第32話 大変だ

 犯行予告なるものは事件が起こる何時間か前に警察署内に送られてくるもので、それは捜査の攪乱や、ただの犯人の自己顕示欲を表しているものと言ってよい。だからこそその文書が送られてくることは同時に警察官への動揺も付録としてついてくると考えてよい。

 そしてそれは定年間際の鈴木と山本も例外ではなく、本来であれば、『三時間後に学校を爆破する』と書かれている犯行予告が『五分後に学校を爆破する』と書かれていたことには衝撃を受けた。

 だがそれがどこの高校かの記載はなく、本部からすべての交番に一応の注意喚起はしていたもののまさか五分後にどこかの学校が爆破されるなんてないだろうとは警察本部の警視正すらも心の中で思っていた。

 なぜならそれはいたずらや愉快犯の可能性が高く、本当に学校が爆破されるのかは定かではなく、この手の犯行予告は過去にもいくらか前例があったからだ。

 もしこの文書がまた虚偽だったならば偽計業務妨害罪と罪状が付けられたのだろうが、この天高くくゆった煙を見た限りその罪状は書き換えられることになるだろう。と一介の警察官鈴木は思った。

「大変だ」

 鈴木は今の状況を端的に言葉に表した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る