第24話 ナイフが振り下ろされる
真っ白なフェミニンコートをまとったこの女はおそらくどうやっても夜闇にまぎれることは不可能だ。それに開き直ったのか、まるで自分がどういう存在かを表現しろと言われた劇団員のように鼻歌を鳴らし、スキップしながら自らをこの世界で際立たせていた。
時刻は午後九時。
月と星のスポットライトが小柄な女を照らす。栗毛色の髪は歩くたびに妖艶に揺れる。それは、自分はかわいい、自分は綺麗だ、と言外で語っているようにも見えた。
女が歩くその道は人通りが皆無だった。
だが女の背中を見る男が一人。鬼のような形相にも見えるが正確に言うとその男の顔はハンニャの面そのものだった。
女が歩くと、その歩調でまた男が付いていく。それはまるで共に人生を歩む劇団員の一人に見えたかもしれない。だが男の右手にはキラリと光る小道具が。
その切っ先が女の背中に向かっていく。
低いトーンで絶望を想起させる音楽は流れない。あるのは静寂というBGM。
その切っ先は確実な前進を見せ、躊躇というウエイトを付帯させない。
絶対的な死が女の背中に迫っていた。
少しずつ、徐々に、正確に背中をとらえる。
そして男はその切っ先を女の背中へと突き立てる。
底がない漆黒の静寂を破ったのは肉を裂く鈍い音と甲高い叫び。
ハンニャの面が赤く染まった。
真っ白な少女の笑顔と共に。
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