。僕はあいつらの様子見てくるから」
そう言うとサタンは扉を閉めて、北校舎へと飛び立った。
二人は体育館に残され、だだっ広い内部を見回す。
いつもは何百という生徒でひしめき、ガヤガヤとうるさいイメージがついていた体育館がしんと静まっているこの情景は鈴鹿にとって新鮮だった。
「んー!」
そんなリラックスした声を出して鈴鹿は体育館のど真ん中で寝転がり、体を伸ばした。それは深夜、車が通らない大きな道路で大の字で寝ころぶ酔っ払いと同じ心理だったのだろう。
しかしその心理を理解できるものは少ない。麗華もその一人である。
「ねぇ、なんでそんなに楽観的でいられるの?」
寝転ぶ鈴鹿の隣に麗華は体育座りする。
「んー、なんでって言われてもなー」
鈴鹿は天井に引っ掛かっているバレーボールを見ながら、
「そりゃさ、いきなり悪魔だ何だ、偽物が現れただとか、薬だとか何だ言われて頭こんがらがっちゃってるのは事実だよ。でも今それに頭を悩ましても意味ないしね。分からないことや知りたいことがあれば後であいつらに訊けばいいんだし。…………やっぱり麗華はそういうファンタジーっぽいのは受け入れられない?」
上体だけ起こして鈴鹿は眉を曇らす麗華に訊いた。
鈴鹿の笑顔はどことなく強がりのように感じた。もしかしたらあっけらかんとしているこの鈴鹿も自分と同じく不安や焦燥が胸にあるのかもしれないと麗華は思った。
それを読み取ったのか麗華は、
「そうだね」
と、これまた強がりな笑顔で首肯した。
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