第30話 自分は一体

 深く深く沈み込む感覚。暗い暗い闇の中。どれだけ沈んだのだろうか。五分だろうか、一時間か、もしかしたらもう何年も沈み続けているかもしれない。しかしそれが下に向かってなのかはわからない。上に向かって沈んでいるのかもしれない。重力もない、浮力もない。方向という概念がない。

 真っ暗な世界。何も見えない、もしかしたら全てが見えているのかもしれないがそこは真っ黒な世界。いやもしかしたら黒でもないかもしれない。その世界には黒以外の色がなく、それが黒と呼べるほどに黒なのか比べることもできなかったから。

 人はそこに何かがあるという証明はできてもそこには何もないという証明はできない。なぜならそこには何もなく、それ以外の情報がないから。

 人は目で見て初めて何かを信じることができる。しかしその見えているものを見えていないと判断する生き物でもある。

 じゃあ自分はどうなのだ。見えているものを素直に見えていると言える人間的感覚を持ち合わせているのか。

 自分は誰だ。いやそもそもその疑問自体が間違っているのか。

 自分は何だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る