第19話 魔界蠅ブブ

「くそっ!」

すぐに考えつくことだった。ビルデの目の前に神の力を持った天谷神二が現れたというのならサタンの方にも別の刺客が現れていてもおかしくはない。

ビルデは考える。

(なぜあいつがウザったい口上を述べていたか、俺が聞いてもないようなことをベラベラ喋っていたのかが今ではよくわかる。あいつは足止め役だったんだ。俺をサタン様のもとへ行かせないための。……いや、しかしちょっと待て)

ビルデはその考えに矛盾を見つけた。

(だとしたらなぜあいつは今俺を追ってきていない)

 ビルデは後ろを見て見る。そこにはただ雨が降りすさぶ情景だけがあり、神二が自分を追っているようには見えなかった。

(さっきのあいつの尾行は姿こそ隠せていたもののあふれ出る殺気は隠せていなかった。だが今はそれは感じられない。いやもしかしたらさっきの下手な尾行はいま尾行されていないと思わせるための布石だったのかもしれないがそこまでの奸計を思いつくほどにあいつはかしこそうには見えなかった。ならばなぜ追ってこない。もしかして足止めが本当の目的ではなかったのか。だとしたらあいつの目的は一体何だったんだ)

 ビルデの頭の中にはクエスチョンマークが台風のように渦を巻いていた。

 だがいま頭を悩ませていても無駄だと思い、ビルデは懐から携帯電話を出す。

 先ほど神二から離れた直後、ビルデはサタンに電話をした。当たり前だが無情にも電子音が鳴るだけで持ち主の声を聴くことはなかった。

 音が聞こえないほどの抗戦をしているのだろうか。いやそれ以前に音が鳴る設定にしているかも怪しい。

 ビルデは折り返し連絡のない携帯をしまい、その代わりに小さなビンを出して蓋のコルクを抜いた。

 そこから一匹の黒い点が待ってましたとばかりに外に出てきた。と、思ったらボンっと煙を立ててその黒点はこぶしほどの大きさの生き物になる。かわいいキャラグランプリに出場すれば二位とダブルスコアの大差で一位を取れるんじゃないかといった風貌のかわいらしいキャラクター。

「はい、なんでしょう。ビルデ様」

 そのかわいいキャラはハエという設定を守っているのか、敬いの念が出ているのか揉み手をしながらそう言った。

「魔界蝿ブブ、俺をあの女のもとへ連れて行ってくれ」

「了解しました!」

 ビルデがそう言うとブブは全方角を一通り回り、

「こっちです」

と言ってある一方向へと飛び立った。

 ビルデもブブを見失わないようについていく。

 雨の勢いはまだとどまることを知らない。

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