第17話 人外な女

 サタンはその双眸を見た瞬間にしばし逡巡した。この広大な漆黒の背景から一瞬でサタンの姿を見つけたこともさることながら、またその目には人ではない邪悪なものが宿っていると感じたからだ。

 この佐藤優子という女は大門鈴鹿に関係する女、もしくはその本人と考えていた。だがこの奸悪な目を見た瞬間この女が人ではない何かと定めるのにそう時間はかからなかった。

 明らかな人外、こちら側の何か。

 ビルデが天谷神二に抱いたその感覚と同じものをサタンは覚える。

 サタンと橋の距離はおよそ五十メートル、それは同時に佐藤優子との距離を表していた。

 時間にして二人が目を合わせていた時間は三秒もなかったが、サタンの体感ではそれ以上だった。

 一瞬、ただの一瞬だった。その一瞬で、サタンは知る。戦いとは目を合わせた時点で始まっているということを。

 まばたき。はたから見れば仮面をかぶったサタンの目など見えない。目を閉じたかどうかなんて確認なんてできない。

 だが必然か偶然かその一瞬のスキを突かれた。

 瞼を再び開いたとき、そこに女はいなかった。

 消えた。そう思う間もなく後頭部に衝撃が走り、勢いよく流れていた下方の濁流はモーゼがどん引きするほどの割れ方を見せた。

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