第31話 黒煙
「ビルデ!」
その声に咄嗟に目を開ける。寝起きのビルデの目に飛び込んだのは心配そうにのぞき込むサタンの顔だった。
「どうしたの、うなされてたよ」
ビルデは自分が必要以上に息が上がっていることを感じた。まるで悪い夢を見ていたような感覚だった。しかしさっきまでのそれが本当に悪い夢だったのかは疑問だった。
はっきりと覚えている。あまりにも何もない夢だった。『無』という言葉すらもその夢に何かしらの特徴を付けてしまうほどにその夢には何もなかった。
初めての感覚だった、しかしそんなものに構っている場合ではない。
ブブが戻ってきている。それは同時に大門鈴鹿の所在を確認したということを意味していた。
「サタン様、心配いりません。少し疲れていただけです」
ビルデは空元気を見せつけるかのように立ち上がる。
「それよりブブ、大門鈴鹿の居場所は分かったのか」
「はい、見つけました。ただ、一つ問題がありまして――」
ブブは神妙な顔つきになる。
「なんだ?」
「ええ、実は――」
ブブはあの神の力の伝承者、天谷神二のことを話そうとした。
しかし――
ドンッ!
鼓膜だけでなく身体も、今三人がいるこのビルをも振るわせるほどの轟音が遠くのほうで唸った。
ビルデはその音源を見る。視線の方向、そこには闇蔵高校がある。
「な、に……」
闇蔵高校の校舎からは黒煙が立ち上っていた。天に上がるそれは何もかもを喰らう黒龍に見え、その煙を吐き出す校舎は地獄の針山を連想させた。
「今の、爆発だよね。誰が!? まさかあいつが!?」
サタンは焦燥感に駆られながら、手すりから身を乗り出す。
「くっそ!」
何が起こったかはわからない。しかし想定しえなかったトラブルが起きたのは確か。
ビルデは手すりの上に足をかける。そして黒い翼を背中から生やし、カタパルトで射出された飛行機よろしく黒煙へと飛び立った。
「ビルデ!」
ビルデの背中ははるか遠く、サタンの声は無情にも届かない。
「ああ、もう全部自分でばっかり!」
サタンもビルデを追うために背中から悪魔の翼を出現させた。
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